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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第八章
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地下  弐

 叫び声や、割れる音を聞きつけてか、それとも我々の気配を感じ取っていたのか、奥の祠の脇から人が姿を現した。それは阿国と小柄な男だった。


 その小柄な男は両方の瞼が垂れ下がり、目が皺のような、はたまた線のように見える。また小太りな体形の上、頭が大きく体が小さい。そして薄汚れた柔道着のような服を着ていた。


 阿国の方は相変わらず巫女のような紋平のような不思議な恰好だった。


「奴だ! 奴が、廊下で僕の事を探っていた、ぬっぺらぼうだよ!」


 中岡編集は私に耳打ちしてくる。


 その容姿を改めてみると、確かにぬっぺらぼうという感じだった。


 ぬっぺらぼうも、のっぺらぼうもその姿がどのように描かれいるのか知らない私だが、その男の印象は確かにぬっぺらぼうという印象だった。


 こちらを牽制するかのように表れた阿国と小柄の男の手には長い武器のような物が握られていた。阿国が持っている方は、長い木の棒に半円状の金属が付いていて江戸時代の捕り物などで使用された刺股さすまたのような感じだ。一方、小男の手に握られているのは、長い棒にTの字の金具が付いており、金具の部分には無数の鋲が付いている。確か突棒とつぼうとかいう物のようだ。


「……嫌だわ、不審者が入り込んでしまったようね……」


「……ふしんしゃ……」


 阿国の言葉を反芻するかのように小男は言葉を繰り返す。


「怪しいわね、とても怪しい侵入者……」


 横で小男はうんうんと頷きを見せる。


「一体、何を盗みに来たのかしら…… 嫌だわ……」


「ゆるせないぞ……」


 二人は小声で囁きあっている。


「違う! 僕だ! 中岡だ! 僕らは不審者じゃない! 逆に怪しい人間を探す為に此処へ来た。松子さんや、道鏡さんや、文覚さんや、大女将さんを殺害した犯人を探すために!」


「……中岡…… そんな名前の人は記憶にないわね…… そして、横にいる熊人間も誰だか解らないし、怪し過ぎる存在だわ」


「何を云っているんだ! 宿泊者の中岡ですよ! それに、ほら、阿国さん! 横の熊は熊じゃない、僕と一緒に来た坂本だ! 龍馬だ。だから熊龍馬だ。ほら、その熊の被り物を外したまえよ」


 中岡編集が促してくる。


「え、ええ」


 私は熊の被り物を脱ぐ。


「ほら龍馬だよ」


「…………」


 無反応だ。そもそも阿国さんに私を龍馬だとか紹介したか? 


「母は誰かに殺された。私達は殺した人間を許さない……」


「ゆるせない……」


 そう言及しながら阿国は刺股を構える。何やら構え方が様になっている。小柄の男が構える突棒も様になっていた。


 刺股も突棒も柄の部分が二メートル近くもあり、槍や鉾を構えられているような威圧感がある。


「えっ、い、いや、ち、違う、違うよ、僕らは犯人じゃない! 殺された? 逆に聞くが、犯人は貴方達じゃないのか?」


「私達は母を殺された…… 許せない……」


 そう云いながら阿国の手に持つ刺股の先端が獲物を捕らえるが如く左右に揺れる。


「貴方達ったら、手に鉈を持っているわ…… どうみても不審者よね? そして犯罪者……」


「ふしんしゃ……」


「違う! 僕らは不審者じゃない! この鉈は単なる護身用具だよ!」


 そうは云うものの確かに金属パンツに鉈。熊の毛皮に鉈。傍からみれば完全な不審者だ。


 すうっと小柄の男が動いた。そして長い突棒の先を中岡編集の方へ突き出してくる。


「う、うわっ、な、何をするんだ! 止めろ!」


 間一髪で棒の突きを避けた中岡編集だったが、その突きは攻撃の為のものではなく、引き戻す際に先端に付いた鋲を着物に引っ掛ける為のものだった。


「あっ、ひっ、ひうわあああああああっ!」


 脇辺りに鋲が引っ掛かり、中岡編集は手前側に引き倒される。


 すぐさま阿国が動き、刺股の先端で中岡編集の手にある鉈を払い落し、半円状をした金属部分を使い袈裟懸け状態で中岡編集を押さえつけてくる。


「ぐあああああああっつ!」


 あっという間に抑え込まれ制圧されてしまった。小柄の男はすぐに突棒を揺らし着物から鋲を外したかと思うと、今度は私の方へ差し向けてくる。やばい強すぎる!


「あっ、ストップです。す、済みませんでした! 降参です! 私は降参しました!」


 私は敵意が無い事を示す為に、手に持つ鉈を離し床に置いた。小柄の男はすぐに私の鉈と中岡編集の鉈を回収する。


「ぼ、僕も降参です! 参りました! もう抵抗はしません!」


 床に組み伏せられ、身動きが取れなくなっている中岡編集も降参の意を示す。


 奴の場合は抵抗しないじゃなくて、抵抗出来ないの間違いだろう。


「もう抵抗はしないのね?」


「は、はい! 抵抗しません! 降参しました……」


「……そうなの、ふふふ、また捧げものが増えるわね……」


 阿国がぞくりとするような事を呟く。そして、冷たい視線を我々に送ってくる。


「葦人、切り取りなさい……」


「へっ、切り取る! な、何を? そ、そんな馬鹿な!」


 小柄の男は私への牽制を解き、阿国の手で床に押し付けられている中岡編集の下腹部へと近づいた。


「ま、まさか、僕の男根を? 駄目! いけません! それはいけません! やっちゃ駄目!」


 激しい抵抗だ。


「切りなさいって、ま、まさか、僕が生きたまま切る気なのですか! 駄目だ、生きたままは駄目です! せめて、こ、殺してから切り取ってくれ!」


 もう中岡編集の表情は必死さで強張っている。


「いや、ちょっと待ってくれ! やっぱり、殺されるのも嫌だ! 切られるのも嫌だ! どっちも嫌だ! うわあああああああああん!」


 中岡編集は刺股で押さえつけられているものの必死に身を捩って抵抗している。

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