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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第三章
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入信体験 伍

「それでね、僕が仲良くしている人間で、坂本龍馬にとても似ている人物がいましてね、龍馬が有名なものだから、多くの人にすぐに似ている事に気付いてもらえる訳ですよ。でもね中岡慎太郎に関しては名前こそ知っている人はいても、顔貌まで覚えている人は少ない。なので僕が似ているかどうか判断が付いてもらえない、僕はそれがとても悔しい。そして、龍馬が羨ましいのです……」


「……ソレガ嫉妬デスネ……」


「なのにね、その人間は偉人である坂本龍馬に似ていると云われるのが嫌って云うんですよ、勿論、謙遜だと思うのですが、その謙遜がとても鼻に付く、嫌らしい、そして、何やら自慢気なのです」


 い、いや、謙遜なんかじゃないぞ! 自慢げでもない。


「そ、そんな事もあり、僕は、奴めの真意を探るべく、皆の前で龍馬に似ていることを告げ、反応を見て推し量ったりしているのですが……」


 そんな事の為にいつもぶちまけてるのかよ!


「……嫌がっている風に装っているが、その実、嬉々としている事の方が多いような……」


「嬉々トシテイル?」


「ええ、この前も、風呂場に龍馬のような格好で入ってきて、おお、中岡、話があるから来たぜよ、とか何とか云っていましたよ。ねっ、ねっ、全然嫌がっているようには見えないでしょ?」


 そ、それは、アンタに危機ききを告げる為に仕方が無く……、嬉々(きき)違いだぞ!


「ウ~ン、自ラ進ンデ龍馬ノ格好ヲシテイタナラ、嫌ガッテハイマセンネ、ダトスルト、何ダカ話ガ違ウヨウナ……」


 おいおい、オルガンティーノさん、懐柔されかかっているぞ! 信じちゃ駄目だ! 信じちゃ駄目だ!私は本当に嫌がっているんですよ!


 私は心の中で叫んだ。


「兎に角、僕はその人物に対して、親近感を覚えると共に、嫉妬をしてしまう。僕が懺悔をするなら、その事位しかない…… でも悔い改める気持ちは全然ありませんけれどね……」


「ナ、成程デス」


 しばらく沈黙が続く。


「ア、アノ、因ミニ、ソノ坂本龍馬ニ似テイル人物トイウノハ、男性デスカ? ソレトモ、女性デスカ?」


「女性ですね」


「デ、デモ、女性ガ龍馬ニ似テイルト云ワレルノハ嬉シクナイ気ガシマスヨ……」


「馬鹿云っちゃあいけませんぜ白丘さん!」


「エッ、白丘? 私ハ白丘トイウ名前デハアリマセンガ……」


 オルガンティーノが困惑気味に呟く。


「失敬、失敬、僕が好きな作家さんの書かれている小説の中で、精神科医と牧師の問答がありましてね、その牧師の名前が白丘という名前だったんで、つい、云ってしまいましたよ、はははははははは」


「ソ、ソレト、馬鹿トイウ表現ハ、極力、云ワナイデ下サイ…… トテモ傷ツキマス」


「失敬、失敬、今後は気を付けますね」


 中岡編集は緊張感の無い声で答えた。


「ウ~ン、改メテデスガ、矢張リ、女性ハ龍馬ニ似テイルト云ワレルノハ嬉シクナイ気ガシマスヨ、貴方ハ、ソノ人物ガ謙遜シテイルト勝手ニ思ッテ、嫉妬心ヲ高メテイルヨウデスガ、独リ善ガリナ気ガシマス。云ウノヲ止メルベキカト……」


 凄い、ちゃんと云ってくれているぞ。


「そうはいきません、僕は奴めの真意を見定めなければならないですから……」


「イヤイヤ、嫌ニ決マッテイマスヨ、ダッテ女性デスヨ……」


「いやいや、奴めの真意はいまだ解っていませんがね……」


「ナ、何デショウ?」


 オルガンティーノは戸惑ったような声を上げる。


「イジられて喜んでいると……」


 だから全然喜んでねえって!


 そんな感じの要領を得ない問答がしばらく続いた後、それは終わった。


 そして、結局、何も解決しなかった……。



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