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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第二章
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大華厳寺 参


 私達宿坊体験者は寂抄尼に付き従い、戒檀堂の門を潜り抜け大仏殿の方へと歩を進める。


 そんな最中、中岡編集が少し声のトーンを下げながら口を開いた。


「……さてと、僕が実際の東大寺に関して調べてきた所をちょっと説明しておこう」


「ええ」


 私は小さく頷く。


「この信州の施設はさておき、本当の東大寺には色々な見所の多い建物やそれに伴う行事があるんだ……」


「まあ、私も少しは知っていますよ……」


 私は頷く。


「建物においては有名な二月堂や、云うに及ばず大仏殿、来る時に通ってきた南大門、法華堂、開山堂などがあり、行事に関しては、一月に大仏殿で行われる修正会や、二月に二月堂で行われる節分や、三月に行われる修二会、その他にも仏生会、解除会、万灯供養会など色々ある……」


「二月堂って確か清水の舞台みたいな所ですよね?」


「ああ、そうだ。そこで修二会も行われるのだ。まあ、兎に角そっくりそのままに作ったと云うからには、そういった見所も共通であって欲しいが、その辺りがどうなのか気になるところだ……」


「南大門や大仏殿がかなりしっかり再現されていましたから、二月堂や、えーと開山堂でしたっけ? その辺りも完成度が高く再現されているんじゃないですかね?」


「だと良いとは思うが…… いずれにしても細かく観察していきたいと思う」


「そうですね」


 そんな雑談をしながら私と中岡編集は歩を進める。


 見ると、先程私のことを含み笑いしていた二十代のカップルは手を繋ぎ何やら楽しげに。私のことを大声で笑った目付きの鋭い四十代の男は相変わらず訝しげに。惚けた振りをして私を嘲笑の渦に引き込んだ張本人である老人は、相変わらず笑顔を絶やさずに。サングラス、マスク男は何を考えているのかさっぱり解らない様子のままに。寂抄尼に引き連れられどんどん歩き進んでいく。


 戒檀堂を出てしばらく北側に向かい、池の手前で東に折れ曲がり、大仏殿の後方を抜けた辺りで、別のお堂が見えてきた。 


「えーと、こちらは俊乗堂と云いまして、冶承四年に東大寺の大勧進職に任ぜられた重源上人を祭ったお堂を再現したものでございます」


 足を止めた寂抄尼の説明が聞こえてくる。


「そんな物まで再現しているのか…… とはいえ、まあ、中々だな。上手く再現できていると云っていいだろう……」


 中岡編集が頷いた。


 そして、大華厳宗開山の祖良弁を祭って建立したという開山堂の脇に差し掛かった所でも同じような説明がなされる。そんな説明をちょこちょこ聞きながら歩いていくと、目の前に清水の舞台のような建物が見えてきた。


「お、おお、す、すごい、二月堂をここまでそっくりに……」


 中岡編集が感嘆の声を上げた。


「こちらの二月堂では、良弁の高弟実忠によって始められた十一面侮過という十一面観世菩薩様に対し懺悔をする儀、それに伴う若狭井という井戸から十一面観世菩薩様にお供えするお香水を汲み上げるお水取り、その行を行う際の明かりとしてお松明を炊く、総称修二会が執り行われます。中には大観音、小観音の二体の十一面観世菩薩が安置してあります」


 また寂抄尼の説明する声が聞こえてきた。


「ほうほう、そっくりな施設を作っているだけあって、しっかり本家の行事は襲踏しているというのか……」


 中岡編集は感心したような顔で呟いた。


 その後、法華堂(三月堂)や、四月堂、鐘楼などの説明を聞きながら、私達は大仏殿の正面へと移動していった。


「それでは、境内のご案内は以上で終了になります。続いて大仏殿内での読経及び説法体験に移ります」


 私達を含め皆は小さく頷いた。


 そのまま寂抄尼の導きで大仏殿内部に足を踏み入れると、大仏の目の前に設けられた朱色の高砂のような、はたまた舞台のような上には、背を向けた良弁大僧都。そして、その横の大太鼓の傍には背の高い良基と呼ばれていた若い僧が立っていた。


 私達は寂抄尼に引き連れられ高砂の横に移動すると、そこで一度靴を脱ぎ、小さな階段を伝い、良弁大僧都と背の高い良基という僧がいる高砂の上へと登った。


「それでは、そちらに正座をしてお座りくださいませ」


 寂抄尼は手で座る場所を指し示し説明する。


「は、はい」


 先頭を歩いていたカップルは返事をすると一番奥側の座布団に腰を下ろした。カップルに引き続き見学者は順に座布団に正座していった。私と中岡編集は最後の方で座布団に腰を下ろす。


 寂抄尼は私達が正座をしたのを見届けると、静かに高砂部分から降り、本尊に頭を下げてから正面の大扉を抜け出て行った。



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