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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第二章
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湯治場 伍

 私は改まり息を吐く。


「しかしながら、何故そんなにサイズに拘る必要があるのですか? 拘る必要なんてないじゃないですか、一般的な大きさなら」


「拘る必要がない? 馬鹿云っちゃいけない、その件は男にとって切実な問題なのだ。名誉の問題ですらある」


「名誉?」


「ああ、小さいと情けないとか、小さいと女性が満足しないとか、大きいと凄いとかだ。ギリシャ神話に於けるプリアーボスという神は庭園の守護神であり、且つまた豊穣と生殖の神でもあるのだが、巨大な男根、陰茎をもっていたとされ、絵画などでも巨大な男根が描かれている。そんなプリアーボスは皆の憧れの的だった。そう男にとっては巨根は憧れなのだ。そんな巨根に憧れる事から、根を大きくする増大法などもまことしやかに語られたりもしているのだ。兎に角、いにしえより男根の大きさは男の名誉心をも司る重要な案件なのだよ」


「で、でも、大きすぎても困るじゃないですか、あの風呂に飾られているような一メートルもあるイチモツなんて要りませんし、何の役に立ちませんよ、入りもしないし、文字通り無用の長物ですよ巨人同士なら解りますが、普通の人間には全くもって必要ありませんよ、あの上の部分なんて人間の頭と同じ大きさですよ」


「で、でもね……」


「じゃあ、普通の人間に於いての巨根というのはどの位の大きさを云うのですか?」


「えっ、巨根の大きさだって?」


「それは、普通にしている時に大きい事が重要なのですか? それとも興奮しておっ立った時に大きいことが重要なのですか?」


「そ、そりゃあ、興奮しておっ立った時の大きさが重要かな」


 考え込みながら中岡編集が答える。


「でも、おっ立った時の状態なんて、基本的に見せないじゃないですか、おっ立った男根を男同士で見せ合いでもするのですか?」


「いや、そんな事はしないぞ、した事もない」


「そうしたら女性を相手にした時以外は晒す事は無い訳ですよね?」


「まあ……」


「なら男同士で見比べる事がある時なんて風呂に入っている時位ってことですよね? だったら、普通にしている時に大きい事の方が重要じゃないですか? 名誉云々云うなら」


「いや、それだけじゃないんだよね、普通にしている時に大きい事も重要で、おっ立った時に大きい事もまた重要なのだよ。複雑な部分があるんだよ」


 何なんだよ、複雑な部分って……。


「あっ、ほら、普通にしている時大きい人は、おっ立った時もそれなりに大きいじゃない。だから、そういうものだよ」


「普通にしている時に普通か若しくは小さい人が、おっ立った場合大きいというのは無いのですか?」


「えっ、それもある。そういう場合も多々ある。それはそれで未知数なのだけど、普通が大きい方が外れが少ないじゃない? 兎に角、大きいことが重要なのだよ」


 未知数とか外れって何だよ!


「改めてですが、なら巨根というのはどの位の大きさなのですか?」


「え~と、まず一般的には、手の甲から小指の先までの長さが大体勃起状態だと云われることがあると聞いた気がする」


「手の甲? どこら辺ですか? 手の甲って五センチ四方位ありますよね?」


「えっ、真ん中位かな?」


「ふ~ん」


 私は頷く。


「で、巨根は?」


「昔、本に書いてあったが、十六センチ以上が巨根だとなっていた」


「ほう、して中岡氏のはどうですか?」


 私は問い掛ける。


「えっ、僕の?」


 緊張が見て取れる。


「ええ、僕のは?」


「僕のはそれなりだ」


 微妙な答えだ。


「なら、良いじゃないですか、大きくも小さくもないなら悩む必要なんてないじゃないですか?」


「まあ、そうとも云うが、大きいに越した事はないのだ…… 男のシンボルだから……」


 私は再び大きく息を吐く。


「取り敢えず、巨根の話は終わりにして、夕飯の用意にしましょう。私は歩き回ってお腹が減ってきてしまいました」


「僕も、お腹が減ってきてしまったよ」


「そうしたら自炊いきますよ。自炊。今日の献立は何ですか?」


 自分でも作れるが、食材を準備したのは中岡編集だ。ある程度は決めてもらわねば困る。


「そうしたら、米は三合分を持ってくれたまえ、それと味噌、シーチキンの缶詰、取ってきた浅葱もお願いだ」


「了解です」


 そうして、我々は食材を持ち、炊事場へと赴いた。


 炊事場にはまだ人の姿は無かった。殆ど自由に使える状態だ。


「そしたら、そこのガス炊飯器の窯を取り出して、米を研いで炊いてくれ」


「はい」


「僕は鍋で味噌汁を作る」


 私はせっせと窯の中で米を研ぎ、収め、炊飯器を始動させる。


 中岡編集は食棚から包丁を取り出し、私が取ってきた浅葱を細かく刻み始めた。端っこの部分を摘んで口にいれ味見までしている。


「浅葱に間違いはなさそうだ。香りもいい」


「何を作るつもりですか?」


「ご飯と味噌汁、そして、おかずは漬物とシーチキン製なめろうだ」


「シーチキン製のなめろう?」


 なんだそれは?


「ああ、南房総でよく食べられるなめろうをシーチキンを代用して作るのだよ、本来は生鯵の身に味噌や葱、生姜を混ぜたたくのだが、それをシーチキンを代用するのだ。僕は家で偶に作るのだが、中々旨いぞ、簡単だし……」


「へえ~」


 というか料理するのか、この人は。


「じゃあ、お願いしますね」


「了解だ」


 中岡編集はシーチキンの缶を開け器に移し、刻んだ葱、味噌、チューブの生姜を入れ、箸で混ぜ込んでいく。


 私は真空パックの漬物を器に移しそれを備え付けのお盆に載せてみた。


 しばらくすると米が炊け、大きめのお盆の上には、ご飯、浅葱の入った味噌汁、シーチキンなめろう、漬物が揃った。


「よし、じゃあ部屋に戻ろう」


「ええ」


 私達はお盆を持ち部屋へと移動する。


 炬燵こたつの上板に料理を並べていくと立派な晩餐の出来上がりだ。


「さあ、食べよう。夕飯を食べよう」


「はい」


 そうして、自炊の夕食を食する事になった。


 私はシーチキンなめろうなる物を、ご飯の上に載せてみる。そして、口に運んでみた。


 味噌、生姜、浅葱、そしてシーチキンの魚の味が相まって旨い。


「こ、これ、ご飯が進みますね」


 私は僅かななめろうでどんどんご飯が食べれてしまう。


「そうだろう、そうだろう、どんどん食べ給え。ご飯は二人で三合は食べて平気だからな」


 合間に漬物を食すもこれまた旨い。


 更に浅葱入りの味噌汁を口に含む。


「いや、味噌汁も旨いぞ」


「ええ、香りが良いですね。私が採ってきた浅葱が効いていますね」


 そんなこんなで私達はたらふくご飯を食べてしまった。


「ふう、食った、食った。もう腹一杯だ」


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