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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
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宿の夜  壱

 夕食が滞りなく終わり、私達は部屋へと戻る事となった。中年夫婦は食べ終わるとさっさと席を立ち広間を出て行った。安西達一行も静々と席を立ち部屋へと戻っていく。


「じゃあ僕達も部屋へと戻るとしようか」


「これからどうします? まあ、このお寺付近には何も無かった気がしますが…… それとも、もう一度お風呂に入りに行きますか?」


 なんだか不快な思いをしたけれど、美容に効くならもう一度入っても良い気がする。


「僕はもう風呂は良いかな…… そもそも、そんなに風呂好きではないしな…… それと館内も特に何がある訳でも無さそうだし…… 寺院の外は何も無いし真っ暗だ。なので部屋に帰って里見八犬伝の資料の再確認と、明日に里見八犬伝縁の施設をどう巡るかの相談をしようじゃないか」


「解りました。それじゃあ、中岡さんの部屋で話す方向で良いですか?」


「別に構わんが」


「じゃあ戻りましょう」


 そうして私と中岡編集は部屋へと戻っていく。中岡編集の部屋へと入り、小型のお膳を挟んで向かい合わせに座り、用意されていた茶道具を使いお茶を入れてそれを飲みながら少し佇む。


「あの~、因みになんですが、さっき話しに出てきた村雨丸って何ですか? それと犬塚信乃って主役か何かなんですか?」


 お茶を啜りつつ私は先程の話でよく解らなかった部分を質問してみる。そもそも里見八犬伝の概要が解っていない。


「き、君、その質問は余りに無知すぎるぞ! 無勉強なのは解っていたが無知すぎる。それじゃあ今後の調査にすら差し障りがあるぞ!」


 中岡編集は怒り気味み云う。


「……す、済みません」


「仕方が無いから概要だけ解りやすく説明しておいてやろう。帰ったらちゃんと南総里見八犬伝を再読するのだぞ」


「はい……」


 私は頷く。


「一応、起の部分は説明したから、犬士の列伝の部分~最後までを簡単に説明してやろう」


「浪路と浜路はもう間違えないで下さいね」


 私は一応忠告する。


「解ってるわい!」


 中岡編集は赤くなりつつ叫んだ。


「えーとだな、まず信乃の父親の番作が結城合戦で落ち延びるのだが、その際に鎌倉公方から名刀である村雨丸を託されるのだ」


「とすると村雨丸というのは刀なんですか?」


「ああ、有名な刀だ。歌舞伎とかでも里見八犬伝は演じられているが、抜けば玉散る氷の刃、という謳い文句などもある。なんと刀身から水が迸りその様子が村雨の如きという事で村雨丸と名付けられたのだ。山火事に巻き込まれた信乃が村雨丸を振って火を消しながら進んだというエピソードまである」


「凄いですね、放水車並ですね」


「おいおい放水車って全然イメージと違うぞ! もっと妖な感じだ! まあ、村雨丸の細かい事は後にして、戦に敗れた大塚番作は生まれ故郷の山手線の大塚駅付近にあった大塚村へと引き返してくる。しかし故郷に帰ってみると姉夫婦の亀篠と蟇六に家督を奪われてしまっていたのだ。番作は仕方が無いので点を付けて大塚から犬塚へと姓を変え村でひっそりと暮らす事になる」


「だから犬塚なんですね、しかしながら、その姉夫婦は酷いですね」


「ああ、酷い奴等だ。そして、それから事あるごとに番作への嫌がらせをし、村雨丸を奪おうともしてくる。番作が死んだ後は信乃を引き取り、養女である浪路、いや違った浜路と結婚させ、後見人として収まる事を示唆しながらも信乃からも村雨丸を奪おうとしたり、事故に見せ掛けて殺そうとかしてくるのだ」


「……でも、村雨丸を奪ってどうするのですか? 売ったりしたら足が付きそうだし……」


「番作も信乃も村雨丸を鎌倉公方に返す事を前提に所持していたのだが、亀篠と蟇六も同様に返すつもりではいた。そして手柄を独り占めにして褒美をたんまり貰おうと思っていたのだ」


「褒美狙いですか、成程……」


「だが策を弄するもの策に溺れる事になり、信乃が旅に出た隙に、浜路を見初めた地方代官との縁談を決めてしまおうと画策するも、浜路が罠だと気付き逃げてしまい、嫁が消えたと代官の怒りを買い亀篠と蟇六は殺されてしまうことになる……」


「ああ、さっき話していたシーンですね。繋がりましたよ」


 良いシーンなのに確かに台無しだ。


「その信乃の旅というのが村雨丸を、足利家を古河で再興させた足利成氏の元へ返上する為の旅だったのだ。しかし、村雨丸は旅の直前に蟇六と雇われた網乾あぼし左母二郎さもじろうという男の手により刀身のみをすり替えられてしまっていた。信乃は返上する直前にその事に気が付くが、言い訳は効かず。間者だと疑われ捕らえられそうになってしまうのだ。信乃は追っ手から逃げているうちに芳流閣の上に追い詰められてしまう……」


「ああ、そっちは、さっき安西さんが好きだと云っていたシーンですよね」


 私は思い出し声を上げる。


「そうだ、そこでもう一人の犬士である犬飼現八と対峙するのだ。だが相手も犬士、とても強い。勝負が付かず拮抗したまま二人は城から落ち、下を流れる利根川に流されてしまったのだ」


「八犬士対八犬士。確かに血沸き肉踊るシーンですね」


 私はうんうん頷く。


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