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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
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第二の殺人事件とその考察 参

 結局、阿国、道鏡、私の三人でまた雪を掻き分け進んだ痕跡を辿る事になった。


 今回も前回同様松子と定美は行こうとはせず、中岡編集も腰に負担が掛かるからとか、残った人たちを見守るとか何とか云って、行こうともしない。


 ただ今回は貸してもらった防寒着に上下の合羽、更に膝近くまである長靴を履き完全防備の状態になっている。そんな状態の三人は再び屋外へと出て庇の下を進んで行く。


 橋方面に近い所に至ると、雪を掻き分け進んだ痕跡が見えてくる。


「よし、ここだな、行くぞ」


 先頭は阿国、道鏡、そして私が後に続く。


 一度雪を掻き分けた後の道だが、再び雪が積もっている為にザクザクと雪を踏みしめる音が耳につく。最初は真っ直ぐ、次第に右側へと曲がっていく。


 雪が降り続いているなか、二百メートル程進むと、右手に見えていた雑木林の裏手へと至った。


「ね、ねえ! あれを見て!」


 阿国の動揺したような声が耳に入る。足元ばかりを見ていて前方を見ていなかった私は、阿国の声に促され顔を上げた。


「こ、これは……」


 私の視界の先には一面の雪景色が広がっていた。そこには先へと続く雪を掻き分けた痕跡は見当たらない。


「どういう事だこれは! 蛭子と淡嶋は雪を掻き分けて逃げて行ったのじゃないのか?」


 道鏡は声を荒立てる。


「先が無いなんて、どういう事なの……」


 阿国はぼそりと言及する。


「って事は、この場所から後ずさり建物の庇の部分まで戻ったって事なのか?」


 道鏡の問い掛けに、私は少し考えてから答える。


「この感じからすると、戻ったように見えますね…… 横にある雑木林までジャンプして足跡を消すなんて事もあるかもしれませんが、一番雑木林に近い所でも四メール近くあります。流石に無理なのではないかと思います」


「と、云う事は?」


 恐らく道鏡にも意味するところは解っている筈だ。それでも聞かずにはいられないのだろう。


「逃げたと思わせたかった為でしょう。でも実際は逃げておらず湯治場に戻っていた……。最初、文覚さん殺害の後に逃げたのか? はたまた逃げたと思わせていて館内に潜んでいて大女将殺害の後に逃げたのか? という事を考えていましたが、それらは全て外れで、殺人犯は湯治場付近から去っては居らず、脅威は何一つ消えていないと……」


 私は躊躇いがちに答えた。そうだクローズドサークルは何一つ解消されていなかったのだ。


「そ、そんな……」


 阿国の声が漏れ聞こえてくる。


「一体何が目的なんだ? 何をしたいんだ犯人は?」


 道鏡の声も苛立ちに満ちていた。


「とにかく戻りましょう。雪を掻き分けた道がない以上。戻って皆にこの事実を伝える必要があります」


 そんな私の説明に道鏡は頷く。


「そうだな戻ろう。もどって状況を整理して、今後の対策を考えなきゃならないだろうし……」


 その場で方向転換をし、私が先頭、道鏡、阿国が後に続き雪道を建物の方へと引き返して行った。


 引き返す道中、重苦しい空気が漂っている。疑心暗鬼という空気だ。


 玄関部で合羽を脱ぎ、広間に戻るとすぐに定美が聞いてきた。


「どうでした?」


「そ、それが……」


 私は掻き分け進んだ雪道は途中で止まっていた事を説明する。それが何を意味するかも含めて……。


「じ、じゃあ、誰が犯人なのかを特定出来ないだけじゃなく、誰もこの湯治場から去っていった人間は居ないという事が判明したって訳? ということは、殺人犯は我々のうちの誰かかもしれないし、潜み隠れているかもしれないと……」


 定美は顔色を失い、声を震わせ聞いてくる。


「そ、そういう事になります……」


 私は頷く。


「じゃあ、犯人は道鏡さんかもしれないし、松子さんかもしれない……」


 定美は嫌悪感を露わにし犯罪者を見るような目付きで、道鏡、松子、中岡編集、阿国、そして私を指差してくる。動揺している所為なのか目付きが異様だ。


「じゃあ阿国さん? それとも坂本さんなの?」


「私は違いますけど、疑われるのは無理ないと思います……」


 最後に指差された私は仕方無しに答える。


「……無理ね…… もう一緒に居るのは…… 人殺しをしたかもしれない人間と同じ場所に居続けるのは、あたしには耐えられないわね……」


 定美は残った全員に探るような猜疑的な視線を向け、そして顔を横に振る。


「あたしは一人部屋に籠らせてもらうわ。もう無理…… 誰が犯人かを考える事より、自分の身を守る事の方が大事だわ。此処を出て鍵を掛けた部屋に閉じこもります……」


「一応ですが、犯人を特定すれば自分の身を守る事に繋がるとも思いますが……」


 私は注釈を加える。


「犯人を特定しようとして、気が付いて、気が付いた事を犯人に気付かれて、標的になるのも嫌なのよ!」


「そ、それは……」


「兎に角、あたしは一人で鍵を掛けて部屋に籠ります。犯人が解って犯人が捕まったら教えて下さい。完全に安全になったら出てきますから……」


 定美はキョロキョロ視線を動かし、落ち着かない様子のまま逃げるように広間から出て行った。


 定美が去った後は皆どうしたものかという顔で様子を覗っている。


 しばらくすると道鏡がふうと大きく息を吐いた。


「儂も部屋に籠っているよ、少し一人で考えたい。犯人の事や、どう処する事が良いのかも含めて……」


「どうされるかはそれぞれの方の自由ですから止めませんが、戸締りは気を付けて下さいね」


 私は声掛けをする。


「気を付けてね道鏡さん」


「ああ」


 私と阿国の声掛けに道鏡は答えながら立ち上がり、そして広間から出て行ってしまった。


 広間には私、中岡編集、阿国、松子が残っている。


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