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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第一章       ●其ノ十二 美麗関ヶ原大戦  
510/539

いざ関ヶ原へ  肆

「え~、皆さん注目してください! 開会式を始まますよ!」


 古戦場会館の二階のテラスに黒い背広を着た者が十名程現れた。参加者が皆鎧姿なのに対して、恐らく実行委員会の面々であろう彼らは敢えて背広姿をしているのだろう。


 呼びかけられた参加者達はぞろぞろと古戦場会館の前に集まり上を見上げる。


「それでは、二級古戦場戦略マイスター検定を始めます。え~、本日は皆さまお集まり頂きありがとうございます。今回の検定と大会は関ヶ原の合戦という日本を二分する大きな合戦を詳しく知って頂く事と、ワーテルロー、ゲティスバーグと並ぶ世界三大古戦場の一つである関ヶ原古戦場跡地を肌身で感じて頂く事が主となっております。まあ、それ以外に岐阜県に足を運んでいただき、関ヶ原の町を歩き回り、土地の物を食したりしていって頂きたいと思っております。はははははは……」


 中央に立つ実行委員会の男が声を上げる。アニメ協賛ながら関ヶ原町としては町おこし的な部分も強いようだ。


「……さて、少し脱線してしまいましたが、この戦いに勝ち残った一チーム全員にはニ級古戦場戦略マイスターの称号と、副賞として希望する美麗関ヶ原大戦のキャラクターフィギアと戦国武将の等身大具足のレプリカが与えられます。是非とも取得できるように頑張ってください」


 参加者たちは皆静かに頷いている。


「二級検定は一チーム五人で行われる為、行動範囲を絞っています。それもありそれぞれの陣は関ヶ原古戦場の中央付近に準備をしました。石田、島軍は島左近陣跡、毛利、吉川軍は南宮山西麓の島津豊久碑、黒田細川軍は黒田本陣跡、宇喜多小西隊群は小西陣跡、福島藤堂軍は福島本陣があった春日神社、小早川脇坂軍は脇坂本陣跡、徳川池田軍は家康最初陣跡になっております……」


 なるほど、クループの本陣の出来るだけ内側にあるものを使うのか……。


 それを聞いた私はうんうん頷く。


 松尾山本陣や、南宮山本陣は山の上の方にある。そんな所まで行ったり来たりしていたら時間ばかりが無駄に掛かってしまう。山を登らなくて良い様に麓にある場所を陣として使うのだ。


「また、各部隊には審判が一人付きます。進行に不備が出ないように監視または審議、進行補佐を行います。宜しくお願いします」


 説明をしている男の横にずらりと立ち並ぶ背広姿の面々が軽く頭を下げた。


「それでは皆様、開戦です! 九時になりました。それぞれの陣へと移動してください」


 実行委員から声が掛かる。


「よし、それじゃあ、我々の本陣は家康最初の陣である桃配山だ。移動しよう」


「はい」


 そうして私達は伊勢街道を南下して、中山道に至るとそこから大垣方面へと進んで行く。


 中山道から少しだけ外れて僅かな坂を登った所に、葵紋の描かれた陣幕に囲われた場所が見えてきた。周囲には池田輝政、山内一豊等の旗差し物も飾られている。そう、此処が家康桃配山陣だ。ご丁寧に軍議用の陣卓子や床几が配されてある。そして実行委員のスーツ男がインカムを付けてスタンバイしていた。


 私達は静々と着座する。


「さてさて、ここから約一時間は軍議と交渉だよ」


 家康役の山科が改まり声を上げる。


「じゃあ、どうしようか? 初戦から敗退が嫌なら同盟でいく? それともしっかり対戦にするかい?」


 山科は探る様に声を掛けてくる。


「ふふっ、変な外人だけのチームがあったじゃないか、駆け引きとか得意じゃなさそうだし、そこに対戦を申し込んだらどうだろう? 確か小早川軍だったぞ」


 気障っぽい仕草で井伊直政役の田中が案を出してくる。


「うん、確かに弱そうだけど、同じことを考えて対戦を希望する所が多そうじゃないか?」


 田中の提案に山科は首を傾げる。


「外人軍団に対戦を望んでも、合致しなければ対戦には至らないし、敢えてそこは外して他を探した方が良くないかな?」


 山科の意見に、今度は本多忠勝役の美紀が提案してくる。


「むう、さすれば毛利に行きますかな? 同盟で行かれますかな? はたまた対戦かのう?」


 突然、美紀は爺むさい話し方をし始める。可愛い顔をしているのに入り込んで爺化しているぞ。本格派っていうのはコレか?


 そう促された山科はしばし考え込む。


「よし、それじゃあ、此処からの距離が近い、黒田細川軍、福島藤堂軍、毛利吉川軍の三軍に対戦を申し込む事にしよう」


「ふっ、了解だ。そうしよう」


「解ったわ」


「うむ、承知仕った」


 私には判断が良く解らない所だが、チームとしての方向性は決まってしまったようだ。


「あの、対戦を申し込むというのはどうやるのでしょうか?」


 私は質問する。


「え~とね、僕らは五人いるじゃない、なので、二人を本陣に残して、三人は他のチームの本陣に行くんだ。今回の場合だと、黒田細川陣、福島藤堂陣、毛利吉川陣に行く。そして、相手本陣に残った二人に対戦の話をするんだ」


「成程」


「その上で、ぜひ対戦しましょうと、上手くマッチングすれば、対戦に至る訳だよ。その希望と合意の審判は、あそこに居る実行委員がインカムで連絡を取り合って決定するんだ」


「成程です」


 山科は改まって私を見る。


「そんなんで、坂本さんは、黒田細川陣へ行ってくれ、対戦を申し込むんだ」


「えっ、私がですか?」


「うん、簡単だよ、対戦を希望します。宜しくお願いします。と云えばいい。それと対戦の札を渡すだけだから」


「は、はあ」


 一人で行くのか、寂しいな…… それと上手くできるかな……。


「じゃあ、輝美君が福島藤堂陣で、田中さんは毛利吉川陣へと行ってもらって良いかな?」


「わかったわ」


「了解だ」


 二人は威勢よく返事をする。


「じゃあ、早速向かってくれ!」


「涼子、行くわよ! 途中まで一緒だから」


「う、うん」


 そうして私は輝美、田中と一緒に、元来た中山道を戻っていく。


 中山道の関ヶ原駅前までは皆一緒だ。細川黒田陣へ向かうには駅手前を右に曲がるのが近道だ。福島藤堂陣へと向かう輝美は中山道を直進、田中は伊勢街道と交わるところで南下する。


 関ヶ原駅手前の交差点で輝美と田中と再集合の約束をして、私は北へと曲がった。


 踏切を渡り、細道を北上し黒田細川陣へと向かう。 


 途中、傾いた武者姿の者を何人か見掛ける。それぞれの軍も動き始めているという所だろう。


 関ヶ原中央付近に陣を集めているとはいえ、本陣を置いている場所は見晴らしが良い丘の上が多い、それもあり途中から坂道を登っていく事になる。


 じんわりと少し汗を掻き進んで行くと、ようやく陣幕を視界に捉えた。


 そこには黒田、細川、加藤、竹中、織田等の旗差し物が見え隠れしている。


「失礼します」


 どう振舞って良いのか解らず、私は陣幕をノックするような動きをしてから声を掛けた。


「おおっ、使者殿か! 良く参られたな。儂は甲斐守、黒田長政じゃ!」


 真っ先に、茶髪で褐色に日焼けした荒々しさを感じる男が答えてくれる。


「おい、ちょっと待て、使者か! 使者なら俺の方が話を聞くぞ! 俺は細川忠興だぜ!」


 すぐ横の床几に座る、圧の強い男が声を掛けてくる。


 こちらの男は丁髷姿ながらサングラスを掛けていた。とび職が身に纏うような肌着の上に鎧を付けて戦国チンピラの様相だ。


「忠興っ! 貴様は黙っておれ! 大将は儂じゃぞ!」


「はあ? 何言ってんのお前! 大将は俺こと細川忠興だろうが! 俺んところは5400人の兵を動員してんだぞ! お前のとこは3700人しか居ねえだろ!」


「ば、馬鹿云え! お前の所の烏合の衆とは違って、こっちは精鋭揃いじゃ! 数の問題じゃないわ!」


 何やら主導権争いをしている。


「あ、あの、対戦依頼です。対戦札を」


 私は恐ず恐ずと声を掛ける。


「おう、儂が受け取ろう。対戦じゃな、対戦希望じゃな。この長政しかと受け取らせてもらうぞ」


「ええ、宜しくお願いします」


 黒田長政がしゃしゃり出て私が差し出した札を奪っていく。


「だ、か、ら、俺が大将だって云ってんだろ! 長政っ、勝手に受けとんな! ったくよう……」


 忠興は苛立ち声を上げるも、すぐに自分の都合のいいように切り替える。


「へっ、まあ、良いぜ、俺様の代理で受け取っておいてくれたまえ、黒田君よう」


 そんな感じに忠興は上から目線で言及する。


「おう、ところで使者のお前、お前は一体何役なんだ? どこから来た?」


 忠興は私に対しても偉そうに振舞ってきた。


「えっ、私は家康陣から来ましたけど」


「桃配陣か…… あそこは内府と徳川譜代しか居なかった気がするが……」


「わ、私は山内一豊役です」


「おおっ、そうか、居たな、一豊と輝政辺りが毛利の抑えで……」


 そういながら細川忠興は私を睥睨する。


「山内一豊役か…… 随分地味だな…… もうちょっと何とかならなかったのか? お前、只の雑兵みたいだぞ、内助の功がないと着飾る事も出来ねえのか?」


「準備が足りませんで……」


「まあ、兎に角、対戦希望は受け取った。あとは自陣で報を待っているが良い」


「は、はい」


 要は済んだとばかりに、私はしっしと雑に追い払われる。しかしながら何という上から目線の男だ。


 なすべきことを済ませた私は、黒田細川陣を出て、細道を南下する。途中、関ヶ原駅付近で輝美と田中と合流して、桃配山陣へと戻っていく。


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