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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第八章
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埋蔵金の説明  壱

 屋内に入り、廊下を進み、謁見の間の前まで辿り着く。


 今日もの襖戸は開け放たれており、部屋の奥の方には、すでに昨日と同様、家族、親族が向かい合って座っていた。私達は歩み出て昨日と同様に、やや下座に置かれた座布団に腰を下ろす。


「お早うございます中岡様、坂本様、なんでも埋蔵金の場所が解り、山探しをしたいと聞きましたが?」


 静子はやや高い声で質問してきた。気持ちが高揚しているのかもしれない。


「お早うございます奥様、そして、ご家族の皆様」


 中岡編集は挨拶をした後、説明を続ける。


「いえ、まだ完全な確証がある訳ではないのですが、またそろそろ足を使って探さなければいけないかと思いまして……」


 中岡編集は笑顔を見せながら答えた。


「どう読み解きましたか?」


 静子は聞いてきた。


「あくまでも確証はないのですが宜しいですか?」


「構いません。お聞かせ願いたいです」


 中岡編集は頷き、ゆっくりと話し始めた。


「今回の埋蔵金伝説には、色々な鍵となる話があります。それは、まず梅雪を殺害した武者狩の野武士の首領、諸澄九右門という男が、梅雪の懐に入っていた武功録を奪い取り、そこに記された伝承を元に、身延山麓にある天の岩戸から埋蔵金の三分の一を持ち出す事に成功したという話。そして、武功録には天の岩戸の龍口という場所までの事は書かれてあったようですが、その先の事が書かれていなかったので、残り三分の二の埋蔵金が眠ったままだという話。また、入手した武功録に書かれてあったという、身延の山にて拝み、天の岩戸なる龍口より入らずんば、備えを隠したる彼の地に辿り着くなり。戦の際には活用するべきなり。という文章。更に穴山家に伝わるという、我らが祖先の名にこそ、分銅の礎へと通じる端緒となりけん。心眼をもって望むるべきなり、という文章です」


 静子を始め家族は静かに話を聞いている。


「いずれにしても、天岩戸と龍口の特定が課題になってくると思われます。最初、僕は、日蓮上人にゆかりの深い身延山内に天岩戸と龍口があると考えました。日蓮上人の逸話に七面天女や龍ノ口という場所で処刑され掛ったという話があったからです」


 静子は小さく頷いた。


「しかしその伝説をよくよく調べていくと、身延山の後方にある七面山の方が、七面天女の居場所であるという事や、岩戸らしきもの、七面天女が竜の姿で現れたという一ノ池、竜が棲んでいると云われている七ノ池の伝説などがあり、より天岩戸、龍口がありそうでした」


「なるほど……」 


「しかし周辺を隈なく調べてみたのですが、残念ながらそれらしき物は見つかりませんでした。松子さんのお話によると皆様の方でも三ノ池から七ノ池をまでを探されていたと聞きましたが、皆様の方でも見付からなかったと聞きます。もっと細かく調べても良いとは思いますが、少し視点を変えてみる事も必要なのではないかと思いました」


「視点を変えるのですか?」


 静子が聞いてきた。


「ええ、視点を変えるのです。僕は視点を変え、身延山、七面山でない場合という事を考えてみました」


 中岡編集は息を吐き一度呼吸を整えた。


「……僕はある文言に注目しました。身延の山にて拝み、天の岩戸なる龍口より入らずんば、備えを隠したる彼の地に辿り着くなり。戦の際には活用するべきなり。という文章にです。僕は、身延の山にて拝む、というのを身延山で祈祷するという意味ではなく、身延の山から見れると取ってみました。とするならば身延山の眼前に佇む天子山地が天を指すのでないかと思えてきたのです。そして、天子山地を調べていくうちに、天子山地に妙な伝承が残っているのを発見しました」


「ほう、妙な伝承というと?」


 静子が訝しげに聞いてきた。


「ええ、簡単に説明致しますと、その昔、富士山西麓に松五郎という炭焼きが住んでいたらしいのです。その松五郎の炭を焼く煙は大層高くまで立ち上り、その煙は遠い都でも見えたと云うのです……」


 中岡編集は続けて、皇女が呪禁師の告げた将来の婿である松五郎に会いに行ったこと、松五郎が嫁入りの支度金として小判を受け取った事、そしてその小判を水鳥を仕留めようと石代わり投げつけてしまった事、そして小判を投げ捨ててしまったものの自分の炭焼き小屋に同じような石が転がっていたという事、そして皇女と結婚した事を話して聞かせた。


「となると、伝承に残る松五郎という男の家に沢山の黄金があった訳ですね」


 静子は確認するように聞いてくる。


「ええ、その後、黄金によって大金持ちになった松五郎はいつしか炭焼き長者と呼ばれるようになったと云うのです」


「炭焼き長者ですか……」


「しかし、寄る年波からか皇女が病に伏しました。松五郎の看病虚しく皇女はどんどん弱っていきました。そして、とうとう皇女は死に臨み、自分が死んだら冠と共に都が見える山の頂に埋葬して欲しいと頼み息を引き取ってしまった。松五郎は願いを聞き届け皇女の冠を皇女の亡骸と共に山頂に埋めたと云うのです」


 静子は真摯な表情で聞いている。


「……そして、その皇女を埋葬した山はいつしか天子ヶ岳と呼ばれるようになり、隣の山は炭焼き長者に因んで長者ヶ岳と呼ばれるようになったというお話なのです」


「なるほど、天子ヶ岳と長者ヶ岳にはそのような伝説があったのですか……」


 静子は神妙な表情を浮かべる。


「更にもう一つ伝承がありまして……」


 中岡編集は続けて声を上げる。


「どのような話でしょう?」


 静子は興味深げに聞いてきた。


「それは、富士の裾野の天間村という村に、吉野長者と呼ばれる夫婦が住んでいたという話です」


「そちらも面白そうなお話ですねお聞かせ頂いても?」


「ええ、当然です」


 中岡編集は頭を下げる。


 そのまま中岡編集は、子宝に恵まれなかった吉野長者が氏神にお願いした末、可愛らしい女の子授かった事、その娘が十八歳に成ったころ飢饉が訪れた事、飢饉に伴い元気を失っていってしまった事、白糸の滝近くの池を見に行きたいと言い出し、その池に身を沈めてしまった事、その娘が龍の姿に成り代わり、飢饉を止める為に池に戻らなくてはならないと、池の底に消えていった事を説明した。


「天間村ですか……」


「ええ、実はその娘が身を投げた沼というのが、田貫沼という沼で、昔の呼び名は長者ヶ池と呼ばれていたとの事です。そしてその長者ヶ池は長者ヶ岳の麓に位置しているのです」


「なるほど……」


 静子は頷いた。

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