表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
68/539

鑑識からの質問  弐

「解らない事ですか…… それはどのような事でしょうか?」


 良基が声を上げる。


「いやいや、先程ご一緒に上まで行かせて頂きました際に、貴方が天井板を外されているのを拝見したものの、いざ私共で天板を外そうとしてみたのですが、困った事に上手く出来んのですよ」


「はあ……」


「えーと、改めて側面に配された階段を伝って仏殿の天井裏に上がってみた所、天井の構造は格子型の梁で天井の骨組みを形成しており、その格子型の梁で作られた桝目に天板が乗っかっているようにお見受けしました。更によく渡るであろう部分には梁の上に渡り板が乗せられ、その上を歩き移動出来るようになっていました。和尚が吊られた紐が引っ掛かっていた場所の近くにも渡り板が置かれ、簡単に行き来出来るようになっていました。そこまで行き着き、紐が掛かっている場所近くの天井板を外そうと試みたのですが、どうしてか上手く出来んのですよ……」


 そう説明しながら、鑑識の近藤が改まって質問する。


「そんな訳で、あの天板はどうやって外すかをお教え願いたいのですが……」


「ええ、梁に引っ掛かるようにして天板が載せられ並べ敷き詰められているだけですので、それを持ち上げれば開きますよ」


 良基が答えた。


「なるほど…… 単純に持ち上げるだけと……」


 続けて鑑識の近藤は首を傾げながら質問する。


「それでは、駕籠を天井から吊り下げ、今回の事件の時と同じような状態にするにはどうすれば良いのでしょうかね?」


「それはですね、まず籠を下ろす予定部分の天板を二枚外し、その間に位置する梁にロープを引っ掛け、片方をずっと下の床まで降ろしていき柱に結び付け、もう片方は駕籠に結び付けるのです。それが出来たら駕籠をゆっくり降ろせば、あの時の状態、お身拭いの状態になりますよ」


 良基の説明に鑑識の近藤は少し考えてから質問を口にする。


「普通ですと、拭き手は駕籠を降ろしてからロープを伝い駕籠まで行かれるのですか? それとも駕籠に乗せたまま下へと降ろすのでしょうか?」


「降ろすといってもロープが利いていますから格子から数メートル程の所まで下がるだけですよね? なので両方の場合が行われます。伝って降りる場合は気を付けながらロープを伝って駕籠に乗り込み、補助がいる場合は駕籠に乗ったまま、補助者達にゆっくり数メートル下まで降ろしてもらうと……」


 良基が答えた。


「という事は今回に関しては、和尚が自ら乗り込んだとは思えませんから、犯人と思しき人物が良弁和尚様が乗った駕籠を数メートル下まで降ろしたという事になる訳ですか?」


 近藤の問い掛けに良基は頷いた。


「そうですね、そもそも良弁様が駕籠に乗られる事は、まず日常ではありえませんので、恐らくそうだったのではないかと思います……」


 良基の答えに、近藤は頭を少し掻いてから質問を口にする。


「続いて、あのロープの張り方に少々疑問が残る部分があるのですが、なぜ梁に引っ掛けて、態々柱までロープを導き結びつける必要があるのでしょうか? 梁に引っ掛けているならば梁の強度自体には問題がないという事になりますよね? だったら態々柱までロープを引いて結び付けなくても梁自体に結び付ければ済む事ではないのでしょうか? 高さを調節しながら降りてこられる機巧も付いている事ですし……」


 近藤はまだまだ理解できないといった顔で質問する。


「ああ、その事ですか、古く奈良の方で行われていたやり方が、その梁に引っ掛けて柱に紐を結び、柱の傍に立つ人間が引き上げたり降ろしたりしていたので、そのやり方を踏襲しているのです」


「奈良でのやり方の踏襲ですか?」


 近藤が質問する。


「ええ、それとあの滑車の留め具を使用したお身拭いでは、下がる事は出来ても、上へ戻る事が出来ませんよね?」


「ええ、確かに……」


「補助がいる場合は再度ロープを引き上げ、拭き直しをさせる事もありますので、その張り方をしているのでございます。伝統あるやり方を出来るだけ継承していこうという部分もありますが……」


「なるほど、なるほどです。そういう事ですか…… 大凡理解出来ました」


 ようやくある程度把握出来てきたのか、近藤は頷き返事をする。


「しかし、そういった方法で駕籠の上に良弁和尚様を乗せ、法剣の上にその駕籠を落とし殺害するとなりますと、相当、面倒で大変難しい所業になってくると思われますね……」


 近藤が表情を険しくした。


「恐らく良弁和尚様は睡眠薬を飲まされた上で、寝ている状態のまま籠まで運ばれ籠に載せられたのではないかと推測します。起きていれば素直にそんな駕籠の上に乗るとは思えませんからね」


「そうですね」


 良基が頷く。


「改めてですが、寝ている和尚様を担ぎ天井裏まで登り、駕籠の上に和尚様の体を乗せるという行為は相当難儀なのではないかと思われます。更に、あの開け閉めが面倒な大仏殿の大扉を開けて閉じるまでを行った訳ですから、それだけの行為を全て行うに当たっては相当な時間を要する事でしょう。一時間以上はゆうに……」


 確かにちょっと想像しただけでも相当な労力が必要そうだった。


「まあ、天板をどかした部分から急いで良弁和尚様を投げ落としたと考えれば、多少労力を少なく時間を短縮もできますが、それでは命中率の問題も出てきて、法剣に上手く突き刺さるか解りません。想像するに一度数メートル下の中空に駕籠をぶら下げて揺れが収まってから、棒か何かで下側に位置する金具の留め具を解除して下に落下させた可能性が高いのではないかと……」


 鑑識の近藤は腕を組み困惑した顔で呟く。


「う~ん、因みになのですが、この留め具なのですが、時間が経過すると緩んでくるような機功があるなんてことはないですよね?」


 近藤が頭を掻きながら質問する。


「いえ、そんな機能なんてありませんよ、それに、その場合ですと徐々に紐が長くなる訳ですから、勢いが弱すぎて突き刺さらないんじゃないですか?」


 良基が答えつつ逆に質問する。


「まあ、確かに徐々に緩んできたらそうなりますね……」


 近藤は時限装置的な機能の有無を探っているようだ。


「となると発見された時は、その留め具は緩んだ状態だったのですか?」


 良基が質問する。


「いえ、留められた状態になっていましたが……」


「なら留め具は関係ありませんよ、あの留め具は人の手を介さなければ、緩んだり締め付けたり出来ない代物ですから……」


「そうですか…… それじゃあ、どのようにやったんでしょうかね?」


 鑑識の近藤は理解できないという表情で良基に聞いた。


「そ、そんなの、私に聞かないで下さいよ! 私にだって、わ、解りませんよ、解る訳ないじゃないですか!」


 良基は首を横に振りながら答えた。


 いずれにしても、鑑識隊にもどうやって今回のような事を行ったかは、全く見えてこないといった感じだった。


「……まあ、一応、どのように天井から大仏の上部へ至り、どのようにあの駕籠に乗って降りてくるかは解りました。確認したかった事は以上です。皆さんご協力有難うございました」


 近藤が我々に対して頭を下げ、皆の正面から外れた。


 いつの間にか土方警部は戻ってきていたようで、鑑識の近藤と入れ替わるように土方警部が我々の正面に立った。


 ふと見ると、土方警部の手には何か書類のような物が握られていた。


「えーと、皆さん鑑識へのご協力感謝いたします」


 土方警部は小さく頭を下げた。


「さて、近藤が説明をしている間に、県警の方から新たな情報が入って参りましたので、その点に関して説明をしていきたいと思います」


 土方警部が声を上げる。


「……えー、まず、行方が解らなくなっている生田友則という人物の身元確認を行った所、そのような名前の人物は記載の住所に住んでいない事が解りました」


 皆の顔に緊張が走る。


「その上で生田友則という名前の人物が埼玉県所沢市に住んでいないかも調べてみた所、該当する人物は居りませんでした。つまりこの人物の名称は、やはり偽名の可能性が高く、身元を隠して宿坊体験に紛れ混んでいたようです」


 土方警部の説明に皆がざわめきの声を上げた。


「身元を隠してこの寺の宿坊に紛れ込む…… 何の為にそんな事をしたのか? その目的に関しては、こういった状況を踏まえまして、やはり正体不明のまま良弁和尚を殺害する事にあったのではないかと考えられます。その点を踏まえまして警察としては、その生田友則、恐らく偽名であろう人物の犯行の可能性が高いと想定して捜査を進めていきたいと思います」


 そう説明した土方警部が、再度鋭い視線で私達を見た。


「……ただ妙な事に、宿坊体験の人間で、もう一人身元と合致しない方が居りました……」


 武藤京子が訝しげに私、中岡編集、間宮と石田老人の顔を覗き込む。


「まず武藤京子さんは神奈川県横浜市にお住まいとの事でその確認が取れました」


 武藤京子は当たり前だと云わんばかりの顔で頷いた。


「続いてお付き合いされている大谷正志さんは静岡県掛川市にお住まいとの事で、こちらも身元の確認が取れました」


 すぐに土方警部は石田老人に視線を送る。


「石田源吉朗さんは、群馬県桐生市にお住まいとの事で確認が取れました」


 そして、土方警部が私に視線を送ってきた。


 その際、何故か微かに笑った。


「坂本亮子さんは東京都品川区の土佐藩御抱屋敷近くの南大井にお住まいとの事で確認が取れました」


 そ、その、土佐藩御抱屋敷近くっていうのは要らなくないか? 品川区お住まいだけで良いじゃない。


 意味の無い過剰な説明に私は少し憮然とする。そんな説明を聞いていた中岡編集は何か思うところがあるのか不敵な表情を浮かべ土方警部を見詰めていた。


 続いて土方警部が中岡編集に視線を送る。


「中岡慎一さんは東京都千代田区の有楽町にお住まいとの事で確認が取れました」


 土方警部は中岡編集の説明の際には余計な事は云わなかった。


「土佐藩上屋敷近くだが……」


 中岡編集がぼそりと呟いた。


 土方警部は一瞬はっとした表情をみせる。そして二人は再び視線がぶつかった。


 土方警部はすぐに我に返ったような顔で、間宮の方へ視線を移した。


 しかし、間宮は俯き視線を合わせない。


「間宮正治さん、岐阜県各務原市にお住いとの事ですが、そのご住所、その市に間宮正治さんのお住まいの形跡がありませんでした。これは一体どういう事なのでしょうか?」


 土方警部は訝しげに視線を向け続ける。これは土方警部だけでなく僧達も振り返り、私達も横目で間宮を見た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ