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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第十章
221/539

最後の話し合い  参

 そんな明智女史を見据えつつ私は続けて声を発した。


「でも、明智さんは外へは出られていないと?」


 明智女史は腕を組み考え込む。そして、そのまま口を開いた。


「実を申しますと、私は、柴田さんからその言葉を聞いてから、ずっとその事を考えていました……」


 何度も指摘され、流石に気になっていたようだ。


「その柴田さんの私を見たという証言は、それ自体が虚偽だったのではないかと私は考えたのです」


「そ、そんな事ないぞ! 俺は見た確かに見たんだ!」


「し、柴田さん落ち着いて下さい。興奮しては駄目です。冷静に冷静にです」


 私は前で静止、中岡編集は肩を抱き、柴田は前に出ないようにしていた。


「ど、どうして、柴田さんが虚偽の証言をしたと考えられたのですか?」


 私は柴田を静止しつつ質問する。


「私は、その私を見たという証言についても考えていましたが、犯人が何の目的でこんな事をしているのか、一体誰が犯人なのかという事についても……」


 何か真に迫る流れの予感がする。


「そ、それは、今回の事件がどういった経緯で引き起こされ、犯人が誰かという事を明智さんなりに推理したという事ですか?」


 私は質問する。


「そうです。そして、その事に私を見たという事がその事に関わっている気がするのです」


 その明智女史の言葉を聞いた柴田は興奮状態の目付きから、一気に刺すような冷たい視線へと変わる。


「どういう事だよ、誰が犯人かを考えた所で、俺が虚偽の発言したと云うのかよ」


「ええ、そう推理しました」


「へっ、面白いじゃないか、推理…… 推理かよ…… じゃあどんな推理なのか聞いてやるよ、その俺が虚偽の発言をしたという部分もちゃんと整合性がとれた推理なんだろうな……」


 柴田は薄笑いを浮かべる。


「ええ、構いませんよ、織田さんの遺体が消えた事を知りましたが、その件のパズルが嵌りました。じゃあ、私の推理を発表したいと思います」


 明智女史は顔を上げ、柴田を見据えた。


「まず、動機の部分に関しては、閉ざされた島という事もあり、情報も遮断されていますから、正直絞りきれないと思います。ただ私や細川に関しては殺害される心当たりはありませんし、坂本さんと中岡さんに関しても心当たりはないのではないかと思いますけど、どうですか?」


「確かにそれに関してはありませんけど……」


 私は答える。中岡編集も頷いた。


「となると、矢張り柴田さん達御一行の仲間内での確執が今回の事件に絡んでいるのだと思うのです」


「でも、私共の平手や、仏師の森さんも殺されているじゃないですか? それに関してはどうして?」


 丹羽が手を上げて質問する。


「それは一度、平手さんの件の際にも言及しましたが、何か不利になる事や物を見られてしまったからではないかと思います」


「森さんもですか?」


 丹羽はもう一度聞く。


「多分、森さんもです」


 明智女史は答える。


「話を戻しますよ」


 明智女史は改まる。


「まず最初の殺人が起きました。朝、織田さんが布団の上で亡くなられていたという件です。これは誰でも出来た殺人でしたが、今となっては、本当に殺害されたか定かではありません。私が思うに織田さんはどこかで生きている……」


「い、生きている? でも、遺体があったじゃないですか? あの遺体は誰の遺体だっていうのですか?」


 私は驚いて質問する。


「実はもう一人殺されたであろう人間が一人います……」


「殺されたであろう人間? 誰ですか?」


 私には思い当たらない。


「それは私達をこの島まで渡してくれた船頭さんですよ」


「あっ、あの船頭さんですか!」


 今まで考えもしなかった。


「あの船頭さんは確か背は高い方だったと記憶しています。そして織田さんも背の高かった。また、あの船頭さんは五十歳位の印象で、織田さんたちは四十五歳前後の年齢だと聞きました……」


 明智女史が云わんとしている事が伝わってくる。


「船は沖で漂っていました。そして、人は倒れていたのか見えなかったと聞いています」


「確かに私もそう聞きましたね……」


 私は頷く。


「船頭さんが迎えに来ないのは、船頭さんが織田さんの遺体に成り代わり織田さんの部屋で安置されているからだと、私は推理したのです」


 流石に推理小説家だけの事はある。推理小説家として考えるであろう推理を持ってきた。

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