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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
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第二の殺人事件とその考察 肆

 道鏡と定美が去り、残った我々は何をどうしたら良いのかという事をを決めかね、只々その場に佇んでいた。


「今回の事件について、幾つもの疑問が存在しています。そのどれも明らかになっていない…… この場に残って頂いているのもあり、その辺りを議論なり話し合いをしていきたいと私は考えますが、皆さんは如何ですか?」


 私は問い掛ける。


「ええ、こんな状況ですし、一刻も早く場を落ち着かせたいのもあります。それと時間もあるので話し合いをするのは吝かではありませんわ」


 松子は静かに答える。


「僕も同意だ。早く状況を整理したい。このままじゃ湯治も儘ならないよ」


 余り役に立っていない中岡編集も声を上げる。


「母を誰が殺したのか…… 当然の事ながら、それを突き止めずにはいられないわ、それとこの湯治場でこんな事をするなんて……」


 阿国も小さく何度も頷きを見せながら、ぼそりと呟いた。


「それじゃあ、状況を再確認しましょう」


 改まって私は話始める。皆は小さく頷いた。


「兎に角、最初、浴場で道鏡さんのお弟子さんである文覚さんが殺されていました。殺されたのは夜中。発見は朝。第一発見者は中岡さんです」


 中岡編集は大きく頷く。


「誰が殺人を行ったかは解らない状況ですが、容疑者というかこの湯治場に居た人間は、大女将、若女将の阿国さん、道鏡さん、松子さん、定美さん、蛭子さん、淡嶋さん、私、中岡さんです。そして動向が読めなく犯人として想定していた蛭子さんと淡嶋さんは、何処かへ逃げたと思っていましたが、周辺の雪の状況から、この湯治場から離れていない状況だという事が解りました。仮に外部犯が侵入していたとしてもこの施設内に留まっているという事です」


 皆は静かに頷く。


「そんな中第二の殺人事件が起こります。阿国さんのお母さんである大女将が、密室の待機部屋の中で殺されているという事件が起きました。時間は朝方、駆けつけたのは私、中岡さん、阿国さんです。内部からしか施錠が出来ない突き刺しタイプの鍵で閉ざされ、石棒で頭を殴られ殺害されていたのです。また第一の事件の際、外部からの侵入を遮断する為に雨戸を閉め鍵を掛けていたにも関わらず、一か所雨戸が開けられ、掛け金が外されている場所がありました。外部犯に見せ掛ける為なのか、外に出る為なのかその辺りも謎なままです……」


「あの、ちょっとお伺いしますが、私はこの湯治場に着いてから一週間程経ちますが、その蛭子さんと淡嶋さんと云う方々を見た事がありませんわ。本当にその方々は逗留されているのでしょうか?」


 松子が阿国に視線を送りながら質問する。確かにまだ二日、三日しか滞在していないが、私もその二人とすれ違ったりした事はない。


「阿国さんは宿側の人間ですから、その二人の受付をしたり、会ったりしたりしているのですわよね?」


「え、ええ、二人は逗留しています。今は行方が解らないけど、受付の際に説明もしたし、風呂や廊下で何度もすれ違ったりもしているわ……」


 阿国は少し緊張気味に答えた。


「で、でも、二人とも夜型人間だし、缶詰主体の食事だから炊事場には来ないし、印象も薄いから目に付きにくいかもしれないわね……」


「夜型人間ですか?」


 松子が聞き返す。


「ええ、夜型人間だと思うわ、リウマチを伴う自己免疫疾患で日光も避けているという話もしていたし、温泉も夜中に入っているし……」


「となると余計に文覚さん殺害の可能性が高まるか…… 朝発見されたから夜中に殺害された可能性が高いし……」


 阿国の説明に中岡編集が納得したような顔をする。


「阿国さんの説明だと、蛭子さんと淡嶋さんはいるようですが、私としては見た事も会ったこともないので、その存在を疑わしく思っています……」


 松子は言及する。実は私もそれには同意見だ。作られた架空の人間なのではないかという疑惑を持っている。


「でも、気配はありますよ…… 僕が文覚さんの遺体を発見した朝、脱衣所から廊下に向かって進んで行く濡れた足跡があったり、風呂に入ったり廊下を歩いている時に、どこからか見られているような気配を感じたり……」


 顎に手を添えつつ中岡編集が呟いた。


「気配ですか…… 確かに見られているような気配は感じた事はありますわね。でも、それは大女将かもしれないし、阿国さんだったかもしれないですわよね……」


 松子が付け加える。


「いや、此処にいる人達以外に別の気配を感じるんですよ松子さん。上手く説明出来ないけど……」


 中岡編集は躊躇いがちに言及する。


「でも、館内を隈なく探しましたけれど、二人は居なかったではないですか…… じゃあ何処に居るのですか?」


「…………」


 改めて松子にそう聞かれると答えに窮してしまう。中岡編集も阿国も声を詰まらせる。


「あの、それではなのですが、ちょっと質問を変えます。阿国さんのお母さんである大女将が殺された状況は密室だったのですわよね? 誰も入れない密室。誰も入れない部屋で死んでいた……。とすると不可能犯罪なのですから、殺されたのではなく自殺だったとかはありませんか?」


 松子が色々な疑問を提示してくる。


「母さんが自殺? いえ、母は自殺なんてしません。自殺するような理由もありません!」


 阿国は少し怒ったような様子で返してくる。


「でも、じゃあ、どうやって殺害できたのでしょうか?」


「そ、それは何か仕掛けがあるのよ! 殺した後に部屋を密閉するようなものが……」


 口論気味になってきた松子と阿国の間に入り、私は提案する。


「じ、じゃあ、その件から調べましょう。どうやって大女将を殺害し、どうやって密室にしたのかを……」


「母の殺害方法……」


「密室にした方法の解明ですか……」


 松子と阿国は揃って声を上げる。


「ええ、そこから始めましょう。なので怖いけど皆で大女将の殺害されていた部屋へ行きましょう」


 私は促した。


 

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