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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第八章
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埋蔵金の説明  弐

「少々話が戻ってしまいますが、七面山に七つの池があるという伝承がありましたが、それに付随した話しで、遠い昔に京の都に子宝に恵まれなかった公卿の男と奥方がいたという話がありました。その二人は子供が欲しいと厳島神社に何度もお願いした所、美しい娘を授かったといいます。しかし年頃になった折、娘は病気になり顔に醜い痘痕が出来てしまった。娘と両親が再び厳島神社に祈願したところ、甲斐の国の波木井郷の水上に七つの池の霊山があり、その水で清めれば平癒せんとお告げを受けます。そうして娘は旅立った……」


 静子は意味する所に気が付いたのか眉根を少し寄せる。


「……この七面山の伝承と天子ヶ岳、長者ヶ岳に纏わる伝説は似ていると思いませんか?」


「確かに似ていますね、更に重複している所もある……」


「それで、僕は考えたのですが、この伝承は元は一つの所から端を発しているのではないかと……」


「元々は一つですか……」


 静子は問い返す。


 そんな中岡編集と静子の問答を家族達は黙って聞いていた。


「そうです。七面山の伝承も、天子ヶ岳、長者ヶ岳の伝承は元は一つの伝承から産まれたのではないかと思うのです。つまり竜が棲むのも、顔の痣が消えてしまう池があるのも、黄金が転がっていた炭焼き小屋があったのも、同じ場所なのではないかと……」


「では、その場所とは、どこを指すと云うのですか?」


「伝承が様々に広がっている場合、古い物の方が最初にあった話になると思われます。吉野長者の話は年代が定かではありませんが、そもそもあの湖は狸沼と呼ばれていたようです。それが後に田貫になったと……。長者ヶ岳と長者ヶ池という名称も出てきましたが、どちらが先にその名称が名付けられたか云えば、松五郎の話は奈良時代辺りのもののようですから、恐らく長者ヶ岳の方でしょう。長者ヶ岳があって麓の池が長者ヶ岳と名付けられたのではと思われます。それでは七面山に関してに移りますと、古い修験道の信仰があった山だというのは間違いないことだと思いますが、日蓮上人の話に出てくる七面天女の名前から七面山の名前が取られた可能性が高いと思われますので、鎌倉時代後期にその名前が付けられたのでしょう。そうなってくると松五郎の話が一番古く、天子ヶ岳、長者ヶ岳の伝承が発祥なのではないかと考えられるのです。勿論伝承は端折られたり、加えられている可能性がありますから吉野長者の話や七面山の伝承も参考にしなければいけないとは思いますが……」


「では、中岡様は、竜が棲み、顔の痣が消えてしまう池があり、黄金が転がっていた炭焼き小屋があるのも天子ヶ岳、長者ヶ岳だと云うのですね?」


 静子は問い掛けてくる。


「確証がある訳ではありませんが、可能性は高いと思っています。その上で天子ヶ岳、長者ヶ岳の山中に竜の棲む池などがないか探してみた所、面白い内容の本を見付けましたよ」


「面白い内容の本ですか?」


「ええ、山梨県のハイキングガイドの本なのですが、そこにハイカーの体験記が載っておりまして、天子ヶ岳のハイキングコースを歩いた時の事が載っていたのです」


「ハイキングコースですか……」


 今までの伝承の話をしていた時は興味深げに聞いてくれていたが、ハイキングというレジャーっぽい言葉を聞いた静子は少々表情を曇らせる。


「その天子ヶ岳で紹介されているハイキングコースというのは天子ヶ岳の登山に関わるものではなく、天子ヶ岳から流れ下る川沿いにある天子七滝という滝を巡るコースになりまして……」


「天子七滝ですか。そんな滝があるのですか……」


 天子七滝と聞き、静子が少し興味深げな声を上げた。


「その天子七滝はこの身延の地から南東に進んだ場所にありますが山道などは整備されておりません。その滝の場所に赴くには身延線で稲子駅まで南下して、稲子川沿いを北上しながら進む必要があるようです。そして天子七滝を巡る起点となる上稲子という地は昭和の初期まで炭焼きが盛んだったようです」


「炭焼きが盛んな地だった……」


「ええ、村単位で相当な数の炭を作成し流通させていたようですね……。その上稲子から天子ヶ岳山頂側に向かって進んでいくと、稲子川本流や稲子川へ流れ入る支流などに計七つの滝が見られるようです。また滝と滝の間辺りには、嘗て使われていたという古い炭焼き窯の痕跡などがあるようです。一応七滝は魚止の滝が一番奥まった滝となるようで、ハイキングコースも魚止の滝までしかないようなのですが、その体験記を書かれた方は更に道なき道を奥へ奥へと進んでみた所、龍の頭のような岩があったと書き記していたのです」


「り、竜の頭のような岩ですか!」


 さすがの静子も興奮気味に声を上げた。


「僕の見立てでは恐らくそこが入口かと……」


「なるほど……、富士川の西側の領域ではなく、川向こうだったという訳ですか……」


「ですが、龍口から先は、諸澄九右門も進めず、という話があります埋蔵金はその先です。そこから更に関門がある事が予想されますが……」


 中岡編集は関門を通過できる自信があることを僅かに匂わせる。


「では、その先はどう進むのですか?」


 静子が聞いてきた。


「それはそこまで進まないと解りません。ですがそこまで進めば、今まで調べた資料を元に、その先に進める自信が僕にはありますよ」


 中岡編集は用済みと思われないように、自信を覗かせる説明をしてみた。


 静子はしばし考え込む。家族、親族も複雑な表情をしていた。


 そしてゆっくり顔を上げた。


「……解りました。それではその天子七滝があるという場所へ向って頂きましょう。ですが、埋蔵金発見は亡き主人も含め穴山家の長年の夢でもありました。なので、私達も。天子七滝にご同行させて頂きたいと思います。発見する喜びは皆でも分かち合いたいですので……」


 予定通りの反応だと私は内心思った。


「ご一緒にですか、結構な行程ですが平気ですか?」


 中岡編集は一応、心配そうに問い返す。


「覚悟は出来ております」


 静子は家族の方へ視線を送る。家族達は頷き同意の意を示す。


「では、中岡様早速向かいましょう」


「尽力させて頂きますよ」


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