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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第八章
295/539

私の調査  肆

「と、兎に角、宿泊者の部屋の状況を見せて頂きたいと思います」


 私は自分の小説の話を避けるべく、大きめな声で云い放った。


「では、網乾さん御夫婦の寝泊りをされていた二部屋から見てもらいましょう」


 勝警部が答える。


「ええ、どうぞ、どうぞ、怪しげな物などありませんから、どうぞ見てください」


 網乾夫は自信ありげに言及する。


 そうして、勝警部に引き連れられ、我々は網乾夫婦の部屋へと向かった。網乾夫婦の部屋は安西達四人連れの部屋から二つ間を開けた所の部屋だった。若者四人の部屋に隣接させると五月蝿いだろうという配慮が感じられなくもない。


「どうぞ、見てください」


 最初に入った妻の部屋には、大した物がなかった。お茶を飲んだ形跡や、茶菓子の包みが屑篭に捨てられている以外は無いといっても過言ではない。


「ほ、ほとんど何もありませんね……」


「ええ、私の部屋で家内は殆ど過ごしていましたからね」


 そうだった。寂しいとか何とかで、布団を夫側の部屋に持ち込んで一緒に寝たと云っていた。


「じゃあ、今度は網乾さんご本人の部屋を見せて頂いても宜しいでしょうか?」


「ええ、私の部屋も怪しげな物などありませんからどうぞ見て下さい」


 自信満々に網乾夫が答える。


 すぐに隣の部屋へと赴くと部屋には布団が二枚敷かれていた。朝に事件が発覚し、その後すぐに集められたというのもあり、朝起きた状態のままになっている。というか私の部屋も布団が敷きっ放しだ。


 荷物に関しては、警察の方で一時保管中であるから、此処には無い。部屋には残された服とコンビニエンスストアーのビニールに入ったペットボトルとお菓子位しかない。正直見るべき所は殆ど無かった。一応、押入れと備え付けの和戸棚を開け中を確認してみるも、何も無い。


「済みません。一応、布団をどけてみても良いですか?」


 余りに見るべき所がないので、布団の下とかを確認してみようと私は考えた。


「ええ、被害者の部屋とかではないので、別に構いませんが」


 勝警部は簡単に返事をしてくる。


「構いませんよ、ついでに畳んでもらっても良いですけど」


 網乾夫が笑って答えた。


「それじゃあ失礼して」


 私は枕を横にずらし、掛け布団を捲ってみる。何も無い。次に敷布団を横に移動させ、三つ折にしてみる。何も無い。


 正直何も無かった。


「ありがとう御座いました。もう大丈夫です」


 私は勝警部と網乾夫に頭を下げた。


「そうしましたら次の部屋に……」


「ええ、行きましょう」


 勝警部が頷く。


 そうして今度は赤岩の部屋と扇谷女史の部屋になる。ここも夜には赤岩が扇谷女史の部屋に布団を持ち込んで一緒に寝た。そ、そして、あろう事か、夜伽まがいな事までしたという。そんな破廉恥な状況という事もあってか、赤岩の部屋には網乾妻の部屋と同じように残骸らしきものがあるだけで、殆ど何も無かった。一応押し入れと戸棚も確認するも、何も入っていない。


「あの、氷垣さん、布団の予備とか浴衣の予備は用意されていないのですか?」


 私は一応聞いてみる。


「ええ、最初に必要な分をお伺いしてご用意させて頂いて居りますので、予備は御座いません」


 これ以上見るべき所は無い。


「では、次の扇谷さんの部屋へ向いたいと思います」


 赤岩の部屋の確認を終え、すぐに隣の扇谷女史の部屋に向かうと、イヤらしい事に布団が二枚並べて敷かれてあった。そして部屋には二人で過ごした形跡が多分に見え隠れしていた。荷物は警察が中身を確認する為に一次保管しているので部屋には無かった。因みに私の荷物も一次保管中だった。


「一応、押入れと戸棚を確認させて頂きますね」


 私は引き開けて中を確認する。何もない。仕方が無いので網乾夫婦の部屋と同じようにしてみる事にする。


「じゃあ、布団をどかしてみても良いですか?」


「えっ、ええ……」


 夜伽の痕跡を恐れてか、疚しい事があるのか、扇谷女史は僅かに躊躇った声を上げる。


 イヤらしい事をするからこんな目に会うのだ。引っ剥がす!


 私は先に左側の布団からいった。枕をどけ、掛け布団を引っ剥がした。


 敷布団と掛け布団の間に何かしらの痕跡があるかと思いきや、特に痕跡も凶器らしき物も見当たらない。


「何もないですね……」


 更に敷布団を剥がし畳との間を確認する。だがそこにも何も見当たらない。


 何もないか……


 と私が思った際、ふと、細かな埃のような塵のような物が目に入った。それは左程長くはないが、白い糸のような毛のように見えた。


「凶器のような物はありませんな」


 勝警部が横から声を掛けてくる。


「え、ええ、無いですね……」


 私は答える。


 続いて、右側の掛け布団と枕を横にずらしてみる。


 下には何も無かった。


 そのまま敷布団を下を確認するべく、どかして三つ折にしてるが、布団の下には何も無かった。






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