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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
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推理の奪い合い 弐

 中岡編集は泳ぐように手を動かし、銭形と鬼平の方を見る。


「な、中岡慎太郎の事は?」


「一応知識だけはありますけど……」


 鬼平は答え、銭形は同意の頷きをみせる。


「し、し、し、知らない? そ、そんな馬鹿な!」


 呆然としたかと思ったら、くわっと向き直り、あろう事か金さんを指差した。


「じ、じ、じ、じゃあ、金さんは、遠山金四郎景元の事は?」


 金さんは何か微かにほくそ笑むと表情を隠すかのように俯いた。


「それは知っています。だって有名ですから」


 福は答えた。


「じ、じゃあ、遠山金四郎が景元という名前だって事も知っていましたか?」


「そ、それは知りませんでしたけど、遠山金四郎が北町奉行のお奉行様だった事とかは知っていますよ」


「き、き、金さんは知っているが、中岡慎太郎は知らない?」


 福は頷いた。中岡編集は飽き足らず皆を見回す。


「だから、い、一応知っていますが、顔までは覚えていませんって……」


 忠正が呟く。


「うわあああああああああああああああああああっ!」


 中岡編集が叫んだ。


「そ、そんな馬鹿な! 知らない! 皆良く知らない! 顔までは知らない! な、なんて事だ!」


 中岡編集が怒りの視線で私達全員を見る。


「くそっ、くそっ、くそう! し、し、し、司馬先生のせいだ! 僕の方が頑張って橋渡しをしたのに! 僕の方が暗躍していたのに、僕の方が西郷さんと仲良くしていたのに! 僕の方が桂さんと親しかったのに! ひょうひょうとした龍馬が、ひょろっと良いところを持っていっちゃっただけなのに! そこをちょろっと司馬先生が取り上げただけなのに!」


 慟哭だ。なにか魂の叫びのようだ。


 しかしながら、それ中岡慎太郎であって、僕じゃあないだろうに……。


 中岡編集は呆然とした顔で天井を見詰め乞い求めるように手を伸ばす。一体どこを見ているんだ?


「嗚呼! 司馬先生、な、何故、一生懸命橋渡しをした僕を、なぜ、取り上げて下さらないんだ?」


 龍馬と内容が被っちゃうからじゃあ……。


「出来るじゃないですか! 燃えよ慎太郎! でも、慎太郎がゆく、でも、功名が慎太郎でも、坂の上の慎太郎でも、いくらでも書きようがあった筈だ!」


 なんだか必死だ。


「ほ、ほら、名前だって似てるじゃないですか、遼太郎と慎太郎、遼太郎と慎太郎ですよ。親近感があるじゃないですか! 龍馬なんて似てもいない。あっ、りょうが似ているか…… い、いや、違う! そんなに似ていない、僕達の名前の方が似ている!」


 中岡編集ははっとした顔をした。


「そうだ、鉄也さんだってそうだぞ! な、な、なんで陸援隊にしなかったんだ! くそう! 皆で龍馬ばかり可愛がりやがって! 中岡が可哀相だと思わないのか! 不公平だ! 不公平だああああああっ!」


 叫び疲れたのか、ふーふーと激しい息使いが鳴り響く。


 皆はそんなどうでも良い慟哭を続ける中岡さんを唖然とした顔で見ていた。


「な、何なんだこいつは? 何、訳が解らない事を云い続けているんだ?」


 九労と服部は戸惑いつつ声を上げる。


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