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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
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洗脳  壱

 私達は宛がわれた自室へと戻り、各々二段ベッドで寝る事にする。


「ねえ、三成子さん、明日は何時起床でしたっけ?」


 私は上のベッドに声を掛けてみる。


「確か五時起床じゃ…… 流れとしては朝の礼拝が最初じや、その後は朝食を含めた朝の聖祭の予定じゃな。……しかしながら、今回のは長期戦になるな……。もしかしたら一週間近く要するかもしれんな……」


「えっ、一週間? そんな掛りますか?」


 上のベッドから返ってきた三成子警部の声に思わずピクリと反応する。長期戦だとは思っていたが、私の想定以上だ。


「時間が掛ると拙いか? 当初それなりの時間を取れるように中岡氏には伝えておいた筈だが。坂本氏は忙しいのか?」


「い、いえ、暇は暇ですけど……」


 確かに、今回の取材には、ある程度の時間や期間の余裕は取ってあった。


「なら安心じゃ、私がユッキーナと良継を虜にする時間もたっぷりあるしのう……」


「また、それですか……」


「ふふふ、まあ、ユッキーナも良いが、矢張り吉継よのう、あの危うげな色気はぐっとくるのう、それと、転生前の繋がりは揺るがしがたい強固なものがある。吉継は私の手に落ちるとみた」


「落ちる? いや、いや、あのイケメンはそんな簡単には落ちませんよ! そんなに甘いものじゃ」


「い~や、落ちる。いや、落とす。必ず私のものにする。我らは切っても切れない関係なのじゃ」


「はいはい、頑張って下さいね」


 私は大きくふうと息を吐いた。


「三成子さん、とにかく重要なのは佐藤一郎です。彼に接触していかないと駄目です。明日は行長と吉継の方には気を取られずに、お願いしますね」


「……まあ、留意しておく……」


 そんな感じの雑話を色々続けている内に、どんどん睡魔が襲ってきた。


 疲れの為か、私の意識はどんどん遠のいていく。三成子警部も同様のようで、次第に声が聞こえなくなっていった。


 そうして私達は深い眠りに落ちていってしまった。


 夜を超え朝になり、これが二日目である。


 翌朝、私と三成子警部は起床後に大聖堂へと向かった。大聖堂はもちろん男女共用の場所だ。昨日、何故来なかったのかを中岡編集に問い正す必要がある。職務怠慢だぞ!


 大聖堂に到着すると、もうかなりの修道士達が集まっていた。とはいえ完全には着座はしておらず、数人単位のコミュニティーがいくつも立ち話しているような状態だった。よくよく観察してみていると、何とその一つに中岡編集が入り込んでいた。驚くべき事に仲良さそうに混じっている。


「中岡さん!」


 職務怠慢などではなく奴は奴なりに働いていたようだ。誤解していた。済まん中岡!


 そう反省しながら近づいてみると、何か少し違和感を覚えた。中岡編集はどこか青白い顔をしているのだ。


「中岡さん!」


 中岡編集はゆっくりと私に視線を送ってくるも、目が虚ろだった。


「中岡さん?」


 どうしたのだ、何か変だぞ。


「あれ、どうしましたナカエル?」


 中岡編集が入り込んでいるコミュニティーの一人が中岡編集に声を掛けている。


「だぁいじょうぶだぁよ…… 僕はぁ平気だよ。か、一豊かずとよ……」


「なら良いが……」 


 その中岡編集を気遣っていた一豊と呼ばれていた男が、中岡編集の肩をぽんぽんと叩く。


「中岡さん!」


 私は大きめの声を掛けた。何かそうしなければいけない気がしたからだ。


「なぁかぁおぉかぁ?」


 変だ。目が虚ろなだけでなく動きも変だ。ロボットのようにカクカクしている。


「僕はぁ、ナカエル中村だぁよ、なぁかぁおぉかぁじゃないよ~」


「中村? 中岡じゃなくて中村?」


 どういうことだ! 姓が違っているぞ。


「な、何云っているんですか、嫌だな~、どうしちゃったんですか?」


 私は動揺を抑えきれず震える声で質問する。


「ん? ナカエルどうした? その人たちは?」


 先程の一豊と呼ばれた人物が中岡編集に近づく。


「僕はぁ、ナカエル中村。三中老の中村一氏のぉ転生者! ナカ、ナカ、ナカ、ナカ」


 やられた! 何かされたぞ! 洗脳されたのじゃないか!


 奇妙なカクカクした動きを見せる中岡編集を監視するかの如く、横で一豊と呼ばれた人物が冷たい視線を投げかけていた。恐らく山内一豊の転生者という感じだろう。 


 中岡編集を監視するかのような一豊達のコミュニティーは然ることながら、大聖堂に集まっている人達の中には幾つかのコミュニティーが存在していた。昨日の談話室に居た人達が矢張り幾つかの集団を作っているのだ。


「はっ、あの集団は!」


 目敏く三成子警部が一つのコミュニティーを見付ける。例の関ヶ原西軍コミュニティーだ。


「ちょっと済まんが、私はあっちに行ってくるぞ」


 もう、目が興奮状態だ。


「ちょっと、ちょっと待ってください! な、中岡の様子が変です。傍に居ないとヤバい感じです。それと今は関ヶ原西軍コミュニティーは余り関係がないですよ! 行くなら本能寺の変コミュニティーでしょうが、ネズミ男に接触しないと!」


「いや、 奴は前からあんなだったろう? 奴は奴なりに接触して情報集めをしているようじゃ。心配しすぎじゃ。ネズミ男の件に関してもそんなに焦る事はない、じっくり攻めようではないか」


 三成子警部は中岡編集と付き合いが短いから解らないのだ。私には解る。変だ。とても危険な状態だ。


「いや、変です! いつもと違いますよ」


 必死に抗うも三成子警部の反応は冷たい。心此処に有らずだ。気持ちは関ヶ原西軍コミュニティーの方に行っちゃってる。


「兎に角、私は行くぞ! いざいざいざ!」


 私の制止も聞かずに嬉しそうに向かって行く。嗚呼、駄目だこりゃあ……。


 とにかく、中岡編集は、私が、私が何とかしないと……。


 仕方がないので、私は一人再び豊臣恩顧中堅コミュニティーに近づいていく。


「あ、あの、私はナカエルと一緒にこの体験に参加した者です。一緒に居させてもらいますね」


 そう云いながら私は中岡編集の傍に陣取る。何やら冷たい視線が私に降り注ぐ。


「のう、一豊。我らは東軍に付いて良かったのう、豊臣政権が徳川政権になっても国持ち大名で居られたのだからな。その中でも一番上手く立ち回ったのは一豊よ、山内家は幕末まで存続して大活躍した程だからな……」


「ふっ、確かに俺は上手く立ち回ったかもしれないな…… ナカエルと堀尾君はその後子孫に恵まれず、生駒君はお家騒動などが起こってしまって残念だったな……。だが此ればかりは仕方がないさ……」


 一豊と呼ばれる。山内一豊の転生者だと思われる男がクールに答える。ナカエルが中村一氏、堀尾君が堀尾吉晴、生駒君が生駒親正だとすると、諸説あるようだが彼らは豊臣三中老だ。そして確かに一豊の山内家は、龍馬の上司とも云える山内容堂まで続き、江戸期を全うしている。


 というか、私は完全に無視されてないか?


 そんな横で中岡編集は小さな声でナカナカナカと呟きながらカクカク頷いていた。動きが相当ヤバいぞ、腹話術の人形のようだ。


「さて、それじゃ席に着こう。そろそろ朝の礼拝が始まるからね」


 一豊の言葉に皆は頷き近くの席に着座した。


 しばらく佇んでいると、舞台の横に設けられた部屋からぞろぞろと列をなし人が出てきた。例の如くオルガンティーノとフロイス。ガブリエル柴田、カマエル丹羽、フランシスコ前田、タミエル羽柴、ヨハネ佐久間、ウリエル森、そして中央に救世主である信長だ。


「ソレデハ皆サン讃美歌、アベマリアヲ歌イマショウ」


 オルガンティーノが皆に呼びかける。


 小冊子が皆に配られ、伴奏のパイプオルガンの独特な音色が鳴り響く。


「アベマ、オバ~マ……♪ 御母、まします…… まします。アベマーメン♪」


 私の横から妙な歌声が聞こえてきた。洗脳の為か変になっている中岡編集の歌声だ。


 しかし、アベマーメンって言葉は何だ? アヴェマリアとアーメンが合体しちゃってるのか?


 カクカクと奇妙な腹話術人形のように中岡編集は歌う。とても嬉しそうに。ちょっと怖いぞ。

 

 その後、主の祈り、聖書の朗読と続き、朝の礼拝の時間は終了する。


 それが終わると、今度は聖祭ミサだ。朝食も兼ねているので、パンとミルク、羊肉などが提供されるのだ。



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