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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第二章
422/539

不思議な折衷教会 肆

 三成子とタミエル羽柴の問答を聞いていた所で、不思議に思う事が湧き上がってきた。前世の記憶を持つ転生者が現世で再び集うのは良いが、嘗ての確執などに関してはどうなのだろうと。皆織田家の家臣だったとしても信長亡き後はお互いに潰し合いをした訳である。タミエル羽柴とカブリエル柴田には確執はないのだろうかと……。


「あ、あの、ガブリエル柴田さんとタミエル羽柴さんは信長さん亡き後に賤ヶ岳で戦をしましたが、現世においてその辺りの確執的なものは大丈夫なのでしょうか?」


 私は手を上げて質問する。


「まあ、色々あったが…… この世界で再び蒸し返しても仕方が無いと思っているよ……」


 ガブリエル柴田だと紹介された細い目をした渋めな男が、顔を横に振り小さな声で答えた。


「ああ、清洲会議で三法師様を後継者に添えるという話だったが、結局、秀吉殿が織田政権から豊臣政権に変えてしまわれたし、織田家の家督相続の件も好き勝手にしてしまった。三法師様も最終的には改易させられてしまった。いずれにしても現世でその話を持ちだしてもどうにもならないでしょう。このような形で転生してきてしまったからには、再びお館様を主として、改めて補佐していく事が現世でのありようではないかと思います」


 柴田の横に居た、カマエル丹羽が頷き口を添える。


 そんなガブリエル柴田とカマエル丹羽を見ながらタミエル羽柴は小さく頷いた。


「ソンナ訳デ、我々転生者ハ、ノブナガ様ノ、教エヲ多クノ人達ニ伝エテイクコトニ尽力シテイク次第ナノデス。サテ、ソレデハ、ソロソロ仮洗礼ノ儀ヲ執リ行イタク存ジマスガ……」


 オルガンティーノが再び促してくる。


 時間稼ぎはした。したが限界がある。これ以上仮洗礼というのを避けて通る事は出来ないだろう。この問答をずっと続けるのには無理がある。


「あ、あの、洗礼というのを受けずに体験する事は出来ないのでしょうか?」


 中岡編集が最後の抵抗とばりに問い掛ける。


「イエ、短イ期間ニナルカモシレマセンガ、仮洗礼ハ、必ズ受ケテ頂キマス」


 オルガンティーノはぴしゃりと云い切ってくる。


「デハ、ソチラノ男性、信長様ノ前ニオ出ニナッテクダサイ」


 オルガンティーノは中岡編集を見ながら言及してくる。


「で、でも、僕は体験したいと思って来てはみたものの、光明真言を信じている気持ちも残っていましてね、あの、その……」


 もじもじと言い訳を口にしながら中岡編集は抵抗する。


「早クシテクダサイ、オアトガツカエテイマスヨ」


 オルガンティーノが厳しい視線で促してくる。


「ホラ、ハヤク前ヘ」


 前には救世主信長が立ち、その両脇の聖人達はやや距離を取り侍従のように佇んでいる。立ち並んでいたもう一人の外人であるルイス・フロイスが、どこから取り出したのか、十字の彫られた瓶を手に持ち、信長のやや斜め前に移動して、聖水を掛ける気満々な顔で待っている。


「えっ、ええ……」


 渋々といった様相で中岡編集が前へと出た。


「オ名前ヲ、モウ一度、オネガイシマス」


 ルイスフロイスが云った。


「な、中岡慎一です」


「ナカオカシンイチデ、間違イアリマセンネ」


「ええ」


「デハ、目ヲ瞑ッテクダサイ」


「は、はい」


 中岡編集は従うも薄目を開いている様子だった。


「エー、父ト子ト精霊ノ御名ニオイテ、コノ者ニ許シト、洗礼ヲ授ケル、アーメン……」


 そのような事を色々呟きながらルイス・フロイスが、中岡編集の頭に聖水を振り掛けていく。


「……ソシテ、貴方ノ洗礼名ハ…… ナカエル中岡デス。此処デハ、ソノ名前デ、オ過ゴシクダサイ」


 ナカエル中岡! 良くは知らないが、ナカエルって天使の名前か? 因みにそんな名前の天使は本当に存在するのか? よもや邪馬台国の時みたいな安直な命名方法じゃないだろうな? ヨハネ中岡とか、パウロ中岡とかでも良いような気がするが駄目なのだろうか……」


 私は猜疑の目で見てしまう。


「続イテ、ソチラノ女性、前ヘ」


 フロイスが私を見ながら促してくる。


 私は渋々前へと出た。


「名前ヲ、オネガイシマス」


 ルイスフロイスが云った。


「えーと、私は坂本亮子です」


「サカモトリョウウコデ、間違イアリマセンネ?」


「はい」


「デハ、目ヲ瞑ッテクダサイ」


「は、はい」


 とはいえ私も薄目状態に留める。


「エー、父ト子ト精霊ノ御名ニオイテ、コノ者ニ許シト、洗礼ヲ授ケル、アーメン……」


 中岡編集の時と同じように色々呟きながらフロイスが、私の頭にも聖水を振り掛けていく。


「……ソレデハ、貴方ノ洗礼名デスガ……」


 フロイスはじっと私の顔を見た。


「ウ、ウ~ン、ウ~ン……ドウシマショウ…… 坂本……坂本……」


 悩んでいるようだ。


「坂本…… 坂本…… ビワコ…… ソウダ、決マリマシタ。貴方ノ洗礼名は、ビワコノ坂本ジョウ。ニ決マリマシタ」


 ビワコノ坂本ジョウ…… び、琵琶湖の坂本城だと! それ城の事じゃねえか! 


「そ、それが、私の洗礼名なのですか?」


 私は震える声で問い掛ける。


「サヨウデ」


「それって、し、城の場所じゃあ?」


「チ、チガイマス、洋名ト和名デ構成シタ洗礼名デス」


「ほ、本当ですか?」


「エエ、本当デス。以上です」


 フロイスはピシャリと言い切った。


 私としては腑に落ちずにはいられない。


「続イテ、鎧ノ女性、前ヘオネガイシマス」


 フロイスは強引に話を断ち切り三成子警部を呼んだ。


「名前ヲ、オネガイシマス」


 ルイスフロイスが云った。


「私は石田三成子で御座います」


 三成子警部は堂々と答える。


 可愛そうに、三成子警部も長崎の石田城とか名付けられてしまうのだろう……。


「オ名前ハ、イシダミナコデ、間違イアリマセンネ?」


「ええ、間違い御座りません」


 フロイスは少し考える。


「決マリマシタ。貴方ノ洗礼名はセラフィエル石田デス」


 あれれ、比較的まともじゃないか? そんな名前の天使がいたようないないような……。


 兎に角、城の場所ではない事は確かだ。


 私は困惑する。


 戦国っぽい名前とそうでない名前で差別されたのか? 


 ナカエル中岡とビワコノ坂本ジョウは雑すぎるぞ……。

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