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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第七章
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私なりの検証  壱


 私が布団を敷いていると、押入れ横にある床の間に飾られている掛け軸が目に入ってきた。


 客間に置かれた掛け軸である。あくまでも飾りだろうと思って見たものの、もしかしたら何かヒントが隠されているかもしれない。


 私はその掛け軸に書かれている文言をじっと見詰めた。文字は漢字で毘沙門天と書いてあった。上杉謙信が自らを毘沙門天の化身であると言って崇めていた神様である。だが武田家とはあまり関係がなさそうである。


 ふと、裏に何か書いていないかと掛け軸を捲ってみた。掛け軸の種類によっては両面が使えるようになっている物があるからだ。しかし裏は変哲のない和紙で出来た裏地で、特に何も書いていなかった。しかし、その掛け軸の端の方に目立たない様に何かが書いてあった。


「なにかしらこれ?」


 そこに書かれていたのは、鉛筆で書かれた文言だった。鉛筆で書かれているからには歴史的な物でない事は間違いない。それは何かのメモのように見えた。


 私は掛け軸を完全に裏返しにして、よく見えるようにしてみる。


 こわかたきしくはけこころかさきれくるけここのかいきえくのけひことかはきとくうけぞこくかもきろくずけみこ


 そこには、そう書かれてあった。


「あの、中岡さん。私の部屋の掛け軸の裏に妙な文字が書いてあるのですが、何でしょうかこれ?」


 中岡編集は襖の隙間からのそのそと入ってきて、私が捲り上げた掛け軸の裏側に視線を送った。


「むむ、これは入れ詞じゃないか、なんでこんな所に……」


「入れ詞って?」


「入れ詞とは元々江戸時代に遊郭などで隠語として使われていた物で、深川言葉とも云われている。文字を挿入して意味のわからない文を作るのだ。例えば、あのお客さんは汗臭いわよ。と云うのを、客にばれないように伝えるのだ」


「……そ、その汗臭いというのから一度離れてもらえませんか? 私はもうお風呂にも入りましたし、特に汗臭くはありませんから……」


 私は何度も云われ、汗臭いという言葉に過敏に反応を示してしまう。


「それで、なんて書いてあるのでしょうか?」


「ん? ああ、読んでみよう。これは恐らくか行を挿入しているようだ。か行を抜いて読んでいくと……」


 中岡編集は口に出しながら読んで云った。


「わ・た・し・は・ろ・さ・れ・る・の・い・え・の・ひ・と・は・と・う・ぞ・も・ろず・み」


 中岡編集は少し考える。


「違うな、一つ飛ばしで読むようだ……」


 そして再度文章を見詰める。読むに従い、文章の意味がハッキリ見えてくる。同時に中岡編集の顔も青くなっていく。


「そ、そんな……」


 私は何か足元から冷たいものが這い上がってくるような悪寒を感じ、全身に鳥肌が立っていく。背中にも冷たい汗が流れ、どんどん呼吸が浅くなっていった……。 


「ま、まさか!」


 中岡編集も同意らしく唖然とした顔で小さく叫んだ。


「で、では、あの家族は偽者だと云うのか、そして盗賊諸澄の一派だと! 調べてみよう」




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