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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第一章      ● 其ノ二 華厳寺大仏殿殺人事件 
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上州へ 弐

 そのまま列車に揺られていると、車窓の左手には吾妻川が見えてきた。山と渓流と田園の織り成す景色がとても素晴らしかった。


 そんな中を列車は早くもなく遅くもなく吾妻川に沿いながら、小野上駅、市城駅、中之条駅と進んでいく……。


 そういえば、この辺りは戦国初期、真田の所領だった土地だ。真田氏は沼田からこの吾妻川沿いを経て上田市までの細長い地を治めていたのである。その名残というか、中之条駅の隣、卿原駅の北側には嘗ての真田家の支城であった岩櫃城跡が残されていた。


 列車はその先にあるトンネルを二つ抜け、目的地の最寄り駅になる矢倉駅に到着した。


 私と中岡編集は列車を降り、誰もいないホームへと降り立つ。空気はいつの間にか湿り気のある山の物に移り変わっていた。


「誰もいませんね、トイレと待合室は一応ありますが……」


 私は周囲を見ながら云った。


「確かに誰もいないな。この矢倉駅は一日の乗車人数が五十人程しかない無人駅だからな」


 そう答えながら中岡編集はかさごそポケットから地図を取り出す。


「よし、先を進もう」


 私と中岡編集は駅を出ると吾妻線と併走して走る国道145号線を上田方面に進んでいった。


「おっ、こっちだな」


 途中右手に曲がり県道のような登山道のような道を北に向って歩いていく。傾斜は左程ではないが左右には巨大な杉の木が立ち並び、山、森の中に分け入っていく感じになる。


 しばらく進むと、巨木が立ち並ぶ上の方に巨大な瓦敷きの屋根が見えてきた。


「あっ、屋根が見えてきましたね」


「ああ、あそこで間違いなさそうだな……」


 中岡編集は汗を拭いながら答えた。


 そのまま登山道のような道を進んでいくと、道が突然石畳になり整備される。そしてその一直線上の先に巨大な門が姿を現した。


「凄いですね大きな門が連なっていますよ」


「さてと、目的地に大分近づいてきたから、取材先の話をしようか」


 中岡編集が徐に声を上げた。


「今回、僕達が訪問するお寺は、華厳宗の一派と称する宗教法人が、昭和初期にこの上州の地に奈良の東大寺とそっくり同じに再現して作ったというお寺なのだ」


 一度説明を受けている私は顎を引く。


「予備知識として調べておいた所によると、奈良の東大寺は、七百年代前半、天平の時代に聖武天皇が仏教を広めようと全国に国分寺を建立し、その中心的な存在として完成させたものだった。ただ、東大寺の宗派である華厳宗という宗教は、日本の仏教の初期に作られた物で、その後、真言宗や天台宗、浄土宗、浄土真宗などが広まっていく中、古く理解しづらいという事で次第に廃れてしまっていったようだ。現在では主に教義仏教といった存在で残っていると聞く…… まあ、今回向かう施設が東大寺の姿を上野の国分寺の地に再建したというならある程度理に適っているともいえるが、残念ながらそのような正統な類の物ではなさそうだがね……」


「そんな宗派の寺を再建しても余り意味が無さそうな気がしますが……」


「僕もそう思うが、上州で奈良の大仏殿の見学が出来るなんて面白いじゃないか、そしてどの位再現出来ているかも気になるところだ」


「そんなもんですかね」


 とにかく私達は石畳で整えられた参道を巨大な門に向って歩き進んでいった。



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