湯治場 弐
「あ、あの、女湯の方にもあれはあるのですか?」
「ええ、あるわよ同じものが…… 大浴場の方にも」
そんなに温泉が枯れる事を恐れているのか…… そこまで沢山おっ立てなくても……。
「いやいや、立派な一物だよ、こちとら自信がなくなっちまうよ」
湯船の方から声が聞こえてきた。湯気で見えにくかったが、目を凝らすと誰かが入っているようだ。
「あら~ 道鏡さん、入っていたのね。御免なさい……」
阿国が声を掛けると、坊主頭の男が湯につかっていた。
「この方は道鏡さんと云ってお坊さんなのよ、最近体の調子が悪いとかで、湯治に来ている所なの」
「僕は中岡です。しばらくご一緒させて頂きます」
中岡編集はぺこりと頭を下げる。
「私は坂本です宜しくお願いします」
私も頭を下げる。
「おう、あんたさん方もゆっくりしていくといい」
「道鏡さん、本当に御免なさい、お邪魔しちゃったわ、ゆっくり浸かって下さいね」
阿国は気を使ってなのか、私達を誘って浴場を後にする。
廊下を出たところで阿国は改まって声を上げた。
「あの人は糖尿病らしいのよ、うちの温泉は糖尿病にも良いと云われているので、糖尿病を完治させるとか云って一日七時間位湯につかっているのよ、凄いわよね」
「逗留してからどの位になるのですか?」
興味が湧いたのか中岡編集が質問する。
「もう三ケ月位かしら、お弟子さんにお寺を任せて来ているのよ、悠々自適な生活ね」
「おいくつ位なのですか?」
「あの人、六十五才位らしいわよ、少し若く見えるかしらね? そういえば道鏡さんあのご神体に対して自信が無くなるとか云っていたけど、あの人の男根は凄いらしいわよ、何でも奈良時代に巨根で有名な道鏡というお坊さんに因んで法名を道鏡と名乗ったとか云っていたから……」
そんな話をしながら再び廊下を進んで行くと大浴場と書かれた場所に至った。
「どうする? 大浴場の中も見ていく?」
基本は同じだろう。
「い、いや、大浴場の場所は解りましたから、僕は大丈夫です。で、そろそろお部屋の方に……」
歩き回って腰が痛くなってきたのか、中岡編集は訴える。
「分かったわ、じゃあ部屋に案内するわ」
本館の建物から廊下で別の建物へと移動する。そして階段で二階へと上がった。廊下から二つ目辺りの部屋の前で阿国は立ち止まる。
「ここよ、この部屋を使ってもらえるかしら」
簡素な部屋だった。トイレは廊下先の共用。当然部屋風呂などなく、テレビも無い。押入れがある六畳間が二部屋あるだけだ。入口に近い方の部屋には中央に炬燵が置かれてある
「ありがとうございます」
取敢えず部屋だけは広い。
「じゃあ、ゆっくり湯治に励んでね」
阿国は軽く会釈をして去っていく。私達は二人だけになった。




