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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第二章
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大華厳寺 弐

 ようやく笑いが収まり、しばらくすると、また玄関側から声が聞こえてきた。


 今度は寂抄尼の声だけしか聞こえない。しかし、スタスタ複数名が玄関を進んでくる音が聞こえてくる。


「どうぞ、こちらのお部屋にお願いします」


 襖戸が開いた。そして、入ってきた人物を見て私は驚いた。


その人物は、もじゃもじゃの髪に色の濃いサングラスを掛けて、更に口には白いマスクを付けていた。更に手には白い手袋を嵌め、なにか日光に当たってはいけない病気でも持っているのかと思われるような風体だった。男性だという事は何とか解るが、正直どんな人相なのか全く解らない。背に関しては高くもなく低くもなく中肉中背といった感じだ。


 その男は私達の向かい側の入口付近の座布団に腰を下ろした。


 男の異様な雰囲気に、奥の恋人達や、訝しげな視線を向ける男も、先程の笑いの気配を完全に消し去り、口を閉ざし沈黙した。老人だけは笑っている訳ではなくずっと笑顔だった。


「さて、これで全員お集まり頂けたようなので、ご説明を始めさせて頂きます」


寂抄尼は襖戸の前に立ち、ゆっくりと丸みのある声で話をし始めた。


「本日は当大華厳寺の宿坊体験へようこそお出で下さいました。是非参籠修行を体験頂き、身を清められ、厳か且つ清らかな心持を得て頂ければ幸いでございます」


 寂抄尼は目を瞑り手を合わせた。


 その姿を見た私も一応手を合わせ頭を少しだけ下げてみる。


「さて、これからの予定を申し上げてまいりますと、十二時から境内のご案内に始まりまして、二時からは大仏殿において大僧都による説法、四時からは写経体験、そして夕方六時より精進料理による夕食、そして就寝でございます。翌朝は朝六時より朝の勤行を大仏殿にて執り行い、作務(お掃除)、精進料理によるお朝食、その後、座禅形式の阿字観(瞑想)体験を経て朱印帳のお渡し、その上で朱印の押印にて体験終了でございます」


 中岡編集から細かな体験内容を聞かされてはいなかったが、中々充実した体験内容になっていた。


「それでは、早速なのですが、境内のご案内をさせて頂きたいと思いますので、貴重品だけをお持ち頂き、大きな荷物はここに残したまま、外へとお願い出来ればと幸いでございます」


 そうして、私達は寂抄尼に引き連れられ外へ出た。



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