性器切断殺人 壱
翌朝、深い眠りに陥っていた私を激しく揺らし起こそうとしてくる奴がいる。
「お、おい、大変だ! 起きてくれ! おい起きてくれ! 龍馬子君!」
「う~ん」
「龍馬子君! 起きてくれ、頼む!」
段々と眠りが浅くなり声が鮮明になってくる。
「龍馬子君! 龍馬子君!」
「……なんですか、……なんで起こすんですか?」
私は何とか声を上げる。
「やばい! やばい! 本当にやばい事が起きた!」
薄目を開けてみると、中岡編集が蒼白な顔で私を揺り動かしていた。
「……やばいって何ですか? ……私はまだ寝ていたいんですけど……」
「やばい、やばいんだ! 風呂場で人が殺されているんだよ!」
「あやや、ま、また起きちゃいましたか……」
いつもの事なので驚きは薄い。
改めて蒼白な中岡編集を見ると、風呂上がりのような印象である。だが体が小刻みに震えていた。
「今回のは、やばい! 恐ろしく凄惨な殺され方をしているんだ。そして僕が第一発見者なのだと思う!」
「……凄惨ですか……」
「ああ、酷い、兎に角一緒に来てくれ! 言葉では説明が出来ない! いや、したくない程の殺され方なんだよ!」
「……わ、解りましたよ、一緒に行きますよ……」
私は何とか身を起こした。
「じゃあ、立って! こっちだよ!」
半ば中岡編集に引っ張られているかの体で、人が殺されているという風呂場に歩を進めていく。
「……あの、受付にも声を掛けないと……」
「さっき行ったんだが、誰も居なかったんだよ!」
「と、とりあえず、もう一度行ってから風呂場に向かいましょうよ」
「ああ、解った」
そうして私達は受付へと赴き阿国を探す。しかし受付には誰も居ない。
「そうなんだよ、受付には誰も居ないんだよ!」
中岡編集は苛立ちを滲ませる。
「仕方がありませんね、風呂場に行きましょう……」
再び中岡編集に促され風呂場へと赴いた。そして混浴の風呂場へと足を踏み入れる。
脱衣所を抜け浴室に入り込むと、奥の方に素っ裸の肉体が大の字になって倒れているのが見えた。あの巨根の近くにだ。
近づくと胸には刺し傷、そこから流れ出た血が下腹部へと向かっていた。しかし聞いていた印象と違う。
「あ、あの、確かに殺されているようですが、特に凄惨と云うほどではない気がしますけど…… どちらかと云うと綺麗な殺され方で……」
改めて顔を見ると、あの道鏡という坊主と廊下で話をしていた若い男だった。坊主の弟子だから頭は剃髪していた。
「ば、馬鹿! よく見ろ! 性器が切り取られているんだぞ!」
「えっ、あっ、あああああああ! これは、ちょっと、いや、大分、や、やばい! やばいですね!」
巨大な男根の前に横たわる裸の遺体。そしてその遺体からは性器が切り取られていた。
性器のない遺体と巨大な男根。その男の性器が切られ巨大な男根に成り代わったような、そんな幻覚、錯覚を見たかの境地に陥ってしまった。




