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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
254/539

推理の奪い合い 陸

 九労が銭形を促し、大田原氏の殴られた頭部、刺された腹部、柱に縛り付けられた体の部分、部屋全体の様子、血溜まり、そして、微かに残る筋のような血の痕跡、血の垂れた後などを写真に撮るように指示していく。


「一応、部屋の様子も写真に収めて下さいね。お膳とか座布団などの配置もお願いしますよ」


 部屋にはお膳や座布団、そして私達の部屋にも用意されていた阿古屋貝の形をしているという最中が膳の上に残されていた。部屋は広いので床柱と明け放たれていた窓や障子のライン上には幸いな事に座布団や膳は位置していなかった。


「銭形さん、部屋とベランダの境となる戸溝の部分も撮っておいて下さい。足が引っ掛からないように配慮され作られたと思われる戸溝の浅さと、それでも引っ掛かりが強かった為か血の痕跡が強くなっている此処もお願いしますよ」


「ええ、解りました。……あ、あの、因みになんですが、私の姓は銭形ではありません。本名は神田平次と申します。銭形はこの船上での役名です……」


「へえ~、神田さんと仰られるのですか、これは失礼しました。って役名ですか……」


 役名って、おいおい、だったら事件後は神田君とか呼べば良いのに……。


「そ、そしたら神田さん、ベランダ部の高欄下の隙間も撮っておいて下さいね、段差が少なく糸に引かれた凶器が外に飛び出しやすそうな構造なども」


「はい」


 神田平次はバシャバシャ写真を撮っていく。


「因みに鬼平さんの姓は? 鬼平ですか?」


 九労は軽い感じに質問する。


「はい、私は鬼平です。鬼平平蔵と申します」


「鬼平平蔵ですか、珍しい名前なんすね」


 確かに珍しいな……。しかし親はどうして平蔵なんて付けたんだろう。鬼平の平は平蔵の平だぞ。


「へいへい、なんですね」


「へいへい?」


 鬼平がぎろりと睨む。そして、後を続ける。


「 ……あの、私を変な風に呼ばないで頂けますか? 貴方は私の友達ではありませんから……」


「ははは、失礼しました……」


 九労は頭を下げ頬を掻いた。


 そんな際、膳を見詰めていた美由紀がふと声を上げた。


「あら、今、気が付いたのですけど、お父様の愛用の湯呑みが無いわね」


「確かに無いな、義父さんのいつも使われているあの湯呑が……」


 忠正も声を上げた。


「ん? 湯呑みですか、それがどうかされましたか?」


 鬼平は気分を害した為なのか、少し怒り気味に聞き返す。


「いえ、不思議だわね、と思っただけですけど……」


 美由紀は答える。


「その湯呑みが無いと問題でもあるのですか? 因みにどんな湯呑みなのですか? 一応探してみようと思いますけど……」


「黒い湯呑みで、厚みがあってちょっと歪な形をした茶碗ですわ、昔、千利休が持っていたとか何とか……」


「えっ、千利休?」


 鬼平はちょっと驚いたような顔で聞き返す。


「もしかして、それ、かなり高級な茶碗じゃあないですか?」


「ええ、確か黒楽大黒茶碗とかいう名前で、嘗て千利休が所持していたものを譲り受け、代々受け継いてきたとか聞いています」


「えっ、千利休が持っていた物? そんな物を普通の湯呑みとして使っていたというのですか?」


「ええ、だってお茶を飲む為の物だから、その通りに使うだとか何とか云って使っていましたわよ、お父様の愛用品で何処かに行く時はいつも持ってきていたわよ」


「確認なのですが、千利休が使っていたものと同型の黒楽大黒茶碗という事ですよね?」


「いえ、実際に所持していた物だと聞いていますけど……」


「本当ですか? だとすると、凄く希少な物じゃあないですか?」


 鬼平は驚き顔で声を上げる。


「ええ、確か時価にすると数千万円するとかしないとか……」


「うおっ、す、数千万円! そんな高価な物が無くなっているのですか!」


 鬼平は興奮状態で辺りを見回した。


 確か大田原氏は九鬼家の末裔だという事だった。姓が違うから直系ではないのかも知れないし、大田原姓にした何らかの事情があるのかもしれないが、歴史に於いては九鬼家と利休に接点は確かにある。となると本当に利休の所持していた黒楽大黒茶碗という物の未公開品なのかもしれない。


「う~ん、そんな高価な茶碗が此処にあり、そして、無くなっていたとなると、一体どういう事でしょう? 物取りの犯行に見せ掛けようとしたか、はたまたその茶碗の価値を知らずに石代わりにして糸に結び付けて重石として海に放ってしまったとか……」


 九労は腕を組んで眉根を寄せつつ呟いた。




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