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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第七章
291/539

吸血鬼  肆

  勝警部と赤岩が覗き込む。


「確かに坂本さんにそっくりだ。いや、坂本さんに見える……」


 本と私を交互に見ながら勝警部が言及する。


「そ、そうですね」


 赤岩も私の顔を見ながら頷いた。


 ど、どうする、誤魔化すか…… う、受け口作戦でも使おうか……


 受け口作戦というのは、伊賀屋敷殺人事件で犯人が使ったトリックの応用だ。顎を突き出し他人の風を装うのだ。しかし横に中岡編集がいるのが気に入らない。台無しどころか、変顔だと馬鹿にされそうだ。味方ならともかく奴は敵に近い存在だ。


 でも…… 少しだけやっておこう……。


 私はそっと下あごを突き出していく。


「あれ、どうした? 顎でも痒いのか?」


 思いもよらず、中岡編集が私の顎を掻いてくれる。


 な、なにしとんじゃ!


 私は顎を引っ込めた。このぉ、後門の狼めぇぇ。


「……しかしながら、この写真は嬉々としているように見えるが……」


 勝警部が呟く。


「嬉々としていますね、楽しんでいるように見える」


 き、嬉々となんてしてねえわ!


「あ、あのう…… これは坂本さんで?」


 勝警部が聞いてきた。


「…………」


 私は涙目で見詰め返す。


「あのう……」


「ふふふ、ご名答ですよ」


 後門の狼がしれっと答えた。


 嗚呼……。他の人に知られてしまった。知られてはいけない秘密だったのに……。


 も、もう、駄目だ、隠し切れない……。


「……ええ、ええ、そうです、そ、それは、私です。私だったのです……」


 私は告白した。


「で、でも、嬉々となんてしていません! 楽しんでなんていません! そこに居た人達が、嫌がる私を無理やりあんなポーズをとらせて、あ、あんな写真を…… 嗚呼……」


 私はさめざめと告白する。


 まるで写真を盾に追い詰められていく美女のようだ。たぶん浪路もその類だろう。


「確認なのですが、坂本さんは龍馬子さんなのですね?」


「ええ、ええ、龍馬子です。私は龍馬子だったのです」


 私は完全に観念した。


「そうですか、坂本龍馬子さんだったと…… 著作が華厳寺大仏殿殺人事件となると、推理小説。とすると坂本さんは推理小説家だと?」


「そ、そうです。私は推理小説家なのです……」


 私は頷く。


「これは、奇遇と云うかなんというか、ならば是非この奇妙な事件を推理小説家さんの視点で推理してもらうというのも一つの方法ですな」


 勝警部が興味深げに云った。


「いやいや、気をつけた方がいい、逆もありますぞ、推理小説家だということ良い事に、我々を惑わすような推理をもってくるかもしれませんぞ」


 網乾夫が否定気味に云ってくる。そもそも推理なんてする気がなかったものを無理やりほじくり返したのはお前だぞ!


「いえ、参考までに推理小説家さんの意見を聞いてみるのも方法だと思った次第で……」


 そう応えた勝警部が改まって私を見た。


「龍馬子さん、恐れ入りますが、推理小説家さんとしてこの事件をどうお考えなのかを、参考までにお聞かせ願えればと思うのですが?」



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