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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
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大仏殿内の惨状  弐

 私は恐る恐る目を凝らし、その何かを仰ぎ見た。天井から紐が伸びその紐の先には籐で編んだような平たい笊のような物が結び付けられていた。その笊の上部には、手すりの役割を担う為なのか、竹で出来た柵のような物が付いていた。


 印象としては丁度風呂やなどにある脱衣籠を大きくしたような感じだ。ただ脱衣籠にしては上部の竹で出来ている部分の隙間が広く十五センチメートル程の間隔が空いていた。


 その竹と竹の隙間から手足、頭を出した人の姿が見えている。そして、底になる笊ごと、その人間は鈷剣に腹部を貫かれていたのだ。


 当然の事ながら鈷剣は人が持つ大きさではない。大仏様の前に飾られているからには大仏様が持つ大きさに作られている。全長は十メートル程あり剣の部分は八メートルにも及び、その剣の部分の上から三分の二辺りの位置に誰かが刺さっているのだ。


 私はあまりの光景に声が出なかった。


 そして、呆然とその光景を見つめていると、私の斜め後ろから悲痛な声があがった。


「う、うわああああああああああああああ! 良弁さま、良弁さ……ま……」


 その声は良基のものだった。


 良基も口を半開きにしながら、その凄惨な光景に視線を送っている。その口は恐怖に慄きわなわな震えていた。


「な、なんだよ、こりゃあ……」


 良弁大僧都に対し不敵な視線を送っていた間宮でさえも、目を見張り驚愕した様子でその光景を見つめている。


「こ、これは酷いな……」


 中岡編集も眉根を寄せつつ呟いた。


「……うっ…… あっ…… で、でも…… ど、どうしてこんな事が……」


 私も何とか声を出すも、それ以上の言葉が続かない。


 あの笑顔の老人さえも、笑顔が消え真顔になって、その光景を只々見上げていた。


 とにかく恐ろしい事態だ。

 

 天井から吊るされた笊の上に良弁大僧都がうつ伏せになり手足を広げ、その笊の中央に金剛杵の剣先が突き刺さっているのだ。そして、真っ赤な血が滴り落ちている……。


 どうみても串刺しになっている。どうみても手品のような代物とは思えなかった。


「し、しかし、どうやってあんな状態に?」


 カップルの男性側、大谷正志が唖然上を見上げながら呟いた。


 私はその言葉を耳にして、改めて何故という思考から、どうやってという思考が生まれてきた。


 そして、周囲の状況に関して少しづつ意識が働く。


「あ、あの、り、良基さん、大仏殿の扉は今の今開けたのですよね? 私達が来る前に開けられたとか、開けていたとかという事は無かったですか?」


 私は思わず質問した。


「いえ、開けていませんよ」


「わ、私達が来る前に下準備として開けていたという事は?」


 もう一度聞く。


「あ、ありませんよ」


 良基は焦り気味に答えた。


「じ、じゃあ、良基さん、この大仏殿には、私達は入った正面の戸以外に出入り出来る場所はあるのですか?」


 私は本能なのか生じる疑問を続けざまに質問してしまう。


「えっ、ええ、ありますけど、内側から閂で開かないようにしています……」


 良基は金剛杵に突き刺さった良弁から視線を外さずに答えた。


「それは何処に?」


 私は質問する。


 その質問に良基は顔は向けず左右に指を向けながら答えた。


「ち、中門から続く回廊がこの大仏殿に接する部分に戸があります……」


 大仏殿の中は大分朝日が差し込んできた為か、私達の目が薄暗さに慣れてきた為か随分奥まで見通せるようになってきている。 


 私は教えられた大仏殿と回廊の接続部に視線を送ってみた。


 そこには一間程の戸が二枚設けられていて、その二枚の腰辺りの高さの部分に太い角棒が横真一文字に嵌め込まれていた。反対側の戸側へと視線を走らせると、そちら側にも同様に十平方センチメートル程の太さの角棒で閂錠が掛けられていた。


「は、早く、良弁様を降ろしてさしあげないと、まだ、生きてるかもしれない……」


 良基がそう云い出して、天井から斜めに大仏殿の太い柱に結び付けられているロープの方へふらふらと歩き出した。


 良基はそう云うものの、私の目には良弁大僧都が生きているとはとても思えなかった。 


 それより、私にはこれが殺人事件だということ、また、不用意に状況を弄ってはいけないという事が頭を過ぎる。


「り、良基さん、動かしては駄目ですよ。それより何より警察を呼ぶ事の方が先決です……」


 良基は呆けた様子で振り返る。


「……ざ、残念ですが、良弁さんはとても生きているとは思えません。この場合一刻も早く警察を呼ぶ事が必要ですよ」


 私は真剣な顔で云った。


 良基が泳いだような目付きで、傍にいたカップルや間宮、中岡編集に視線を送る。間宮やカップル、中岡編集も私と同様の意見のようで、小さな頷きをしてみせる。


「……警察…… 警察ですか……。そうですね…… そうしなければいけませんね…… で、では皆さんはここで待機していてください。私は勧進所の方で連絡を取りに行ってきますから……」


「ええ、ここで動かずお待ちしています」


 私は返事をした。他の者も頷き返事をした。


 良基はふらふらと正面門から大仏殿の外へ出て行った。


 私と中岡編集、カップル、老人、間宮は只々その場で待機する。




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