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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
284/539

事情聴取  参

 聴取が終わり、私は一度広間へと戻った。そして先程まで座っていた中岡編集の横へと腰を下ろす。


「どうだった? どんな事を聞かれたんだ?」


 座ると中岡編集が興味深げに訊いてくる。


「えっ、いえ、昨晩どう過ごしていたかをですよ、私は噛まれた事とかを説明しましたけど……」


 私はそのまま答える。


「成程、僕と同じような感じだな…… で、それだけかね?」


「あっ、それと変な心理テストをされましたよ、クイズみたいな……」


 私は付け加えた。


「ん? 心理テストだと? 僕はそんなの受けていないが……」


 中岡編集は眉根を寄せる。


「いや、変な心理テストでしたよ…… 神戸と云えば? みたいなのを聞かれて、異人館とか答えたら、操練所だよ。とか云われたり、警部が嫌いな歴史上の人物を聞かれたり……」


「ほ、ほう、それで君は何と答えたのかね?」


「良く解らないから明智光秀と答えたら、福沢諭吉だよって、意味が全然解りませんよ」


「ふふふ、成程、成程、そうか、いやいや…… あちらも気が付いたらしいな…… が、しかし、君のせいで師弟再会が台無しになってしまったと……」


 中岡編集はニヤリと笑う。


「さっきから、何ですか? 師弟再会、師弟再会って、意味が良く解らないのですけど?」


 私は憮然とする。


「え、意味が解らない? 君は本当に気が付いていないのかね?」


「何をですか?」


 中岡編集は大袈裟に息を吐く。


「とても重要な事だぞ? 気が付いて然るべき事だが……」


「いや、全然気が付きませんけど…… 一体何のことですか?」


 中岡編集は顔を横に振った。


「ふう、なら、一般知識なのだが坂本龍馬の師匠と云ったら誰だね?」


「ま、また龍馬ですか!」


 私はムッとする。


「いや、飽くまで一般知識だよ」


 中岡編集は私を制するように云った。


「それは、お、乙女姉さんですか?」


「違うよ! 乙女さんは飽くまでも姉だろ、師匠と云ったら勝海舟じゃないか!」


「あっ、ああああああああああああああっ!」


 そこで私は気が付いた。


 というか、またこれかよ! って勝警部は私にそんな事を促してたって事? いや、だが、この流れは懲り懲りだぞ、中岡編集の勘違いかもしれないし……。いや勘違いだぞ、きっと。


 私はそう必死に自分に言い聞かした。


「そ、そ、そ、それって、勝警部が勝海舟を気取っているって事ですか? いやいや、そんな事ありませんよ、嫌だな…… だって海舟って云っていないじゃないですか、あの人麟太郎ですよ、麟太郎って名前じゃないですか」


「馬鹿たれが!」


 中岡編集は厳しい顔で怒鳴った。


「勝海舟の幼少の頃の名前は麟太郎だぞ、麟太郎じゃないか! 君は歴女なのにそんな事も知らないのか?」


「えっ、勝海舟って、子供の頃の名前は麟太郎だったの?」


 私は目を見張る。そんな事までは知らなかったぞ……。


「じ、じ、じ、じゃあ、勝安房とかなんとかというのは?」


 私は搾り出すように聞いた。


「勝海舟は安房守という官位を持っていたのだ。だから勝安房だ。そう周囲から呼ばれる事も多かった…… それと勝海舟の嫌いな人物も福沢諭吉だぞ、咸臨丸で渡米した際に勝海舟は船底に篭もって役に立たなかった癖に、船長面してずいぶん偉そうだったと散々云われてから、ずっと仲が悪かったんだ……」


 が~ん。


 となると勝警部は勝海舟を気取っていた…… そして、それを私にアピールしていた。でも、私が龍馬に似ているからアピールしていたとは限らない。単に自己顕示欲が強いだけで…… そうだ、まだ止められる。


「な、中岡さん……」


「何だね?」


「……私は、この流れはもう懲り懲りなのです……」


「楽しいのに?」


「た、た、楽しくなんかないわい! 一体、何が楽しいんだ! 云ってみろ! 苦痛でしかないわ!」


 私は激昂する。


「はあ、はあ、はあ…… なので…… これ以上刺激するような事は控えて下さい……」


「刺激するような事? 僕、してないよ」


「はあ? 師弟再会とか云っている事だよ! 刺激するような事云ってるだろ! 自覚ねえのかよ! あたしゃ泣くぞ! 泣いてまた土下座さすぞ!」


 私は周囲を気にしながら小声で叫んだ。目に涙を浮かべてだ。必死だぞ!


「わ、解ったよ…… 今回は気をつけるようにする……」


 中岡編集は仕方が無さそうな顔で呟いた。


「本当に頼みますよ」


 私は強く念を押した。


 

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