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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第八章
504/539

地下  肆

 私は抵抗しない様相を表しつつ密かに阿国の隙を窺い続ける。中岡編集も刺股の下で身を悶えさせつつ隙を窺っているようだ。


「何やっているのかしら、葦人ったら、戻りが遅いわね……」


 適当な工具が見付からないのか、戻ってくるまで随分と時間が掛っている気がする。


 しばらくすると、雛壇脇から人の気配がした。のっぺらぼうが戻ってきたようだ。


「あら、やっと戻ってきたようね……」 


 阿国が薄気味悪い笑みを浮かべる。。


「いよいよ、金山比売様へ捧げものを用意出来るわね、ふふふふふ」


 そして、雛壇脇から姿を現すと真っ直ぐ私達の方へ向かってきた。その手には工具のような物が握られていた。


「嗚呼、僕の! とうとう僕の男根が……」


「葦人、待っていたわ、さっさとこの金属パンツを破壊しなさ!」


 そう云いかけた阿国の顔がぎょっとした。


「 えっ、何よ、誰っ! お前は、一体、誰よ!」


 そのぬっぺらぼうのような人影は中岡編集の方ではなく、素早く阿国の方へと走り寄っていく。そして……。


「き、きゃあああああああああああああああっ!」


 戻ってきたそれは、のっぺらぼうではない別の人間であった。


 そして、刺股で中岡編集を押さえつけていた為に背中側が無防備になっていた阿国の左後方の脇腹にナイフのような物を突き立てていた。


「お、お前っ、お前は!」


 阿国は斜め後方に驚愕の視線を送る。


「さ、定美さん!」


 阿国の脇腹に引っ付いていたのは、安部定美であった。


 小柄な安部定美は背丈的には葦人という人物と同じぐらいだった。


「な、何をしてんの! こ、こ、この女!」


 阿国は中岡編集から刺股を外し、定美に攻撃を仕掛けようとする。


「うっ、うわあああああああああああ!」


 安部定美は一度突き刺したナイフを引き抜き、再び阿国の脇腹にナイフを突き立てる。それを何度も。あの位置とあの回数では流石に致命のものになるだろう。


「あっ、あっ、ああっ、ああああっ、ぐっ、ああっ、お、おのれぇぇぇ……」


 何度もナイフを突き立てられた阿国はふら付き気味に中岡編集からも定美からも一歩距離を取る。そして刺股を杖のようにして持ち、必死に倒れないようにしていた。


「さ、定美っ! あ、あんたっ…… な、何てことをしてくれたの!」


 阿国が鋭い眼光を定美に向ける。


「……貴方が悪いのよ! 貴方だけじゃなく、貴方の母親も、この施設も……」


「わ、悪い? 私が……?」


 そう呟いてから、阿国はハッとした表情を浮かべながら声を上げ始めた。


「あ、葦人! 葦人! 来て! 早く!」


「……あの、のっぺらぼうなら、あたしが殺したわ! 上で倒れているわよ……」


 定美が冷たく言い放つ。


「えっ、葦人を殺した! 葦人を殺したの? そんな馬鹿な、あの子がお前などに殺されるものか!」


 阿国は叫ぶ。


「一階に這い出してきた所で刺したわ、油断していたのでしょうね……」


「そ、そんな馬鹿な! あ、葦人……」


 阿国は声を震わせ言及する。


「……葦人が死んだ…… はあ、はあ、はあ…… ぐうううううっ」


 呼吸が乱れてきた阿国は、床に尻を落とした。


 白い着物の腰辺りの部分が赤く染まっている。下の部分は赤いので出血の具合が解り辛いが、濡れたようになっているので出血は相当なのだろう。雪で孤立化しているこの施設では医師を呼ぶ事は出来ない。残念ながら死を防ぐ手立てはないだろう。


「さ、定美さん! 助かりました!」


 私はお礼を述べる。


「本当にありがとうございます。僕の男根と僕の命が間一髪守られましたよ。深く、深く感謝します!」


 中岡編集は何度何度も頭を下げる。


「……別に貴方を守った訳ではありませんよ、あたしはあたしで恨みを晴らす為に二人を殺し、奴らから奪われた物を取り戻す為に此処に来たのだから……」


「恨みを晴らす? 奪われた物を取り戻しに?」


 我々が勝手に想像していた松子の動機と同じような事を定美も口にする。

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