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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第三章
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入信体験 弐

「ソレデハ、次ハ、大聖堂内デ、奇跡ノ業ノ披露ニナリマス。遅レナイヨウニシテ下サイネ」


 フロイスは皆に呼びかけた。


 修道士達は立ち上がり、ぞろぞろと講堂から出て行く。私達もそれに従い後を追った。


 先程、洗礼を行った大聖堂へと私達は再び足を踏み入れる。修道士達は次々に席に腰を下ろしていき、私達は前から十列目程の場所に腰を下ろしてみた。


 何故か洗礼の際に入った時よりも照明がやや落とされており、若干薄暗い。そして、正面にはビロードの黒いカーテン、いや、幕といった物が掛けられていた。祭壇裏の十字架か隠れてしまう為なのか、幕の中央のやや高い場所には白い十字架が描かれている。


 席に付いてしばらく待っていると、横の小部屋の方から、救世主なる信長、ガブリエル柴田、ウリエル森が中央に出てきた 


 中央に机と椅子のような物が置かれてあり、そこに信長が腰を下ろした。ガブリエル柴田とウリエル森は給仕のように傍に立っている。


 ウリエル森はトレイのような物を持っており、そのトレイにはグラスが載せられていた。一方、ガブリエル柴田の方は水差しを手に持っていた。


 甲高い若い男の声が聖堂内にこだました。


「それでは、いつもの事ですが、今日も奇跡の行イをお見せしたいと存じます」


 信長の横に立つウリエル森が声を上げる。そして、トレイの上のグラスを信長の前へと置いた。ワイングラスのようで、持つ部分は金箔張りなのか、金色に光っていた。


「最初の奇跡ノ行イは、もう何度も披露しておりますが、イエズス様も行ったという奇跡。水をワインへと変える奇跡を行います」


 水をワインにするだと……。そんな事本当にできるのかよ?


「では」


 そう告げると、ウリエル森はガブリエル柴田に目配せする。ガブリエル柴田は信長の眼前に置かれたワイングラスに水差しから水を注ぎいれていく。


 グラスに水が入り込んだ。


 そんなグラスを不敵な顔をしながら信長が手に取り、そして匂いを嗅ぎながらグラスをくるりと回す。すると、グラスに入った水が変化を起した。水が赤紫色へと変化したのだ。


 居並ぶ修道士達はそれを見ながら拍手をし始めた。


「うおおおおおおおおおおおっ、す、凄い! 凄いぞ! ワインじゃ、水がワインに変化したぞ!」


 私の横に居た三成子警部が立ち上がり、驚嘆を浮べた表情でワイングラスを指差している。


「奇跡じゃ、奇跡の行いじゃぞ! 見よ、ビワコノ坂本ジョウよ!」


 わ、私の名前を呼ぶなよ!


 そして感動しすぎだぞ。でも、確かに凄いが、あれって若しかして……。


 私は訝しげにグラスを見詰めた。


「信長殿は、ほ、本物の神の御子かもしれぬ……」


 ちょっと待て、少しは穿った見方をするべきだろ。横で激しく感激している三成子警部を見ながら、私は心の中で突っ込みを入れる。


「さて、続いてですが、復活の業というものを披露させて頂きます」


 引き続きウリエル森が説明すると、横の方から木箱が運ばれてきた。表面となる部分は縦長の六角形といった形をし、中央には十字が描かれている。西洋で使われる棺といった物だった。バンパイアが収まっているような棺が床に垂直に立てられている感じである。


 ガブリエル柴田が十字が描かれた蓋を外すと、中には赤いビロードが貼ってあるのが見えた。そして、柴田は棺をぐるりと一周回した。特に変な所はない普通の棺だった。


「では、信長様の復活の業をご覧あれ!」


 信長は無言のまま直立する棺の中へと身を入れた。ガブリエル柴田は蓋を閉じ、そして、棺の顔の部分に取り付けてあった小窓を開けて、信長の顔が見えるようにした。


 信長は少し自信有りげな表情をしつつ、静かに目を閉じる。


「では、失礼致します!」


 説明を続けていた森蘭丸の転生した人物だというウリエル森が、棺に引き続き運ばれてきた幾本もの日本刀のうちの一本を掴み取り、鞘を引き抜き、その刀を信長が入っている棺に突き立てていく。


「うおおおおおおおおおおおおおおっ! ちょっと待て、大変じゃ! 刀を、刀を刺しておるぞ!」


 三成子警部は目を見開き声を上げた。で、でも、これって……。


 棺の中に人の体があるなら、完全に串刺し状態だと思われる位置、角度で刀は刺さっていく。途中からはガブリエル柴田も加わり合計十本あまりの刀が棺に突き立てられた。どう見ても刺さっていない筈はない状態だ。


 しばらくすると、カブリエル柴田とウリエル森の手によって棺に突き立てられた刀が引き抜かれていった。


 そして、顔の部分の小窓が閉じられてから、改めて棺の蓋が取り外された。


 中から信長が何事もなかったように出てくる。


「凄い! 凄い! 無傷じゃ! 不死の業じゃ!」


 三成子警部が叫ぶ。


 いやいや、これは……。

 

「さてと、最後になりますが、神の御業をお見せさせて頂きます」


 そう云うと、ウリエル森は、水をワインに変える業を行った際に持ち込んだワイングラスのスペアを手に取った。そして、それを机に当てカンカン鳴らしたり、指で弾いたりして、丈夫な代物だということを、私達に対して見せ付ける。最後にグラスの淵を摘みながら、どうぞと云わんばかりに、信長の方に向けて差し出した。


 信長は不敵な笑みを浮べながら、手の平から何かエネルギーが放出されているかの如くに、ワイングラスに手を翳した。信長の手とワイングラスには20センチメートル程の距離が開いている。


「むんんんんんぅ、ふおおおおおおおおっ!」


 信長が翳したまま何か力を込め始める。


 突然、バリンと音を立て、ワインクラスが粉々に砕け落ちた。


 周囲からは、おおおおおおおっ、と云う驚嘆の声が漏れ聞こえてくる。


 う、うおっ、ちょっと待って、お、おい、な、何だ、これは……。これは一体。


 猜疑的な視線で見ていた私であったが、そのどう見ても超能力、どう見ても神通力と云わんばかりの業に驚かざるを得ない。


 これは、か、神の御業だぞ……。


 そう感じ固まる私の横で、三成子警部も横で口をあんぐりと開け固まっていた。


「これにて、奇跡の行いの披露は終わりで御座いまする。信長様が神の御子であらせられるという事が改めてお解り頂けたのではないかと存じます」


 本物の神の子なのか……。

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