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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
489/539

第二の殺人事件とその考察 伍

 今、この場に居るのは四人だ。下手に分かれて一人っきりや二人になる方がリスクが高い。大人数で一緒に居た方が襲われにくい筈である。そんな暗黙の了解を元に、我々四人は大女将の遺体が横たわる本館一階の一番奥まった部屋へと赴いた。


 風呂で殺されていた文覚は、裸だった事や、その温度や湿気ですぐに腐敗してしまう恐れも鑑みて、遺体をタオルで包み屋外へと移動させた。しかし阿国の母は寒い端っこの部屋で服を着たまま殺されただった状況だった為、亡くなった時のままになっていた。


「……お母さん……」


 部屋に足を踏み入れ、再び遺体を見た阿国は震える声で呼びかける。私達はその横で手を合わせ黙祷を捧げる。


「えーと、部屋には中から突き刺しタイプの錠が嵌められていた。此処と此処に……」


 私は両開きの板戸の両端を指さす。


「この両端に棒が突き立てられて、戸袋まで突き通されていた為に、部屋の戸は開かない状態になっていたのです。なので中岡さんが体当たりをして戸を破壊して中へ入った」


 そう説明しながら皆を誘い部屋の中へと足を進める。


「そして、中の板戸近くで大女将は撲殺状態で亡くなっていた…… ねえ、松子さん。実際にご覧になって頂いて、大女将が自殺したように見えますか? 殴られた箇所は側頭部に近い位置ですよ」


 私は改めて松子に問い掛ける。


「そうですわね実際に見てみると。自殺には思えないかもしれませんね……」


 松子は答える。


「そして、傍に落ちていた興奮した男性器型の石棒に血が付着していたので、凶器は略間違いなくこの男性器石だと思われます!」


 私は石棒の血の付いた部分を指差しながら訴える。


「ねえ、どうして男性器石棒は二本あるのかしら?」


 阿国が聞いてくる。


「これは想像ですが、刀と同じように、もう一本は多分スペアなのではないでしょうか? 抵抗されて落としたりした場合即座にもう一方で殴れるように」


「スペアねぇ……」


 余り納得していない表情で阿国は呟く。


「……開いてすぐに殴られたのか、部屋の中に犯人と一緒にいて逃げようとしたところで殴られたのか、戸の近くで大女将は倒れていた……」


「じゃあ、どうやって密室にしたのよ?」


 阿国は急かすように答えを求めてくる。だが私にはまだ解らない。


「申し訳ありません。少し考える時間を下さい。私も改めて状況を確認し答えを導き出したいと思います。ですが、私だけではなく皆さんも考えて下さい」


 急かされるのは苦手だ。それに私が答えを出すのではなく、本来は全員で考えるべきことだ。


 とはいえ私は顎に手を添え思考を巡らした。


 部屋の戸は開かない状態だった。中岡編集が体当たりで戸を壊して中に入った。遺体は戸の近くに倒れていた。中から確認した所、突き刺しタイプの木の棒は両側とも突き刺さったまま残っており、両方とも破壊の圧力で折れていた。遺体の傍には凶器として使用された男性器型の石棒が二本転がっていた。男性器型の石棒は通常より大きく長さは三十センチメートル程あり、亀頭部分が丸みを帯びたリアルな形をしていた。


 う~ん、どうやって密室にしたのだろうか?


 私は色々と考えてみる。


 折れた突き刺し棒。開かない扉。中から施錠。凶器は石棒。丸い亀頭。それが二つ。


 しばし思案していた私に、閃きが訪れた。


「あっ、そ、そうだ…… そうか、解りました! どうやって密室にしたかが解りましたよ!」


 私は皆に訴える。


「……そうしたら説明してもらっても良いかしら?」


 早速とばかりに阿国が聞いてくる。


「やはり、密室は仕掛けで作られたようです。そして、その仕掛けの鍵はこの男根型石棒になります」


「男根型石棒? 凶器になった石棒が?」


 阿国は聞き返してくる。


「ええ、男根型石棒は凶器としても使用されましたが、尚且つ突っかえ棒としても使用されたのです」


「えっ、突っかえ棒としてもですか?」


「ど、どういうことか解りやすく説明してもらって良いかしら?」


 理解が出来ないようで阿国だけでなく松子も答えを促してくる。


「だから、この両開きの戸は片側は突き刺し棒で開かないようになっていて、もう片方の戸は戸溝に男根石棒が置かれ突っかえ棒になって開かなくなっていたんです!」


 私は熱く説明する。


「性器型石棒が突っかえ棒って長さが足りなくない? それだとしても中からやらなきゃ出来ないんじゃないかしら?」


 阿国は首を傾げる。


「いえ、戸を半開きにして、ほら亀頭と亀頭を折り重なるように戸溝に置いておくんですよ、丸みを帯びた亀頭と亀頭は外から戸を閉めると重さでスライドして向き合う形で戸溝に落ち込み戸を開かなくさせるのです。戸を破壊した際その外側からの振動や圧力で戸溝から外れて凶器然と近くに転がると……」


「……ええ、想像してみましたが…… 成程です…… それなら確かにできそうですね……」


 松子は納得気味に頷く。


「確かにいけるな。壊さなきゃ入れないし、戸の閉まり具合はしっかりしていたから加減は出来ない。僕のあの衝突の力の感じなら男根型石棒は戸溝から外れるだろう……」


 中岡編集も頷く。


「いずれにしても、そんな変な方法で密室を作っていたなんて……」


 阿国も唖然とした様子ながら納得の表情を見せていた。

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