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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
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大仏殿内の惨状  壱

 翌朝、私の寝ていた部屋の戸が叩かれ、寂抄尼の呼びかける声で起こされた。部屋の窓に嵌っている障子の外はまだ薄暗くかった。


「坂本様、ご起床の時間です。もう皆様、玄関の方にお集まりになられています。お急ぎ願いたく存じます」


 私は眠い目を擦りながら身を起こす。


「あっ、もうそんな時間ですか、す、すみません、すぐ用意しますから……」


「お急ぎ下さいませ」


 私は寂抄尼にそう伝えてから慌てて浴衣を脱ぎ捨て、枕元に置いておいた服に着替えなおす。


 昨夜不穏な気配を感じて眠りが浅かったのか、体が重く寝起きが悪い。それでも何とか着替え終わると、部屋を出て廊下を進み、戒檀堂の玄関まで赴いた。


 玄関傍には、寂抄尼とカップル、中岡編集、間宮の姿があった。そして少し離れた場所にはあの老人が……。老人は眠そうな様子は全くなく、相変わらずににこやかに微笑んでいた。老人になると早起きになるというのは本当らしい。しかしながら、あのマスク男の生田の姿はどこにも見えない。


「遅かったじゃないか」


 中岡編集が昨日のことを根に持っているのか、厳しめな顔で云ってきた。


「す、すみません、イライラして良く眠れなかったもので……」


 私は自分が眠れなかったことを、中岡編集のせいだと匂わせるように云った。本当は違うけど……。


「あ、あれ? 生田さんという方は?」


 私は中岡編集に質問してみた。


 その質問が聞こえたのか寂抄尼が私のほうへ顔を向けて言及してくる。


「……それが、お部屋の前にお手紙がありまして、まだ体調が良くならないとの事で、朝の勤行は見合わせたいと書かれていた次第でございます」


「そ、そうなんですか……」


 それがありだったら、私も朝の勤行を見送っても良かったかなと、一瞬、頭の中にそんな考えが過ぎった。しかし折角の体験である。私は首を横に振りその考えを打ち消す。


 外はまだ朝早い為、まだ太陽が顔を出しておらず、太陽が照らす空の明るさのみで薄明るくなっている状態だった。また、山間にある寺院なので、周囲には霧が出ていて視界が悪い。ただ霧の向こうに薄ぼんやりと浮かび上がる大仏殿はとても趣があり、美しく神聖そうな景色を作り上げていた。


 寂抄尼に引き連れられ、中門から続く回廊を潜り抜け、大仏殿の正面に広がる広場まで出ると、大仏殿正面に背の高い良基が立っていた。


「それでは朝の勤行は、良基の指示に従い行動して頂ければと思います」


 寂抄尼はそう我々に伝え、手を合わせ大仏殿に向かって一礼してから、戒檀堂の方へ引き返していった。


 我々はおずおずと良基の前まで歩みでる。


「皆様おはようございます。それでは朝の勤行をとり行いたいと思います。ですが、その前に大仏殿の床の掃き掃除を少々行う予定でございます。何事も身を清める行為だと考えお願いできればと思います」


 良基は手を合わせ小さく頭を下げた。


 そして、大仏殿の正面にある大扉へと近づいていく、大扉は一枚が横幅三メートル、高さ十メートル程もあり、それが三箇所十二枚連なり大仏殿の入口をなしていた。戸には閂が付けられていて、それを取り除かないと開閉出来ない様になっている。


 さらに閂自体にも青銅製の錠が引っ掛けられており、その錠を外さないと閂自体が引き抜けないようになっているようだった。兎に角、あの金色に輝く大仏に簡単には触れさせないようにしている事が窺い知れた。


 良基がその青銅製の錠に手を添え錠を外し、閂を引き抜いていく。そして三箇所にある戸を全て開け、大仏殿を開放した。


「さあどうぞ、中の方へお入り下さいませ」


「はい」


 良基に促され、我々は大仏殿の内部へ足を踏み入れた。


 大仏殿内には外からの光を取り込むような部分が幾つか設けられているので、薄暗いながら内部を見通せるようになっていた。しかし、まだ時間が早い為に入ってくる光も弱く、大仏殿内部もそこまで視界が確保されている訳ではない。


「き、きゃあああああああああああああああああっ!」


 突然、大仏殿内に悲鳴がこだまする。


 何事かと思って見ると、カップルの女性、武藤京子が目をひん剥いて大仏の顔辺りを見つめている。胸元の手はガタガタ振るえ何かを指差していた。


 私はその方向へと視線を送った。


 指の向けられている大仏の斜め前には、上に剣先を向ける金剛杵が立っていた。その金剛杵は鈷剣型になっているので上側は長い剣になっている。その剣の根本には赤い筋が下に向かって幾つも伸び、その剣の部分に何かが突き刺さっていた。


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