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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
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高崎の夜 弐

 高崎の駅前まで赴き、中岡編集はジーンズなどを主に扱う二十四時間営業の量販服店へと入り込み、百七十五センチメートルサイズのジーンズやニット坊、伊達眼鏡、襟ボア付きジャンパーなどを買い漁っていく。それらは主に明日私が着用する服だ。


 そんなこんな必要な物を買い揃えると、私達は今晩宿泊するホテルへと向かった。中岡編集曰く駅近にある少し古いホテルだと云う事だった。


 洋装店から少し歩き進み路地裏に少し入った所に、中岡編集が予約をしたというホテルがあった。が、そのホテルの看板を見た私は固まった。なんと名前は、ホテル寺田屋だったのだ。


 な、な、なんて不吉すぎる名前だ。それだけではなくホテルという名前は付いているが、明らかに旅館だった。古い旅館が昭和の流行に乗ってホテルと名付け、看板を付け加えたような感じだった。


「あ、あの、中岡さん! なんで、よりにもよって、寺田屋という名前の旅館にしたのですか! 不吉ですよ、不吉すぎますよ!」


 私は強張った顔で訴える。


「えっ、いや、此処しか空いてなかったんだよ、それに近江屋なら不吉だが、寺田屋はそこまで不吉じゃないだろう。中岡はいなかったし、龍馬は殺されてないし」


「殺されてなくても、不吉は不吉じゃないですか! 龍馬は襲われたし、親指を切られちゃったし!」


 私は泣きそうな顔で云った。


「考えすぎだよ、それにもう予約しちゃったし、当日キャンセルはキャンセル料が高いから、もう此処に泊まるしかないよ……」


 こ、こんな事なら東京に戻って始発で結城に向かった方が良かったぞ……。


 とはいえ、もう今更どうにもしようがない。結局、私達はそのホテル寺田屋へと足を踏み入れる事となった。


 ホテル寺田屋は予想したとおり、古い旅館をホテル風にしたため直したような雰囲気で、和風ホテルといった感じだった。


 受付で受付表に名前を書き込み、三階にある部屋の鍵を二つ渡され、六畳敷きの和室へと進んで行く。


「一応、部屋は二つ取っておいたぞ。だから、明日の行動の打ち合わせなどをしたいと思う。なので落ち着いたら僕の部屋の方へ来てくれ」


「ええ、解りました」


 部屋の前で別かれて、自分の宛がわれた方へと入り込んでみると、トイレはあるが風呂は無かった。風呂に関しては大浴場を使用するようだ。


 部屋に荷物を置き、座布団に少しだけ腰を下ろしてから、私はいそいそと中岡編集の部屋へと赴いた。


 部屋では中岡編集が先程買い溜めた服を畳の上に広げ、自分用に買ったニット帽を被り変装具合を確かめていた。


「おお、君か、どうだ、これを被ると、中岡慎太郎ぽさが消えてくると思わないか?」


 中岡慎太郎ぽさって何だよ! そもそも中岡慎太郎ぽくもないぞ!


「ま、まあ、印象は随分変わりますね……」


 私は適当にあしらう。


「君もちょっとニット帽を被ってみたまえ、上手く変装出来るか確かめておいた方がいい」


「えっ、ええ」


 私は促され渡されたニット帽を被ってみる。正直を云うとニット帽は耳が痒くなるから苦手だ。


「おっ、おっ…… お~ 女性ぽさと、龍馬っぽさは消えてきたよ、ただ、ちょっと笠地蔵ぽいけどな……」


「か、笠地蔵!」


 なんか不快な云われようだぞ。


「いやいや、とにかく上手く変装は出来そうだ。これで眼鏡を掛ければ誰かは解らなくなるだろう。あとは高崎線内のトイレでこっそり着替えて上手く大宮駅で降りて乗り換えれば上々だ!」


 中岡編集は誤魔化すかのように話を進ませた。


「よし、変装の方は置いて於いて、それじゃあ、続いて、明日、結城をどう攻めるかを相談しようじゃないか」


「えっ、ええ……」


 中岡編集はニット帽を脱ぎ捨て、和膳の上に腰を下ろし、結城付近の地図を広げた。


 私もニット帽を外し、和膳の前に腰を下ろす。


「さて、僕達の目的地は水野忠邦の墓だ。だが水野忠邦の墓は、随分外れにある。結城の中心地から南に十五キロ程の場所になるのだ。取り合えず結城駅まで赴き、そこからバスかタクシーで近くまで行かなければならないだろうな」


「随分と辺鄙な所にあるのですね」


 私は地図上の水野忠邦の墓の位置を見ながら呟く。周囲は水田ばかりで町すらない。


「その辺鄙さが怪しいだろう。結城の水野家とは関係が遠い忠邦。その忠邦の墓が結城領内ながらも辺鄙な場所にあるという……」


「確かに隠し場所としては良さそうですが……」


「だがな、本命は忠邦の墓だが、もう一箇所、結城には怪しい場所があるのだ……」


 地図を見ながら中岡編集が呟いた。


「怪しい場所ですか、それは一体?」


「結城城だよ。さっき調べていた本によると、結城埋蔵金に関しては結城城が隠し場所だったと云われており、吉宗や阿部正弘が探したなどという話も残っているらしい。また結城城下で金の延棒が発見されたとかいう噂なんかもあるようなのだが……」


「阿部正弘も探していたのですか、なら小栗上野介が埋蔵金を探していたという話も頷けますね」


「とにかく、結城城には何かがあるかもしれない。一応行っておきたいと僕は考えるのだが」


 中岡編集は真剣な顔で私を見詰める。


「確かに何か他のヒントがあるかもしれませんねぇ」


「なので、結城に到着後、駅の北側に位置する結城城へと赴き、その後、南下して忠邦の墓へと向かおうじゃないか」


「了解です。でも、とにかく、私達が私達だとばれないようにするのが最重要です。私は殺されたくありませんから……」


 私は必死な顔で訴える。


「ああ、僕も殺されたくないから重々承知だ。というか君の方が心配だぞ、男の格好をしている事を忘れて女子トイレに入って痴漢に間違われて補導されるとかは止めてくれよ、男子トイレだぞ! 騒ぎになって、追っ手にバレたら元も子もないからな」


「わ、解っていますよ!」


 そうか…… 列車のトイレは良いとして、駅とか城のトイレとかでは男子トイレに入るのか…… なんか嫌だな……。


 そんな明日の打ち合わせをし終えた私達は、お風呂へと入りに行く事になった。


 今日も朝から散々歩き回って汗まみれだ。私は風呂には何が何でも入りたいのだ。

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