埋蔵金の説明 参
そうして、そのまま私と中岡編集、家族、親族一同は、清子たち使用人の居所である帯郭櫓の近くにある正面の門へと向った。
門の前には、一体どこに仕舞われていたのか解らないが、黒塗りのセダンが三台用意されていて、清子たち使用人が、帯郭櫓から登山用のリュックや道具をトランクへと運び入れていた。かなり本格的な装備が揃っている。
車には、長女家族である桐子、その夫、義景、二人の子供である真理子、智子。そして次女家族である桜子、良知、子である義之、舞子、三女である松子、そして静子が乗り込んでいく。
「中岡様、どうぞお乗り下さい」
静子は自分の乗った車の、自分の隣の席に中岡編集を誘う。
「あっ、は、はい」
中岡編集は戸惑い気味に静子の横に腰掛ける。
中岡編集の乗る車の運転席には庭を掃除しながら私達を監視していた体の大きい使用人が座った。
「坂本様は二台目にお乗りくださいませ」
私には松子から声が掛かった。困った事に、私と中岡編集は引き離されてしまった。そうして私の右横には清子が座った。そして左横には松子が……。これでは携帯で電話を掛けたり、ドアを開けて逃げ出す事は侭ならない。まあ携帯のバッテリーは切れてしまっているが……。
「あ、あのお子さん達も行かれるのですか?」
私は三台目に乗り込もうとしている子供達を見て、松子に訊いてみた。
「ええ、折角なので、発見する所を見せて上げたいという事のようです……」
まあ子供といっても中学生や、高校生位の子供だ。確かに労働力や戦力になるともいえるだろう……。
全員車に乗り込み、車が動き出した。
車は通るには狭すぎる林道を縦一列になって下っていく。枝が車体に触れてしまいそうな距離だった。
私も中岡編集も真ん中に位置する場所に乗せられている。私達を逃がさないようにしているのだろうか……。
山道を下り国道までくると、やはり異世界から現実世界に戻ってきたような気分になる。前回は徒歩で、今回は車だが同じような感覚を覚えてしまう。現代の怪談で車に乗ったまま山道に入り込んで不思議な体験をする話があるが、そんな体験後に現実世界に戻ってきた時のような感じだ。
国道五十二号まで出ると、車列は富士川沿い南下していく。
さて、そろそろ私は課題の第一弾を行使しなければならない。私は車窓を眺めながらタイミングを見計らった。車窓には富士川とそれに並行して走る身延線が見えている。
あと五百メートル程で内船駅だという所で私は声を上げた。
「あっ、あの、すいません、松子さん、私、ト、トイレに行きたくなってしまったのですが、駅のトイレで用を足したいので、ちょっと止まってもらっても宜しいですか?」
私は困った様子を見せながら問い掛ける。
「……トイレですか…… 仕方ありませんね…… 解りました」
松子が答えると、運転していた桐子の夫である義景は頷き、駅方面へとハンドルを切った。先行していた車は、それに気付き、少し先の道沿いにハザードランプを付けて止まった。後方の車はそのまま駅方面について来る。
正直云って、内船駅は小さい駅だ。プレハブ小屋のような駅舎があるだけで人も殆どいない。そんな駅の端の方にトイレが設けられている。車は駅の入口ではなくトイレの目の前に停車した。
「すいません、すぐ済ましますから」
「……そうしましたら私も一応しておきますか……」
そう云いながら、松子がすぐ私の後に付いて来た。
「なら、私も一応済ましておきましょうかねえ」
清子までそんな事を云い出した。松子と清子は私から離れない様子だ。
トイレは三つの個室が並んでいた、私は一番奥の個室に入った。
手前のトイレ側からは鍵を閉める音が二回聞こえてきた。清子も松子も個室に入ったようだ。
私のすぐ後ろに松子か清子がいる。私は下着に隠していた封筒をこっそり取り出すと、それをそっとテープで戸の裏側に貼り付ける。
それをしている際に私の心臓は緊張の為、かなり鼓動を早めていた。しばらく待ち、清子と松子が個室から出たのを見計らって、水を流し、私は個室から出た。
鏡の前に清子がいた。松子の姿は見えないが近い場所に気配を感じる。戸は奥側に開く形なので、戸を開け放つと便座などが見えはするが、戸の裏側は死角になって見えない。
もし戸の裏側を確認されたら、中岡編集は見捨てる事になるが一か八か走って逃げよう。そして大声で助けを求めながら民家にでも入り込もう。とまで思いながら、手洗い場まで歩み出る。清子は私の入っていた個室内に視線を送っていた。
「お待たせしました。じゃあ行きましょう」
私は僅かに笑顔を向ける。
清子は無言のまま軽く頷いた。
そうして、私は清子と一緒に、何事も無かったようにトイレから出た。
入口近くでは松子が私たちの出てくるのを待っていた。明らかに私を見張っている様相だった。
「お待たせ致しました松子さん」
私は自然な笑みを浮かべる。
松子は小さく頷いた。そうして私と清子と松子は車へと戻った。
車はゆっくりと走り出す。
見えるミラーで後方を確認すると、後続の車は特に乗り降りの気配もなく追走し始める。私は心の中で大きく安堵の息を吐いた。後はあの封筒を見つけた人か駅員が警察に通報してくれるのを願うのみだ……。




