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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第九章
452/539

覚醒  参


「え~と、これから私が話すのは、追求や告発などではなく、演説に近いものになります。私が思う事を皆さんに聞いて欲しいのです」


 私は周囲を見回しながら話しかける。


 そうして大きく息を吐いた。


「え~と、まず、この教会で行われていた奇跡の行いについて話をさせて頂きます。その目的は、新たな救世主である信長様が神の子であり、神の御業を使える特別な存在である事を知らしめる為のデモンストレーションであると考えます。皆の信任を得て、奇跡の業を使える存在だと知らしめる為のものだと……」


 フロイスやオルガンティーノは三成子警部の厳しい睨みの為か口を挟まずこちらを見詰めている。


「その奇跡の行いなのですが、水をワインに変えたり、刺されても死ななかったり、手から出る波動でグラスを割ったり、心を読んだり、手から炎を出したり、大岩を浮かべたりと、様々な神の御業を披露していたと思いますが、これらの神の御業は、実際の所は本当の神の力を使って行ったわけではなく、色々な細工が使われ、あたかも神の御業のように見せていただけのものだったと思うのです」


「そ、そんな、馬鹿な!」


「そうだ! 信長様は本当に神の御業を使えるのだぞ」


 信者たちは口々に不満げな声を上げ、顔を横に振る。


「ソウデスヨ、貴方ハ間違ッテイマス」


 オルガンティーノも同様に不満げな声を上げた。


「ええ、私が単にそう云っても納得は出来ないでしょう。なので、一応どういった細工を使ったのかを説明したいと思います」


 信者たちは、えっ、といった顔をする。


「さて、まず私が最初に見た、水をワインに変えるという神の御業に関してなのですが、流れとしては、持ち手が金色をしたワイングラスに、横にいた蘭丸さんが水を注ぎ入れ、その水がしばらくするとワインに変化するというものだったと思います。確かにグラスの水は赤紫の液体に変化しました」


 信者たちは何人も首肯する。


「でも、あれは本当にワインだったのでしょうか? その変化したワインは飲まれることなく片付けられてしまいましたが、あれはワインなどではなく赤紫色をしただけの水だったのではないかと思うのです。因みに、私はあることに注目しました。持ち手の部分が金色をしたワイングラスにです。

確かに金箔を使って持ち手が金色になっているワイングラスはあります。不思議な事ではありません。でも、今回は敢えてそれを使う必要があったのではないかと考えました。それは何かを隠す為にです。その何かとは…… 恐らくポピドンヨード、なのではないかと思うのです」


「ポピドンヨード?」


 ざわめきの中から聞き覚えのない液体への問い掛けが聞こえてくる。


「ポピドンヨードとは、うがい薬とかに使われるあの錆色をした液体です。金色の持ち手は上部や側部から見るとグラス部分の底部が反射や透過の為に金色に透けて見えます。そこに金色によく似たポピドンヨードが僅かに入っていても傍目には気が付きにくいと思われます。そこへ蘭丸さんが水を注ぎいれましたが、この水も只の水ではなく、でんぷん水だったのではないかと考えます。そして、でんぷんとポピドンヨードが反応した事により水が赤紫に変化したと……」


「そんなことが可能なのか?」


 一人の信者が呟いた。


「ええ、可能です。簡単に出来ますからやってみて下さい」


 私は自信満々に告げる。


「え~と、続いては、西洋風の棺に信長様が入り込んで、その棺ごと信長様が剣で突き刺されるというものだったと思います。顔は小窓が開けられ見えている状況でした。裏や側面は棺を回転させて見せていますが…… これはよく見るパフォーマンスと一緒で、棺を真正面に向き直した後に後方が開き、顔は棺の顔の部分に残しつつ、背後の反射しない黒いカーテン生地に同化させ見えないように工夫しながら、実際の体は棺より後方へとずらして剣は体には刺さらないようにする。といった仕掛けを利用したのではないかと思うのです」


 この仕掛けはよくマジックなどでも使われている為か、反応は薄く小さく頷く者の数も多くみられた。


「え~と、あれ、その次は、何でしたっけ……」


 順番の整理がつかないでいると横から声が掛かる。


「グラスを割ったやつじゃ。手を触れずに……」


「ああ、そうでした。三成子警部有難うございます」


 私は三成子警部に軽く礼を告げてから、改まって皆を見る。


「続いては、手を触れずグラスを念動力か何かで割るというものでした。確か蘭丸さんがグラスの淵を手に持ち、その持ったグラスに信長様が少し離れた場所から手を向け、何か目に見えない力でグラスを割るというものでした。ただ、この時のグラスは持ち手が金色ではないグラスでした。この二つのグラスの違いが最初の細工を気付かせてくれたというのもありましたがね。ははははは」


 私は軽く笑う。


「それで、念動力で手を触れずにグラスを割るという御業では、鍵となる部分が蘭丸さんが持っていたグラスの淵になると考えます。そして、このグラスに使われているガラスは割れやすく、一部が割れると全体が粉々になってしまうという特性を持ったガラスだったと思う訳です。車のフロントガラスのようにね。で、信長様が手を向け念動力を発していると思われるタイミングで、蘭丸さんが二本の指で持っていたグラスの淵に力を込めるのです。割れやすいガラスは指の力でグラスのカーブした部分に圧力が加わった事により、割れ、そして粉々になりやすい特性を持ったガラスは粉々に割れ散る訳です。傍から見れば念動力でグラスが粉々に割れたようにしか見えないという訳なのです」


「チ、チガウ! デマカセダ! 本当ノ神ノ御業ダ! 本当ノ奇跡ノ業デ行ッタ事ヲ、アナタハ屁理屈ヲ云ッテ、無理ヤリ細工ヲ当テ嵌メテイルダケダ!」


 オルガンティーノが必死な顔で否定してくる。


「オルガンティーノ殿! しばしお黙り下され!」


 三成子警部が厳しく言い放つ。


「…………ッ!」


「済みません、先を続けますね」


 私は小さく頭を下げた。


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