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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
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昼食、軍議、そして決戦へ!  参

 皆は石田軍との戦いや不快だった事を思い返してなのか、ふうと大きく息を吐いた。


「それで、その石田軍率いる西軍とこの後に戦う事になるけど、どうしたら理想かしら?」


 輝美が問い掛ける。


「あの面倒くささはどうにもならないな…… そこは諦めるしかないぞ……」


 高虎は顔を横に振りながら言及する。


「確かに、もう最後の合戦だから我慢するしかないわね……」


「ああ、兎に角あいつを調子に乗せない事だな、調子に乗せるとより五月蝿いからな」


「成程ね」


 そんな話をしていると、審判員から声が掛かる。


「え~、皆さま昼食を楽しまれてらっしゃる最中失礼致します。さて、こらからの流れを説明します。13時には次の最終決戦地に移動して頂きます。場所は笹尾山交流館前、関ヶ原決戦地で行われます。その場に移動していただき、その場で軍議をして頂き、布陣等を決め最終決戦に挑んで頂きます。13時40分から対戦開始。戦が終了次第閉幕となります」


「はい、承知しました」


 山科は一応リーダーらしく大きな声で返事をする。大勢は頷き返事をしていた。


 そんなこんなしているうちに昼食は皆、堪能したようで。箸を置き茶を啜る者が多くなってきていた。


「さて、それじゃあ皆さん、そろそろ決戦の地へ向かいましょうか、いよいよ最終決戦です。ただ対戦は何度も行われる事になると思いますので、皆さん頑張って下さいね」


 家康役の山科は皆に声を掛ける。


「おう、畏まった」


「イエス! アンダスタンド!」


「承知仕った!」


 各場所から気合の乗ったいい声が返ってくる。


 そんなこんな昼食を終え、私達総勢二十名はぞろぞろと北国街道を北上し、笹尾山交流館前であり関ヶ原決戦地へと赴いた。


 しばらく進むと、石田軍、島左近軍の本陣が見えてくる。高台に木柵が設けられ大一大万大吉の旗差し物が飾られている。関ヶ原決戦地は、東軍の勝利が確定した場所であり、石田、島左近陣の目の前なのだ。奮戦していた宇喜多軍の横に小早川軍が雪崩込み大谷吉継軍、宇喜多軍が、そして小西隊が総崩れになり、小西隊と宇喜多隊は伊吹山に敗走する。決戦地で凌ぎ続けていた石田軍もついに島左近が黒田長政軍に突入するも討ち死に、蒲生頼郷も討ち死に、とうとう三成は全軍に退却命令を出し、自らは再起を胸に伊吹山へと敗走したのだった。そんな関ヶ原最後の激戦地がこの決戦地なのだ。


 そんな決戦地の凄く遠くから声が聞こえて来る。


「ふははははははははは! よくぞ来おったな! 待って居ったぞ! いざ!いざ! いざじゃ!」


 よく見ると、決戦地の奥の高台の柵越しに叫び声を上げている者がいる。


 普通なら両軍大地に立ち相まみえる筈なのに、まるでお山の大将の如く高台の上から上から目線で大声を上げている。


 遠目からも赤赤熊姿で金色の脇立て兜を身に纏った石田三成だと解る。皆がウザいと云っていた事が伝わる雰囲気が満々だ。


 良く通る甲高い声、圧が強そうな声、意外と細い体形。


 意外と細い体形?


「えっ、女?」


 私の頭に女性なのではという考えが過る。


 段々と近づくに従って、姿が明確になっていく。


「あ、あれは、矢張り女だ…… そして…… まさか!」


「ふふふ、内府! よくぞ負けずにここまで来た! 嘗て我らが敗走し、決着が付いたこの地で、今日改めて、貴様等を打ち負かしてくれる! 覚悟せい貴様等!」


 見覚えのある体形、見覚えのある鎧兜、聞き覚えのある声。


「み、み、三成子?」


 見間違いかと思い、目を細め再度見上げてみる。


「ま、間違いない! 三成子だ。ど、どうして……」


 考えてみれば意外でも何でもなかった。近くの三重県に住んでいるし、彼女の好きそうなイベントだ。いや、これ大好きだろう。


「マジか……」


 呆然としている私に輝美が声を掛けてくる。


「どうしたの涼子? 知り合いでもいた?」


「い、い、いや、何でもない、ちょっと眩暈が……」


 私はつい誤魔化してしまった。


 皆から相当嫌がられている存在。ウザいと思われている存在。そんな人と知り合いだと云うのは拙い気がする。それも敵方だし。


「しかし、毎度毎度、あの女、煩いわね! 上から目線で早く下に降りて来なさいよって感じ!」


「はははは、た、確かに煩いタイプだよね……」


 知り合いかもとは云い出せずそのまま決戦地へ辿り着いた。


 前には先に辿り着いていた毛利軍らしき者共が立ちすくんでいる。あの使者として来た荒法師の安国寺恵瓊も一緒に居る。そして、その後方には胴丸具足と鎌倉式大鎧が混ざったような鎧を纏った者の姿があった。赤糸威の立派な奴だ。兜は三日月のような立物を額に付け迫力が凄い。また白頭巾を被った者、鬼の角のような前立てが付いた胸に十字架を付けた者などが控えている。


 あれ、あの十字架の御仁は……。


 見覚えがあった。滋賀県の新興宗教法人の潜入捜査に行った時にいた男だ。


 確かアウグスティヌス小西…… 小西行長の転生者だとか云っていた男だ。


 宗教法人は解散したはずなのに、何故まだ小西行長をやっているんだ?


 ま、まあ、良い。黒い鎧姿で派手めな物は身に纏っていない、対戦中は髪も兜の中だ。私だとは気付かんだろう。


 私達が決戦地へ辿り着き足を止めると、三成子は勿体ぶった様子で、ゆっくり高台から降りて来る。横には似たような兜の恐らく島左近役と蒲生頼郷、そして、島津義弘と豊久が。


 あれれ。


 実目麗しいキリリとした眉毛の島津豊久と渋イケメンな島津義弘の姿が見当たらない。兜から頬がはみ出ている太った男が二人いる。


 美麗関ヶ原大戦はイケメンに編集された戦国武将達が戦う萌えアニメだ。そして今回のイベントはその美麗関ヶ原大戦のアニメとタイアップされた企画だ。よって参加者達は美意識が高めで、少なくとも髪型イケメンや雰囲気イケメンに近い者達が参加している筈だ。


 なのに……。


「ね、ねえ、輝美…… 石田島軍は、石田三成、島左近、蒲生備中、島津義久、島津豊久が構成員だよね?」


「ええ、確かそうだよ」


「わ、私の見間違いかもしれないんだけど、石田軍に不思議の国のアリスに出てくる双子のディーとダムみたいなのが並んでいるんだけど……」


「うん、居るね。立ち位置的に多分あれらが義弘と豊久じゃないかしら」


 マジかよ。


「そ、そ、そ、そんな馬鹿な……」


 私は唖然とした。


「それは駄目!」


「涼子? 駄目って何が?」


「そんなの駄目よ! あれが義弘と豊久だなんて許せない!」


 私は憤慨する。


「ああ、あれね、たまに居るんだよね、美意識低めなのが…… グループを作るのに数が足りないからとかで数合わせに呼ばれた人達がまざっているの、仕方が無いのよ」


「仕方が無いで済ませられるか! 豊久は登場人物一番のイケメンだぞ! あんなポチャポチャしているのなんか豊久じゃないぞ!」


「まあまあ、熱くならないでよ涼子、そんな事も偶にはあるからさ……」


 輝美は熱くなった私を制止してくる。


「がるるるるるるる!」


 何の為に頑張ってここ迄来たと思っているんだ。主なる目的が台無しだぞ。

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