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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
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終章


 今回は大した推理や事件解決をした訳ではなかったので、事情聴取も略ないまま自由になった。


 そうして、私達は清水駅から東海道本線に乗り、東京へと向かっていく。


「いやあ、変な事件に巻き込まれましたけど、鉄甲船は良かったですね。木津川口の戦いの際にはあんな鉄甲船が活躍していたのだと思うと、胸が熱くなりますよ」


 東海道線の車内で落ち着いた頃、私は思い返し声を上げる。


「まあ、乗った船は和船じゃなくて洋船を鉄甲船に仕立て直していた構造だったけどな……」


「ん? 和船じゃなくて洋船?」


 私は問い返す。


「ああ、安宅船は基本的に和船形式だ。そこに鉄板を張って鉄甲船に仕立てていた。昨日の船は基本的に洋船形式をだった。まあ、そこまで求めるのは無理かもしれないが……」


「和船と洋船の違いって?」


 私は質問する。その違いがよく分かっていない。


「和船は基本的に桶とか箱みたいな構造だ。一方、洋船は樽のような構造だと云われている。なので高い波が来たら和船には簡単に水が入り込んでしまうが、洋船は余り中に水が入り込まないようになっているんだよ」


「ああ、確かに洋船は甲板後方の出入口以外は高い位置で密閉されていますね。でも鉄甲船だって上に櫓を建てていますから、高い位置で甲板は密閉されていると思いますけど……」


 私には左程の違いは無いように思えてならない。


「いや、基本的に大きな構造の違いはある。安宅船は確かに高い位置で甲板は塞がれているが、洋船とは構造が随分違う。和船が甲羅や殻のような外骨格構造だとすると、洋船は背骨とも云える竜骨があり、肋骨のような骨組みがあり外板が張ってあるのだ」


「でも、安宅船も骨組みはしっかりしていると思いますよ」


「確かに安宅船の骨組みはまあまあしっかりはしている。だが、洋船のような構造ではなく、どちらかと云うと家を建てる時の骨組みに近いのだよ、洋船なら骨組みがしっかりいているから外板は小さめのものを張っていくのでも作れるが、和船は外骨格形式だから巨木から大きな一枚板を沢山用意しないと巨船は作れない……」


「成程…… 確かに四角い板張りの船のイメージがありますね」


「まあ、和船仕立てて作ると、スピードも出ないし無駄なコストが掛かるから、そこまでは望むべくもないか……」


 中岡編集は車窓からちらちら見える駿河湾に視線を送る。


「鉄甲船やそのベースとなった安宅船は、関ヶ原の合戦後から大阪の陣に至る頃、大船建造の禁により没収、製造されなくなってしまうのだ。規制もあるが、天下泰平、戦が無くなっていくに従い、大きく動きが遅い安宅船は使われなくなり、小型の関船の方が重宝されるようになっていった。そして、鎖国が解かれる幕末に復活するかと思いきや、西洋船の優位性から求められるのは西洋船だった。それも蒸気船。そんな訳で安宅船の歴史は終わってしまったのだ。まあ、今回その安宅船を改造した鉄甲船に乗れたのは良かった。良い経験になったよ。君もこの体験を小説に生かせるように記録しておいてくれたまえ」


 何だか偉そうに云ってくる。


「は、はい、資料を纏めておきますね」


 私は頷き答える。


 こうして、私の鉄甲船に乗るという体験は変な事件と共に終わりを告げた。


 また、面白い取材材料を求め、どこかへ赴くのだろう。面白い小説が書けるように。


 私も中岡編集と同じように駿河湾に視線を送ってみる。戦国時代の鉄甲船に思いを馳せつつ……。



 了





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