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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
287/539

事情聴取  陸

 改まって勝警部は私達を見回す。


「……さてさて、まだまだ細かくお話を聞き吟味していかなければならないのですが、実はですね、皆さんにはまだ報告していなかった事が御座います。検死官の方から神余由美子さんの体内から睡眠薬の成分らしきものが検出されたという報告が入ってまいりました。まだ細かい所は正確には解っておりませんが、睡眠薬で眠らされていた所で、忍び込まれ首に致命傷を負わされたという見方が強まっています。そして、それに付随して…… 神余さんの部屋に用意されていた茶筒の中からも睡眠薬らしき成分が……」


「えっ、茶筒ですか?」


 扇谷女史が声を上げる。


「ええ…… そして、付け加えると……」


「えっ、も、若しかして、私達の部屋の茶筒にも?」


 扇谷女史が探るように聞いた。


「ええ、分量、成分は正確にはまだですが、睡眠薬系の成分が含まれていたようですね……」


 だから皆深く寝入ってしまっていたというのか……。あの急に襲ってきた睡魔の原因がそれだったとは。


「えっ、じゃあ、私達の部屋の茶筒にもですか?」


 網乾妻の方が驚いた様子で質問する。


「ええ、お泊りになられた方々のお部屋の茶筒にはどれも入っていたようです。また夕食時に振舞われたお茶が入ったポットの中からも睡眠薬の成分が……」


「何てこと…… あの深い深い睡眠は睡眠薬のものだったなんて……」


 網乾妻は驚いたような顔で呟く。


「だ、誰が一体そんな真似を?」


 今度は網乾夫が少し怒り気味に言及する。


「勿論、犯人でしょう。殺害する為に眠らせる、抵抗力を削ぐ為に眠らせたのだと。目撃されないようにする為でもあるかも知れませんが……」


「な、なんて事を……」


 強張った顔で扇谷女史が呟く。


「で、でも、そんな睡眠薬なんて、簡単に手に入る物なのですか?」


 扇谷女史が続けて聞いた。


「一応は薬局でも売っています。ただ量が少なく値段が高いですけどね…… それより病院で三ヵ月分とかを処方してもらって、それを飲まずに取っておいたりすれば、大量の薬を手元に用意する事は可能です。まあ処方された当人の物の場合はすぐに調べれば解りますけどね、家族の物とかだった場合や、数年前に処方されていたとか古いものだったら調べるのは難しくなりますがね」


「しかしながら、何だってそんな手の込んだ真似を…… そして何だってこんな酷い真似を……」


 網乾夫が強く言及する。


「さあ、殺害するという事に関しては、何か確執があったのだと思われます。若しくは古くからの復讐とか恨みとかがあったとか……」


「確執とか恨みですか……」


 扇谷女史は強張った顔で呟いた。


「ええ、まあ動機とかは大抵そういったものが多いですからね……」


 勝警部が当たり前といった顔で言及した。


「そんな訳で、後で宿泊者の方々には尿検査、若しかしたら血液検査の方もご協力をお願いする事になりそうです」


 私達を含め安西、赤岩、扇谷女史、網乾夫婦は頷いた。ウイルス説はほぼ無さそうだが、その可能性が少しあるなら血液検査までしてもらえるとありがたい気もするが……。


「あの、ちょっと思ったんだが、私等のお茶に睡眠薬が仕込まれていたという事なのだが、となると私等は被害者になる可能性が高い気がするのだが、つまり容疑から外れるのではないと思ったのだが、違うのかな?」


 網乾夫が勝警部に質問する。


「確かに、睡眠薬を飲まされた被害者ではありますが、殺人事件の被害者ではありません。それに犯人が自作自演をしている可能性もあります。睡眠薬を飲まされ動けなかったから犯人ではないといったような自演です。なので容疑者から外れるという事にはならないと思います」


 勝警部が厳しい顔で答えた。


「成程、自作自演かそういった場合もあるのか…… いやいや、なんだか警部さんが、宿泊者ばかりを疑って、宿側の人間を余り疑っていなそうだったんで、思わず宿泊者側も被害者で容疑外なんじゃないかと云いたくなってしまってね」


 網乾夫は頭を掻く。


「実のところ、私は宿側の人間が実は怪しいのではないかと思っている部分があるのですよ」


「宿側の人間が怪しい? どういうことですか?」


 網乾夫の呟きに勝警部は聞き返す。


「いえね、ほら、怪しい人がいらっしゃるじゃないですか、ご住職の曾祖母だというのに随分とお若い方が……」


 網乾夫はじろりと安房比丘尼を見た。


「そ、それは、蟇田椿さんの事を云われているのですか?」


「ええ、そうです。安房比丘尼と呼ばれているその方の事です」


 網乾夫の言葉に安房比丘尼は少し戸惑った顔をする。


「確かに御住職の曾祖母だという蟇田椿さん、いえ安房比丘尼様の存在は不思議でしかありませんけど……」


 勝警部も安房比丘尼の存在は知っていたようだ。


「でも、その年齢の件と、今回の事件には何の関係もないじゃないですか」


「いえ、関係がない事はありません。少し考えると関係がある事が見えてきます」


「関係がある?」


「ええ、その長寿の秘訣と今回の事件、実は関係が無さそうで関係があったと私は睨んでいる」


「どういう事でしょうか?」


 勝警部は解らないといった顔をしつつ聞いた。


「勝警部はアイルランドの怪奇小説であるカーミラの話は知っておられるかな?」


 網乾夫は勝警部の顔を覗き込んだ。



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