更なる考察 参
「えーと、それでだな、君が風呂に入っている間も、色々検証を続けていたのだが、天の岩戸に於ける天が天子山地及び天子ヶ岳だと想定した上で、山中の地図を細かく調べ続けてみたのだが、困った事に岩戸らしきものも、龍口らしきものも見付からなかったよ」
私は大きく息を吐き、風呂の件から完全に気持ちを切り替える。
「……となると天の岩戸の天は天子ヶ岳を指すものではないのでしょうか?」
「いや、関係はあるのではなかと考える。だが真っ直ぐに当たっても駄目なのかもしれない。……それで、少々脱線するが古事記などに於ける天の岩戸と今回の天岩戸には何か関係があるのかというのを検証してみたんだ」
「なるほど」
私は古事記などに出てくる天岩戸の事をそれ程細かく知っている訳ではない。気になる所だ。
「神話に於ける天岩戸というのは、天照大御神が隠れたという話で有名である。岩戸と呼ばれたり、天岩屋と呼ばれたりすることもあるという。それは岩で出来た洞窟だと云われている」
「岩戸は洞窟の蓋なのですか、それとも洞窟そのものを指すのですか?」
岩戸と云われれば扉をイメージするが、岩戸に隠れたとなると戸の奥に存在する空間を指すものとも思える。
「どうやら洞窟そのものを指すようだな。そして、その天岩戸は古事記だけでなく日本書紀にも登場し、太陽神、天照大御神が岩戸に隠れてしまったために世界が真っ暗になってしまったという物語になっている」
「一応、話は知っていますよ」
「細かく説明をするとだな、古事記、日本書記では、悪さや乱暴ばかりを働く弟、須佐之男尊を愁いて、天照大御神が岩戸に引き籠ってしまう。その為高天原、葦原中つ国は真っ暗になってしまった。困った八百万の神々が天の安河の河原に集まって相談をした。思金神は常世之長鳴鳥を集め鳴かせ、鍛冶師である天津麻羅と伊斯許理度売命に命じて八咫鏡を作らせ、玉祖命には八尺瓊勾玉を作らせ、天児屋命と太玉命には天の香具山の茂った榊を掘り起し、その榊に八咫鏡と八尺瓊勾玉を飾らせた。そして天手力男神を岩戸の傍に立たせる。最後に天鈿女命が桶の上で音をたてて舞い踊った。その様子を見た八百万の神々が大声で笑った」
「色々やったんですね……」
「天照大御神は楽しそうな外の様子が気になり、岩戸を少し開け様子を覗った所、天手力男神が天照大御神の手を取り引き出した。すかさず天児屋命と太玉命は注連縄を取り出し、岩戸に注連縄を張り渡し岩戸に戻らないようにした。それにより高天原、葦原中つ国は明るさを取り戻し、須佐之男尊には罪を償わせる為に沢山の贖罪の品を課し、髪と手足の爪を剥いで高天原から追放した。と紹介されている」
「ところで高天原というのは何処にあるのですか?」
私には、そもそも高天原が良く解らない。
「高天原というのは天津神が住むという空の高いところにある場所だ。まあ天界に相当する場所だと云える。葦原中つ国というのが僕達人々の世界であり主に日本を指している。それと黄泉の国または根の国というものがありそれが地獄に相当する場所になる。この黄泉の国には太陽の光は届かないので、天照大御神が隠れようが隠れまいが、最初から真っ暗なのだ」
「天界、人間界、地獄のように、高天原と葦原中つ国と黄泉の国がある訳ですか……」
私は自分が理解しやすいように整理してみる。
「高天原は天津神が住んでいるというので上空だと目されている。それもあり日本国上にはないと思われる。しかし此処が高天原だったと訴える土地が幾つか存在している。奈良県南部の御所市高天、宮崎県高原町、宮崎県高千穂町などだ。いずれも山が高天原であると云い、御所市では金剛山、高原町高千穂町では高千穂連峰を指すと云われている」
「でも、日本に相当する葦原中つ国が出てくる以上、高天原が地上にあるとは考え辛い気がしますね」
名乗っている場所には申し訳ないが、地上には無さそうな気がする。




