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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
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現場検証と妙な男 肆


 遺体を確認していた九労が大田原氏を見ながら気が付いたように声を上げた。


「あれ、そういえば凶器はどこっすかね?」


「えっ、凶器ですか?」


 鬼平と銭形が今、気が付いたような顔で周囲を見回した。


「そいうえば無いですね……」


 鬼平と銭形だけでなく、金さんや福や美由紀、忠正も周囲を見回した。私も見回すが確かに見当たらない。


「どこにも無いですね……」


 福が呟く。


「見当たりませんが、犯人が持ち去ったのじゃあないですか、それが何か問題でも?」


 銭形が改まって聞いた。


「問題があるわけではないっすがね……」


 九労は眉根を寄せる。


「返り血とかの問題ですか?」


 鬼平も質問する。


「いえ、浴衣の上から腹部を刺されているので、浴衣が抵抗になってそこまで血は噴き出さないと思います。なので返り血はそこまでではなかったと想像しますが……」


 そう呟きながら九労が床を見た。


「犯人は縛られていた大田原氏を刃物で刺した。そして、刃物を引き抜き去っていくと……」


 床には血の跡があった。大田原氏の足元には大量に、そしてそこから少し離れた場所に血をたらしたような痕跡が点々とあった。


「血の跡です。血の跡を追ってください。犯人のその後の動きを把握したいと思います」


 そう呟きながら九労は垂れた血の跡を追い始める。


 ぱっと見では犯人は返り血を警戒していたのか、血の付いた足跡のようなものは無かった。


 しかし隠し切れない痕跡として刃物から滴り落ちた血が僅かに残っているようで、九労は追っていく。


「変っすね…… 部屋の戸の方ではなく、船尾の方へ続いていますよ……」


 九労は垂れた血の痕跡を追った。私も部屋に入った際には血などを痕跡を踏まないように気を付けていたが、幸いな事に血は私達が通ってきた部分には殆ど垂れていなかったようだ。それもその筈、刃物から滴り落ちていた血痕は出入口方向ではなく、船尾に設けられている天守の縁に向かって垂れているらしい。


「う~ん、こっちに向かったようっすね……この辺りでは血の間隔は距離が開き、二メートル位か…… ん? おっ、なんだこれは?」


 九労は声をあげる。


「ほら、ここ、薄くて微かにですが、赤い線みたいな部分が見受けられますよ」


「えっ、線を引いたような跡ですって?」


 鬼平が問いただす。


「う~ん、若しかしたら、矢張り色々仕掛けられていたのかもしれませんね……」


 九労は眉根を寄せぼそりと呟く。


 そのままベランダのような縁に出る為の引き違い戸まで至った。その引き違い戸はガラスが嵌め込まれ、その前に障子戸が設けられていた。そして、その引戸は障子とガラス戸が片側が開き全開になっていた。


「あっ、あのベランダみたいな部分の中央にも血の跡がありますよ……」


 見付けた福が声を上げる。


「ほう、此処から一度外に出たみたいっすね……」


 ベランダのような縁には雪駄が置かれていたが、人数分は当然無い。


 九労は血の痕跡に気を付けながら、素足のまま縁に出た。縁の外周には高欄が設けられている。


「う~ん、暗くて細かい血痕はよく解らないな…… でも、ここら辺には殆ど見当たらないか…… 」


 高欄際まで進んだ九労が呟く。


 その特等客室の縁は船の最後尾に設けられていた。船の航跡を眺めるのは贅沢とされているので特等の船室の縁から気持ちよく眺められるようになっているようだ。ただ今は真夜中だ視線の先には黒い海が広がっているだけだった。


「もう、血の垂れた跡はないみたいですね」


 九労と一緒に動き回っていた鬼平も周囲を見回し、そして高欄の先に広がる海を眺めながら呟いた。なんとなく鬼平が考えている事が伝わってくる。


「ここから海に凶器を投げ捨てた可能性が高そうっすね……」


 鬼平も考えているだろう事を九労は口にした。傍まで来ていた皆は同意らしく揃って頷きを見せる。


「取り合えず室内に戻りましょう。今得た情報を元に再考察をするべきだと考えますよ」


「そうですね、今夜の潮風はちょっと寒いです」


 福は自分の両肩を手で摩りつつ抱いた。


 皆は遺体のある部分と血の垂れている部分は避けて、部屋の出入り口脇の一箇所に移動して集まった。


「何かで殴って昏倒させた上で、床の間の床柱に縛りつけ、そして、刃物で腹部を刺し、その凶器を引き抜いた上で、船尾側に進み、天守縁まで赴き、そこで凶器を海に投げ捨てた。その後は恐らく部屋の出入り口の方から出て行った。そんな感じじゃあないかと考えられます。ある程度は状況が見えてきたように思えます…… ただ何の為に柱に縛り付けたのかという謎は残り続けていますけどね……」


 九労は説明する。


「あ、あの」


 横にいた鬼平が手を上げて口を開く。


「色々状況が解ってきたのは良いですが、そもそも九労さん達に確認して頂きたかったのは、大田原氏の死亡推定時間と殺傷された時間だったと思います。先程のお話ですと、死亡推定時間は十時半頃から十一時頃、致命傷を受けたのは、そこから二十分程前である十時十分辺りから十時四十分ぐらいだと仰っていたじゃないですか、その時間にアリバイがない人間にもう一度細かく何をしていたかを聞いた方が解決が早いのではないでしょうか?」


「ま、まあ、確かに、死亡推定時間は大凡絞れたと思います。それはそうなんすが、

床柱に縛りつけ態々殺傷したという部分に、何か重大な事や仕掛けが隠されいる様な気がしてならないっすけれどね……」


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