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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
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結城へ 壱

 高崎線に揺られ、本庄、深谷、熊谷、鴻巣、上尾を過ぎ、次の次が大宮駅になった。


「じゃあ、そろそろ、作戦を決行するぞ、トイレへ向い、その中で着替えて変装したら、そのまま列車の最後尾へ向かうのだ。そして、大宮駅でさり気無く下車したら、今度は東北線のホームへと移動し東北本線へと乗り込むんだ。そこで落ち合おう。着替えてからは別行動だ」


 中岡編集が小声で囁いてくる。


「えっ、ええ」


 私は緊張気味に頷く。


「君の方が着替えが多い筈だから先に向いたまえ。僕はそれから五分後に向かう。因みに僕は後ろから二両目で降りる予定だ。それで、落ち合った後の名前は、僕が石川誠之助、君は才谷梅太郎だからな。決して中岡、坂本、龍馬の名を出さぬようにな」


「ええ、解ってますよ」


「じゃあ、作戦決行だ」


 私は頷き、周囲を確認してから立ち上がる。


「あっ、あの、ちょっと私トイレに行ってきますね」


「おっ、おお、そうか、行っといれ」


 ちょっと大きめの声での会話だ。不自然に映らなければ良いが。


 そのまま私は隣の車両へと抜け、少し離れた場所のトイレへと入り込む。


 早速着替えだ。スカートを脱ぎ、太めのズボンを履き、カーデガンを脱ぎジャンパーを着て、ニット帽を被り眼鏡を掛ける。


 そして、脱いだスカートとカーデガンを袋へと仕舞い込みトイレを出た。そこから直ぐに車両後方へと歩み進む。列車は遅れる事もなく進んでいき、次はいよいよ大宮駅だ。


 最後尾の扉の前で私は降りるのを待ち構えてつつ、前の車両の方へと視線を送ってみると、怪しげな作業着姿の男がトイレから出てくるのが見えた。


 客観的に見ると、私もあんな感じなのか……。


 バレないようにしているとはいえ、酷い格好だ。男ならまだ良いが、女子にはありえない格好だった。


 列車は定刻通りに大宮駅のホームへと滑り込んだ。私は扉が開くと、自然な装いでホームへと降り立った。すぐに階段を登り、東北本線のホームへと移動する。横目でみている限りでは中岡編集も自然な動きをしているようだった。


 東北本線のホームでしばらく佇んでいると、列車が入ってきた。宇都宮行きの列車だった。扉が開き、私と中岡編集は別の口から乗車する。


 周囲を窺うも取り合えず怪しげな人物は見えない。私は取り合えず空いている席に腰を下ろしてみた。


 すぐに扉は閉まり、列車は走り始める。


 車内は空いていて老人や母子の組み合わせなどしか居らず、怪しげなサラリーマンは居なかった。そんなこんな、しばらくその場で佇んだ後、私は中岡編集の元へと移動して行った。


 中岡編集は四人掛けのボックスシートに陣取っており、窓の外をさり気無く眺めていた。


「あの、ここ宜しいですか?」


 一応、万が一に備えて他人行儀な声を掛けてみる。


「ええ、構いませんよ、どうぞ……」


 中岡改め石川が頷き答える。


 私はそそくさと斜め前に腰を下ろしてみる。


 そんなやり取りをしている間に列車は土呂を過ぎ、東大宮へと進んでいく。


「……なんとか上手くいっているようですね、この車両には他に誰も居ないし、ここまで車内を歩いてきた限りでは怪しい人物も居なかったように思われますし……」


 私は小声で話しかける。


「ああ、事は上手くいっているようだ。才谷よ」


 中岡編集が眼鏡を外してニヤリと笑う。


「でも、とにかく派手は行動は控えて、結城まで行き着きましょう……」


 私も小さく何度も頷いた。


 久喜を過ぎ、栗橋、古河辺りまで至ると、予想外に車内が混んできた。首都圏に向かっている訳ではないので混まないと考えていたのだが、学生が乗り込んでくるのだ。若しかしたら小山辺りに学校があって其処へ通学する際に利用しているのかもしれない。


 そんな中、目立たぬように静かに座っていた私達の傍に、柄の悪そうな高校生が近づいて来た。


「おう、八ッ橋! ここが空いてるぞ!」


 長い学生服に太いズボンを履いた如何にも悪そうな奴だった。髪は短めながらつんつん逆立てている。


「おおっ、伊藤! 良い場所見付けたな、座ろうぜ、座ろうぜ!」


 後ろから丈の短い学生服に裾が窄まったズボンを履いている奴が着いて来る。こっちは髪型は普通だがアッシュグリーンに染め上げられていた。


 何だかちょっと嫌な感じだ。



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