決戦 陸
「続いて、第二陣前へ!」
審判員が促してくる。
「よし、行くわよ! 涼子の知り合いだろうが、アイツは倒すべき敵! やるわよ!」
大刀を引っ提げて、輝美が前へ出る。
相手陣からは先程と殆ど同じ顔をした島津義弘が出てきた。甥と叔父の区別の為か、付け髭が付いている。
「ふふふふ、儂は島津義弘じゃ、儂は例え討たれるとしても敵に向かって死すべしと思う」
昨日今日覚えたての文言を云っているように思えてならない。
「確かに、島津は強兵よ、でも負けない! 池田輝政は負けないわ!」
輝美は大刀をぐるぐる振り回し勇んで見せる。
「それでは双方いざ勝負! 任札をお願いします!」
審判員から鋭い声が掛かる。
「てやああああああああああっ! 私の任札はこれよ!」
輝美は気合の乗った叫び声の後に小大名札を提示する。
「ふふふふふふ、儂は例え討たれるとしても敵に向かって死すべしと思う」
また同じセリフだ。
「ちぇぇぇぇすとお! 儂は大将札じゃ!」
「あっ、あああああああああああああああっ……」
喰らった!
武具札を見るまでもなく敗れた。
「いやったああああああ! 三成子様、勝ちました! 勝ちましたぞ!」
「よし! ようやった! 義弘! 流石じゃ! 流石、島津義弘じゃ!」
三成子は歓喜の声を上げる。
「そ、そんな……」
輝美は呆然自失状態だ。
そして負けただけではなく、任札で勝敗が決まってしまったので武具札が不明状態だ。札読みが難しくなったのだ。
「こ、ごめんなさい、負けちゃった……」
引き返してきた輝美は申し訳なさそうに謝罪してくる。
「だ、大丈夫だよ、まだ一敗一分けだ。まだ三戦もあるんだ大丈夫だ!」
何か自分に云って聞かせているような感じだ。
「それでは第三陣の方々、前へお願いします!」
審判員の促しに従い、自軍からはキャスバル井伊田中。相手陣からは蒲生備中が出てきた。備中守、蒲生頼郷である。立場上は島左近と同じ三成家臣である。
「いよいよ、我が石田軍が徳川を破る時がきたのか…… 我はしんがりを務めた三成家臣蒲生頼郷である!」
槍を構え名乗りを上げる。
「ふっ、俺は赤い彗星井伊だ。まだだ、まだ終わらんよ、見せてもらおうか、三成軍の蒲生の性能とやらを」
斜に構え格好を付けている。いつもながら胡散臭い名乗りだ。
「それでは双方任札をお願いします」
審判員から声が掛かる。
「我の任札はこれだ!」
蒲生備中は軍師札を出してくる。
「ふっ、軍師か…… 最後に強い札を残すと云う事か、捨て石という事だね…… 俺も軍師札だ」
最弱札の戦いだ。負けを想定した捨てがまりか……。となると武器札も……。
「任札は引き分け! 続いて武具札をお願いします」
審判員が促してくる。
「我は馬防柵だ」
「ふっ、私はゲルググシールド、矢盾札だよ」
「双方防御札の為無干渉。よって第三戦は引き分け!」
矢張り予想通りだ。双方とも第三戦を捨て、第四戦、第五戦で勝負を掛けるという事だ。
ここまでは一敗二引き分けだ。我らが勝つには第四陣、第五陣の二連勝をする必要がある。
「え~、残すは第四戦、第五戦になります。布陣は変えますか?」
「ええ、此方は変更しますよ」
「うむ、儂も考えさせてもらおうかのう」
山科と三成子が答える。
双方後方に下がる。作戦タイムだ。




