西首塚での対戦 肆
その後、第二戦ではこちらは軍師である織田有楽斎。相手方は京極高知が登場した。有楽斎は騎馬隊を装備し、京極高知は小大名の防御札矢盾札だった。
有楽斎は武力四+武器札三で武力七、京極高知は小大名の為武力五にて此方の勝ちにて終わる。
続く第三戦では、こちらは竹中重門、相手方は豊臣秀次の筆頭家老だった田中吉政(洗礼名バルトロメオ)が戦う事になった。竹中重門は小大名で火縄銃隊を装備、田中吉政は捨て石だったのか軍師札で防御馬防柵札だった。
そう云った訳で此方の勝利となる。
ここまでの結果は、黒田細川軍は二勝、福島藤堂軍は一勝となり、いよいよ第四戦、第五戦を迎える事となった。
「こ、これは拙いな……」
山科は顔を曇らせる。
「うむ、負けるかもしれんのう。良くて引き分けに持ち込めるかどうか……」
女忠勝もゆっくり顔を横に振る。
まだ慣れない私には、何故拙いのかが良く解らない。
「でも、此方が既に二勝しているんですよ、あと一勝すればいいだけじゃ?」
「いや、坂本さん、残札を考えてごらんよ」
「残札ですか」
「こちらはもう使い切ってしまって武器札はないんだよ、任札自体は大大名と大将だから強いけど、相手の残りの任札も中大名と大将だ。更に武器札二枚を残している」
「そ、そうか」
残札は圧倒的に敵陣の方が強いと云う事か。
「上手く防御札で打ち消せれば良いけど、打ち消すことが出来ない火縄銃隊を彼らは一枚残している。それを大将に付けられていたらとても敵わない、いずれにしても一敗は確実だ」
「そ、そうですね」
「最悪なパターンは、一戦目がこちらが大大名で相手方中大名。もう一戦が大将同志の対戦だ。この場合は殆ど負けだ。大将戦の武器札を防御札で打ち消せた場合のみ、総合的な引き分けに持ち込める」
「ま、まだ、不慣れで理解が追い付いていませんが、勝つ方法は無いのですか?」
私は問い掛ける。
「こっちの防御札付き大将と相手の武器付き中大名が当たった所でようやく光明が見えてくる。その上で武器札を打ち消せなければ引き分け、打ち消すことが出来た所で、ようやく此方の勝ちだ。」
「は、はい……」
そうなのか。一見勝っているが、かなり勝算は低いと……。
「兎に角、やるしかない!」
山科はぎりりと歯を食いしばる。
「それでは第四陣です。双方布陣変更をしますか?」
審判員から声が掛かる。
「は、はい、布陣変更をお願いします!」
山科は声を上げる。
「ミイ達ハ、ソノママデ、OK! ノーチェンジネ!」
外人チームは面倒くさそうに言及する。
山科は探るような視線で残る筒井と藤堂の二人の表情を見ている。
我々は色々思案をした上で組み換え布陣表を提出した。審判員は確認を行う。
「それでは確認が出来ました。第四陣の方々前へ!」
審判員から声が掛かる。
「おう!」
自陣からは戦国チンピラの様相である細川忠興が歩み出る。相手方は唐冠型兜を付けた男だった。
「拙者は藤堂高虎…… 藤堂高虎だ。拙者の相手は忠興殿か……」
「おう、そうだ。俺が相手だ、俺は細川忠興だぜ」
二人は静かに見つめあう。状況を把握しているのか忠興は軽口は叩かず、少し緊張した面持ちだった。
ここで勝てなければ、次に本隊である我々と藤堂福島隊との対戦、更に我々と小早川隊との対戦が待ち構えている。二戦連続とのなれば戦い方が読まれ辛い戦いになってしまうだろう。
「対戦! 双方任札を」
審判員から声が上がる。
忠興は懐から大大名の札を出す。
「う、うむう、大大名か…… 中々考えておるのう…… 拙者の方はこれである……」
藤堂高虎が大将札を提示した
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
周囲から声が上がり、山科は小声で私達に耳打ちしてくる。
「首の皮一枚繋がったぞ!」
「そ、そうね」
自陣は皆小さく息を吐くもまだ緊張は続いている。
「任札は藤堂福島軍優勢! それでは武具札を出して下さい」
忠興は躊躇いがちに馬防柵を出す。
自軍の皆は心の中で火縄銃隊札が出るのを願っている。打ち消すことが出来ない最強札を此処で使い切って欲しいのだ。負けるなら圧倒的に負けて欲しい。
「ふっ、残念ながら、そのような物では防ぐ事は出来ぬぞ!」
そう云いながら高虎は火縄銃隊の武器札を提示してくる。
「火縄銃隊札か……」
やった! 光明だ。
負けて二勝二敗となったが勝敗の行方は最終戦に持ち越した。
「負けたな…… だが只の負けではない! 俺の屍を乗り越えて最終戦を勝ってくれよ……」
忠興は薄く笑った。
「武具札、藤堂福島軍の火縄銃隊の勝利! よって第四陣は福島藤堂軍の勝ちになります!」
皆は何度も頷くが歓声は上げない。場がピリピリしている。一喜一憂している状況ではないのだ。
「それでは最終戦です! 第五陣の方々前へ!」
審判から声が上がる。自陣からは黒田長政、相手陣からは筒井定次が前に出た。
もう任札は明らかになっている。黒田長政大将、筒井定次が中大名だ。長政には矢盾札を付けてある。任札に関しては相手陣も解っている事だろう。一方の筒井定次は騎馬隊札か弓矢札のいずれかを装備している筈だ。
弓矢札装備状態なら、長政の持つ矢盾札で打ち消し、中大名対大将の任札有利で黒田長政の勝ちだ。だが騎馬隊札だった場合は黒田長政武力十。筒井定次武力七+武器札三で引き分けになってしまう。さあどっちだ。
「武具札の提示をお願いします」
審判から声が上がる。
「儂の所持は矢盾札じゃ」
黒田長政は札を見せる。
「儂は山崎の戦いの際に明智光秀与力だったが日和見の末に秀吉に付いた筒井順慶の甥っ子だ。関ヶ原合戦には六千もの兵を関ヶ原に動員いておる!」
ちょっと自虐的な名乗りをした後に筒井定次は武具札を提示した。
「儂の所持札はこれじゃ」
その札は騎馬隊札だった。
「おっ、おおおおおおおおおおお、ひ、引き分けだ……」
双方から歓喜と落胆の入り混じった声が上がる。
「第五陣、黒田細川軍の武力十。福島藤堂軍の武力は七足す三にて十、防御札での阻止失敗に付き、引き分け! よって黒田細川軍対福島藤堂軍の対戦は引き分け!」
「ふ、ふふううううううううっ…… 」
山科が緊張入交りながらも絞り出すように声を上げた。
「むう、引き分けだったのう……」
女忠勝は天を仰ぐ。
負けの恐れが大いにあった。勝てる可能性も少しはあった。そんな上での引き分けだ。良かったと判断すべきだろ。只々緊張して疲れたぞ。
「あの、山科さん、傘下軍同士の戦いが引き分けた場合ってどうなるんでしたっけ?」
私は改めて質問する。
「もう、単純に本隊同士の対戦だ。我々対小早川朽木軍の戦いだよ」
「そうなのですね」
いよいよ外人軍団との闘いだ。




