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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第七章
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口説き  壱

 日に日に中岡編集は変になっている。ナカナカ云っているし、目は虚ろだし、自分自身を完全に中村だと思っているようだ。中岡なのに……。


 もうこれ以上此処に居るのは危険だ。早くネズミ男を伴ってこの施設から逃げ出す必要がある。この施設から出れば中岡編集も元の状態に戻るのではないかと考える。


 その為には、ネズミ男と親密になる必要がある。一緒にこの施設を出ようと誘って、素直に来てもらえるようにする必要だ。親友となる位の親密さだ。


 だが、その境地に至る程の時間は無い。そんな状態になるまで待っていたら、中岡編集は人格が壊れてしまうように思える。ネズミ男に関しては、昨日少し話して、私を認識してもらったと思うが、まだ誘って一緒に来てくれるような状態には到底及ばないだろう。


 もっと早く親密さを手に入れるには……。


「あら、こんばんは、今日も参加しているのですね?」


 本能寺の変コミュニティーに参加した私は今日もネズミ男に声を掛ける。


「ええ、毎日参加していますよ、僕はこのコミュニティーの一員ですからね」


 弥助は笑って答える。


「弥助さんはどうしてこの教会に? どうしてこのコミュニティーに? 何か望みでもあるのですか? それとも愁いとか悩みとかがあるのですか?」


 宗教に浸かる人間は何か悩みを抱えている事が多い。この弥助に至っても何かあるに違いない。


「えっ、どうしてこの教会に入ったかだって? そしてこのコミュニティーを選んだかって?」


 弥助は戸惑った様子で聞き返してくる。


「ええ、ふと、どうしてだろうと思って」


 そんな問い掛けに弥助は軽く笑った。


「居場所を求めてかな……」


「居場所?」


「うん、僕は、ほら、容姿がちょっと良くないでしょ、だから人とのコミュニケーションが下手で、友達も殆ど居ないんだ。今までの自分の周囲には居場所が無かったんだ。ある時、彦根の駅前を通ってたら、駅前で天正基督教会の信者が小冊子を配って居たんだ。僕はそれを受け取って中を見たのさ、するとその中に信長様の偉業の数々が紹介されていたんだ。僕は感動したね。この人は神だと。そして何かの繋がりを感じたんだ。そのまま何かの力に曳かれるかのように、僕はこの教会に入信してしまったんだ」


「居場所を求めてですか……」


「でね、曳かれる力が何なのかを調べる為に、信長様に僕の前世を見てもらったんだ。透視テレパシーとか未来予知プレコグニションとかの形違いで、前世透視サイコメトリーとか前世探知とかの能力らしいんだけど、それで、それで僕は信長様の用心棒だった事を告げられたんだ。元々は宣教師の従者だった弥助という人物だった事をね」


 弥助は嬉しそうに云った。


「そして、弥助は本能寺の変の際に信長様の為に戦った。蘭丸様と一緒に戦った。そして信忠様に危機を伝えに行ったんだ。だから僕はこの本能寺の変コミュニティーに居るんだ。前世の切っても切れない繋がりがあるから……」


「そ、そうなんだ……」


 私は頷いた。


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