表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第七章
31/539

私なりの検証  弐

 中岡編集は高家武田家の系図の資料を追い始めた。



「そんな事、調べられるのですか?」


「本物だとしたら、もしかしたら分家の家系が穴山姓を継いだというのが出てくるかもしれないじゃないか……」


 舐めるように中岡編集は系図を追っていく。


「……むむむ、高家武田も信道、信正、信興、信安、信明、護信、信典と続いていくが、この家も血が絶え、途中、養子をもらって何とか存続させているようだぞ……」


「となりますと、武田家の名跡を残すのも困難な状態で…… 穴山の姓を残している気配などは、ほぼ無いという事ですか?」


「……そう思える」


 私の疑念がどんどん膨らんでいく。重苦しく胸を押しつぶされそうな焦燥、どんどん気味悪い汗が滲みだしてきた。


「ど、ど、どうしましょう」


「……」


「ね、ねえ、中岡さん。こ、これは逃げた方が良いんじゃ……」


「あ、ああ、僕にもそう思えてきたな……」


「今すぐ逃げましょうよ」


「しかし、もう外は真っ暗だぞ。懐中電灯なんてものは持っていないし、電波も届かないから携帯で助けを呼ぶ事も出来ない。上手く国道まで辿り着けるか解らないぞ」


「でも、逃げるなら今しかないんじゃないですか? 明日じゃ遅すぎるような気が……」


 中岡編集は少し考えてから徐に立ち上がる。


「とりあえず外の様子を見てこよう。月が出ていれば、何とか国道まで下れるかもしれない」


「私も見に行きますよ」


 もう、ジッとしている事が出来ない私は後に続く。


 中岡編集が庵の出口へ向った。そして、音がしないようにそーっと引き戸を開ける。


「ひわっ!」


 中岡編集は驚き跳ね飛んだ。なんと驚くべき事に、すぐ目の前には清子が立っていたのだ。私もあまりの事に声が出ない。


「中岡様どちらへ?」


 冷たい感情のない声で清子は中岡編集に問い正す。緊張からか私の手の平にはジットリとした汗が染み出していた。 


「あっ、いや…… ほ、方角と、星の位置を、ちょっと、か、確認しようと思って……」


 中岡編集はしどろもどろに説明する。


「星……」


 清子は小さく呟く。


 その無表情な顔に、私の心にはとてつもない恐怖が湧き上がってくる。


「いえ、でも良いんです。大体把握していますから、あくまでも確認程度だったんで……」


 中岡編集は誤魔化し気味に部屋に戻ろうとする。


「と、ところで、清子さんは何で扉の傍にいらっしゃったんですか?」


 慄きながらも中岡編集が訊いた。


「庭の手入れを……」


「こ、こんな真っ暗の中をですか?」


 とても信じられない清子の説明に中岡編集は驚きの声を上げる。


「ええ」


 清子は無表情のまま答えた。


 清子はそれ以上の事は口にする気配もない。


「じ、じゃあ、僕は調べ物の続きがあるので部屋に戻りますね」


 中岡編集は戸に手を掻けながら清子に声を掛ける。


「中岡様、何度も申し上げましたが、夜間の外出は控えて頂きますようにお願いします」


「わ、わかっていますよ……」


 中岡編集は戸を閉めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ