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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第七章
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吸血鬼  弐

「少女の名前はカーミラという名前で、ちょっと不思議な所がありました。体が弱く神経質であり、賛美歌を異様に嫌い、朝が弱く昼頃に起きてくる。そして、部屋に必ず鍵を掛けて寝るのというものです。そして、それだけでなくカーミラが来てからというもの不思議な事も周囲で起こるようになりました。近くの村で女性の幽霊が出るという噂や、幽霊を見た者は体調を崩し、亡くなるといった事が起こり始めたのです」


 網乾夫はわざとなのか恐ろしげな表情を作り上げる。


「ふふふ、更に! ある時、城の中でローラの母方の祖先の肖像画を見付けるのですが、その一世紀以上前に描かれたカルンスタイン伯爵の妻だというマーカラという女性の姿とカーミラが瓜二つだったのです」


「い、一世紀と云いますと、百年ですか……」


 勝警部は呟く。


「ええ、百年ですよ、ここは重要ですよ百年ですからね」


 網乾夫は念を押してくる。


「え~と、そして、それから、しばらく経ったある晩、ローラは寝ている時に首にチクッとした痛みを感じ目を覚ましました。部屋には黒い服を着た女が立っており、その女は恐怖で動けないローラを尻目に扉から出て行ったのです。しかし扉には間違いなく鍵が掛かっていたのですよ……」


「いや、怖い、怖いですね……」


 勝警部は蒼白な顔をする。現実の殺人事件に携わっている癖に、この手の話が怖いらしい。


「それからというもの、ローラは日に日に衰弱していってしまいます。見かねた父親は医者を呼びローラを診せます。するとローラの喉に噛まれたような痣がある事に気が付きます」


「ああ、とうとう噛まれて……」


 勝警部は口に手を当てる。


「そんな折、スピエルドルフ将軍が来るという話と、スピエルドルフ将軍は廃墟となったカルンスタイン伯爵の城へと向かうという話が入ってきました。ローラの父親はローラを連れスピエルドルフ将軍と合流する事にしました。出会ったスピエルドルフ将軍は憔悴しています。そして姪が死んだ経緯を話し始めました。その話と云うのが、とある仮面舞踏会である貴婦人の母娘と知り合う事になったのですが、母親の方に急用ができ、娘を預かる事になったと云います。娘と姪はとても仲良くなったのですが、ある時首筋に噛まれたような傷跡が出来、それから日に日に体調が悪くなっていったと云います。な、何と驚くべき事に、ローラの身に起こっている事とそっくりです。そして将軍が語る娘の特徴はカーミラのそれとそっくりだったのです」


「おおっ」


 勝警部は身を反らせる。


「ある夜、スピエルドルフ将軍の姪はまた襲われたと云います。将軍が駆けつけ襲っていた者をサーベルで切り付けた際、その正体が預かっていた娘だと気が付きました。しかし姪は手遅れで、そのまま衰弱して亡くなってしまったとの事でした。そんな話を聞いている間にローラ達はカルンスタイン伯爵の城へと到着しました。城の中を色々調べていると、そこに何とカーミラが現れます。再び将軍とカーミラの格闘が始まります。ですが将軍は劣勢です。しばらくするとカーミラは霧の様に消えてしまいました。呆然としている一行なのですが、そこに長年吸血鬼の研究をしているというウォンデンベルグ男爵という男が現れます」


「ウォンデンベルグ男爵ですか?」


「まあ、ドラキュラの方に出てくるヴァンヘルシングとほぼ同一の設定の人物なのですが、その男がカルンスタイン伯爵の城の内部から伯爵夫人の墓を見付けだします。墓の中の棺にはカーミラが横たわっていました。棺の内部には大量の血が貯まっており、カーミラは死んでいるのか寝ているのか良く解らない状態だったと云います。ウォンデンベルグ男爵は云いました。彼女は吸血鬼なのだと。そして一世紀以上生きている存在だと。その後、カーミラの胸に杭を打ち、首を切り落とし燃やしたのです。そして、一連の事件は収束を向かえる事になるのです……」


「あ、あの、ローラは、ローラはどうなったのですか? その後、衰弱して死んでしまったのでしょうか?」


 勝警部はローラの事が気になるのか質問した。飽くまでお話なのに。


「ふふふ、ローラが気になりますか?」


「え、ええ」


「安心してくださいローラは無事でした。そして後日、忘れられない出来事だったと語るローラが出てくるのです……」


 網乾夫はゆっくりと話を終えた。


「いやいや、参りました背筋に怖気が立ちましたよ」


 勝警部が頭を掻きながら言及する。


「えーと、それでなのですが警部さん。大事な事を忘れてもらっては困る。今、話したカーミラの話と今回の事件…… とても似ていると思いませんか?」


「えっ、ええ…… 確かに少し似ていますけど……」


「いや、似ている! そっくりだ。少しどころではない! 被害者には噛まれたような傷痕があった。そして、その他の者にも噛まれているのだ……」


 網乾夫はぎろりと安房比丘尼の方に視線を向けた。


「それだけではなく、カーミラのように老いずに一世紀以上生きている存在がいるのですよ、これは偶然ですかね?」


「えっ、いや……」


「私には安房比丘尼の長寿の秘密が今回の事件と深く係わり合いがあると思えてならんのですよ」


 網乾夫は云い切った。


「ちょっと待ってくれ、うちの安房比丘尼が血を吸って被害者さんを殺したと云うのか?」


 流石に黙ってられないとばかりに住職が声を荒げる。


「そ、そこまでは云いませんが、長寿の秘密が何だか解らない以上、吸血的な行為で不老や不死を維持している可能性もあるのではないかと思うわけで……」


 網乾夫は語気を和らげ言及する。しかしながら事件にかこつけて長寿の秘密を知ろうとしているように思えてならない。


「私は吸血鬼では御座いません」


 安房比丘尼は凛とした様子できっぱりと云う。


「じゃ、じゃあ、何で…… そんなに不老なのですか」


「…………」


 安房比丘尼は答えない。


「いや、いや、流石に、吸血鬼のように血を吸って殺害というのは有り得ないでしょう。首に二つの穴のような傷跡はありましたが、血を吸われた訳ではありませんから、それと催眠術で眠らされた訳ではなくて睡眠薬が使われている事からも科学的な物が見え隠れしています。いずれにしてもご長寿でいつまでもお若いという事と今回の事件は矢張り関係がない事のような…… それとは別の部分で煮詰めていかないと……」


「そんな事はありません。関係があるかもしれない。私には関係があるように思えてならないですぞ!」


 網乾夫は固執するように云った。


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