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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第九章
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洞窟内へ  壱

 そうして、静子を先頭に洞窟内へと足を踏み入れた。私と中岡編集は三番手と四番手で前後を囲まれながら進んでいく。


「どう進んでいけば宜しいのでしょうか?」


「取り合えず一番広い空間を選んで進んで行ってみましょう」


「なるほど……」


 洞窟内はかなり歪な形をしていた。洞窟の種類としては溶岩洞の一種なのではないかと思われる。自然物なので脇に小型の洞窟などがある可能性もあるが、とにかく静子は中岡編集の指示通り一番太い穴を奥へ奥へと進んでいった。


 広めの空間に出たり、まるで蛇のようにうねった道になったりを繰り返し、どんどん奥まで入り込んでいく。


 前から二番目に位置している体の大きな使用人は、十メートルおき位にプラスチックに液体が入った棒を折り、それを地面に置いていく。そのプラスチックの棒は蛍光塗料でも入っているのか、緑色に発光し始める。あんな釜みたい風呂を使っているくせに、意外にも先進的な道具を保持しているようだ。


 一時間程歩き進んだ辺りで、何やら周囲の様子が変ってきた。


 側面や下面の岩肌が、いびつでゴツゴツとした様子から、多少滑らかな表面へと変化しているのだ。そう自然に出来た洞窟のような景観から、人の手で掘られた坑道のように景観に変化しているのだ。いつからその状態に変ったかは定かではないが、随分歩きやすくなってきている。


「……中岡さん、この辺りは随分歩きやすくなっていますわね」


 その事に気が付いた静子が振り返りながら聞いてきた。


「……ええ、どうやらここら辺は、もう洞窟ではなく坑道のようですね……」


 中岡編集は周囲の岩の様子を仰ぎ見ながら説明をする。


「坑道ですって?」


 静子は驚いた様子で聞き返してくる。


「恐らく、今歩いている部分は洞窟ではなく人が掘った部分ですよ……」


 中岡編集の説明に、周囲の家族や使用人からは、おおおおっという感嘆の声が漏れた。


「ここは戦国末期、穴山梅雪や、信玄公が生きていた頃、湯乃奥金山で採掘されていた同時代に掘られた金坑道の類ではないかと思われます」


「では埋蔵金は、ここから掘り出された金で作られた可能性が?」


「ええ、その可能性が高いと思います」


 家族や使用人からは再び感嘆の声が漏れ出た。


 そのまま進んでいくと、天井部に木組みがあり、その付近に生活遺構が残されているのが見えてきた。


 最早、洞窟ではなく完全に坑道である。そして、いよいよ人の居た気配までもが見えてくる。生活遺構部分には箪笥や桶、工具、煙管などが残されていた。


「すごい、すごいぞ、ここに埋蔵金がありそうじゃないか!」


 桐子の夫、義景が興奮気味に声を上げた。


「調べてみましょう」


 静子が促す。


 周囲にいた家族や使用人が手際よく生活遺構を調べ始めた。箪笥を開け、道具箱を開け、何か無いかを調べていく。


「あっ、こんな所に!」


 次女桜子の興奮気味な声が聞こえてきた。


 見ると、左手に壷を持ち逆さにして振っていた。右手には壷の中から出てきたのか、丸い金ボタンのような甲州金が乗っていた。


「まあ、桜子さん、金を見つけたのね」


 静子が嬉々とした声を上げた。皆も段々と興奮し始めている様子だった。そういう私自身も己の命の危機もさることながら、正直興奮を押さえきれなくなっている。


 しかし、皆で手分けして探すも、その生活遺構からは、その甲州金一つしか出てこなかった。


「埋蔵金はこれだけなんですか?」


 桜子が納得いかなそうに声を上げる。


「どうなんですか? 中岡さん?」


 静子が僅かに憮然とした顔で中岡編集を見ながら質問してくる。


「いえ、ここはあくまで、生活の場です。僕としてもここが埋蔵金の隠し場所とは思えません。恐らくその甲州金は金穿大工の個人的なお金だったのでしょう。あるとすれば別の場所かと……」


 中岡編集のその一言に、皆の非難の視線が僅かに柔らいだ。


「……坑道はまだまだ奥に続いています。そのどこかにあるのではないかと思います。諸澄九右門も埋蔵金の三分の一しか持ち出す事ができなかったという話です。恐らく何かしらの関門があるのではないかと……」


「なるほど、確かにその可能性が高そうですね」


 静子は落ち着いた声で答えた。その言葉には周囲の人間に落ち着けと云っているかのような響きがあった。



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