埋蔵金の説明 伍
炭窯を過ぎ更に登ると、最後の滝である魚止の滝が見えてきた。なるほど大きな岩を裂くように落ち下っているこの七滝最大の滝だった。水量が多く迫力がある。
「一応、天子七滝のハイキングコースコースは此処で終わりになり、ハイキングの場合は後は引き返すだけになるのですが、我々は更に先にあるという龍の頭をしているという岩と龍口を捜しに行きたいと思います」
中岡編集の声に、家族達は無言で頷き返事をした。
そこから先の道は無くなっている。我々は滝の横の方から滝の上へと出られる場所を見付け、そこから滝の上側へ登ってみた。
その上はもう道のようにはなっていなかった。川伝いに上流へと遡っていくだけである。川は徐々に細くなっていった。
しばらく進みむと、稲子川の本流の源流ともいえる岩の隙間から水が出ている部分に至った。
「ここが、稲子川の源流のようですね……」
中岡編集は呟くように説明する。
源流そのものは特段特徴がある訳ではなかった。岩の裂け目から只々水が生じているだけである。
中岡編集は周囲を見回した。
ハイキングガイドの体験記を記した人が見たという龍の頭に似た岩というのを探しているのだ。
正直、何かの動物に似た岩というのは角度が異なればそう見えない事が多い。周囲は苔むした岩に取り囲まれている。
一体どれが龍の頭に似た岩なのだろうか……。
私は少し後ろに下がって全体を見回した。ふと右側の岩壁に岩肌から突き出たような部分があることに気が付いた。私はその岩の傍に寄ってみる。
岩の下側からその突き出た場所を見上げると、なるほど口を開いた龍の顔に見える。ただ岩は苔むしており、周囲の景色に溶け込んでいる為、そうだと思って見なければ解らないとも云えた。
「もしかして、こ、これが龍の頭に当たるのでしょうか……」
私は突き出た岩を指差しながら言及する。
「なるほど、角度によっては龍の頭に見えますね……」
近づいてきた静子も頷き返事をした。中岡編集も頷いた。
「僕が思うに、この岩の側面や裏面に龍口、岩戸のような部分があるのではなかと……」
中岡編集の声を聞き、傍に居た長女桐子と、その夫義景、清子、子供達が徐に動き出し巨石の周囲を調べだした。何か組織の手馴れた部下が駒のように動いているような印象を受ける。
「お、おい、こっちの岩陰の奥が洞窟のようになっているぞ」
岩の左側を調べていた義景が声を上げた。
一向は声のする方へと集まっていく。
近づくと、まるでその巨石で隠されたかのような洞窟の入口があった。
「こ、これが、竜の口……」
静子は感嘆の声を上げた。周りにいる家族、使用人もなにやら恍惚とした表情を滲ませていた。
「それでは早速入ってみましょう……」
静子が声を掛ける。
皆は頷き、背中のリュックから額に装着出来る懐中電灯を固定し始めた。残念な事に私達にはそのリュックはあてがわれていない。




