事件発生 肆
その後、駆けつけた警官により所轄に連絡がなされ、所轄の刑事、そして、殺人事件という事もあり千葉県警から刑事や鑑識などがやってくる事態となった。私達は重要参考人という事で行動を抑制される事となる。残念な事に治療や診察は後回しのようだ……。
そんなこんな様子を覗っていると、県警の責任者は地黒で彫りの深い異人のような顔立ちの男だった。とはいえ眉尻が元々下がっているようで優しそうな印象だ。
しばらく鑑識の調査、現場の撮影などが行われていたが、その後、異人のような顔立ちの男が、私達の待機していた場所へとやってきた。
「えー、私は千葉県警の警部であります勝麟太郎で御座います。安房の事件は勝安房こと勝麟太郎が謹んで解決致したく存じます。よろしくお願い致します」
勝麟太郎…… どこかで聞いた名前だ。それと安房の事件は勝安房ってのは何だ?
そう思いながら、中岡編集に視線を送ると、やや興奮気味の視線でその勝麟太郎警部を見詰めていた。
どうしたんだ一体?
「えーと、被害者である神余由美子さんは昨晩、えー、午前三時頃にアイスピックのような凶器で頸部を刺され殺害されたようですね……」
それを聞いた安西、赤岩、扇谷女史は再び表情を曇らせる。
「あ、あの…… 由美子さんは傷から菌とかが入って死んだとかはないのですか?」
扇谷女史はまだ少し気になるのか質問をした。
「いや、頸部を刺された事が直接の原因で死亡したようですね。菌やウイルスなどは、ほぼ関係ありません。即死に近い状態だったと思われますよ」
皆は、人騒がせな、といった顔で中岡編集を見た。中岡編集は頬を掻く。
とはいえ首筋に傷跡を残され殺害未遂のような事をされたのは間違いない。今後死んでしまうかもという怖さは薄らいできたが、自分が殺されてしまっていたかもしれないという恐怖は拭い去れない。
「細かな点は後で一人ずつお伺いしたいとは思いますが、大まかな所を少々。因みに、お連れ様の、安西さん、赤岩さん、扇谷さんはどなたですか? 挙手をお願い出来ますか?」
宿帳で調査済みなのか、名前を呼びかける。
「私が安西です」
「赤岩です」
「扇谷美紀です」
三人は答えた。
「ありがとう御座います。亡くなられた神余さんはお三方のご友人だったのですかね? ご一緒に旅行中だったと?」
「え、ええ、そうです。サークル仲間です。それと俺は、由美子と、神余由美子と付き合っていました。こんな事になっちまって……」
安西は訴える。
「サークル仲間ですが、私と扇谷、安西と神余さんはそれぞれ付き合っているので、ダブルデートみたいな感じでの旅行にもなっていましたね……」
横に居た赤岩は安西の説明に付け加える。
「サークル仲間でありつつダブルデートですか…… なるほどですな」
勝麟太郎警部は頷く。
「よく、こんな感じの旅行はされるのですか?」
「ええ、史跡巡りみたいな旅行の時は一緒が多いですね」
安西は答える。
勝麟太郎警部はうんうん頷いてから、今度は私達の方へ視線を向けた。
「そうしたら、今度は、そのお隣の部屋にお泊りだった中岡慎一さんかな? そして、更に隣にお泊りだった坂本亮子さんにお伺いしても宜しいでしょうか?」
私と中岡編集は頷く。
「えーと、まずお二人と神余さん達とのご関係は如何でしょう?」
「えっ、いや、今回初対面ですよ。お風呂で一緒になった時に話をしたのが最初です……」
中岡編集が答える。
「成程、初対面ですか……」
勝麟太郎警部は少し考える。
「えーと、それでは、一応ですが、中岡さんと坂本さんのご関係はどのような? 恋人同士ですか?」
「い、いえ、違いますよ! 上司と部下みたいな関係です。恋人同士なんかじゃあありません!」
私が少し怒り気味に答えた。男女二人で旅行してるからってすぐに恋人同士だと思うなよ!
「ほう、上司と部下みたいな関係ですか…… ふふふ、何だかその云い方だと不倫関係みたいですね」
勝麟太郎警部がとんでもない事を云いだした。
「ふ、不倫! 不倫なんかじゃありませんよ!」
私は憤る。
「あっ、こいつは失礼しました。はははは、済みません、済みませんね、ちょいと、口がすべってしまいましたね……」
勝麟太郎警部は笑いながら頭を掻いた。なんなんだよコイツ、失礼な事をさらっと云いやがって!
「そうしましたら、後でまた細かくお話を聞きたいと思いますので、もう少しそのまま待機していてもらえますかな?」
「は、はい」
皆は頷く。嫌とは云えないだろう。




