検証とするべき手立て 参
私は心を落ち着かせる為に大きく息を吐いた。そして再度説明をし始める。
「とにかく、森さんと滝川さんの殺害に関しては夜遅くから明け方に掛けて行われた事なので、誰がどのようにしてやったかまでは定かではありませんが、全員に犯行は可能だったと思うのです」
「まあ、そうだな…… 僕と坂本は相互確認をしているとはいえ、丹羽さんや柴田さんからは共犯だと思われても仕方が無いし、明智さんと細川さんも一緒の部屋に居たと云っているが、こちらも共犯だと云われても仕方がないだろう」
中岡編集は頷く。
「確かに、共犯の方が色々しやすいしな」
柴田が付け加える。そして、そのまま私に訝しげな視線を送ってきた。
「なあ、結局、全員にその可能性があるというのが多くて、全然絞り込めてないじゃないかよ」
「…………」
私は口を噤んでしまう。
「あ、あの、外部犯とかの可能性はやっぱり無いのでしょうか? 外部犯とか渡し舟の船頭が今回の件を起しているとか?」
丹羽が訊いてきた。
「何か心当たりでもありますかね? 外部犯に狙われたり、船頭さんの恨みを買うような事をしたとか?」
「いえ、特段ありませんが……」
丹羽の問い掛けに私は答える。
「……あっ、そういえば、俺達が船でこの島に運んでもらった時、船頭さんがちょっとイライラしていたぞ、船賃をケチった奴が居たとか何とか……」
柴田が思い出したように言及してきた。何だかそれ心当たりがあるぞ……
私は中岡編集に視線を向けた。中岡編集はバツの悪い表情をして顔を下げる。
「す、すみません。それはうちの中岡が原因かもしれませんね……」
私は頬を掻く。
「えっ、中岡さんが?」
柴田は中岡編集を見た。
「ええ、私は渡し賃を三百円で支払ったのですが、中岡編集は三百六十円を支払って、六十円の差が変だとお釣りを要求してしまったのです」
「えっ、三百円だと、俺達は一人六百円だと云われたぞ」
柴田が憮然とする。
「い、いや補足させて下さい。本来は六文相当をお願いしている筈ですが、あの者は謎掛けを楽しんでいる部分がありましてね…… ただお釣りを要求されるとは思ってなかったのでしょう。それもあり柴田さん達は解りやすく六百円にしたのかもしれません。ちょっと高いですけどね……」
丹羽が慌てて説明をしてくる。
ともあれ中岡編集のお釣り要求のとばっちりを柴田達が受けてしまったらしい。
「あんたお釣りを要求したのか? 俺は寺とか神社とかではお釣りは要求しないものだと聞いていたぞ」
柴田は眉根を寄せて中岡編集を見る。
「…………」
中岡編集はしょげかえる。
「それと、さ、去り際に変な歌まで歌われてしまいました。地獄行き~、地獄行き~ とかいう歌を……」
「おいおい、苛立たせてるじゃないか、それに地獄行きって、まさにそうなってるぞ!」
柴田は唸る。
「いやいや、渡し賃のお釣りを要求されちょっとイラッとした程度で、流石に人殺しはしませんよ、イラッとするぐらいで」
丹羽は慌てて制した。
「まあ、そうだな、流石にその程度で殺人は犯さないと俺も思うが……」
「…………」
中岡編集は苦虫を噛み潰したような顔だった。
「取りあえず、中岡さんの件は置いておいて、外部犯や船頭との確執とかに関しては思い当たる事はありませんよ」
丹羽は言い切った。
「じゃあ、矢張り、この島にいる人間の仕業かよ……」
柴田は猜疑の視線を私達と丹羽に送ってくる。
「そうなりますね」
私は躊躇いつつも答える。
「俺はやっぱり、あの二人が怪しいと思うぞ、夜に出歩いていたのを目撃したし、二人ならいくらでもアリバイも作れるし、前田や森さんを海岸や針の山まで運ぶのも二人ならやり易いだろうし」
「で、でも、佐久間さんを毒殺した際は一番可能性が低いと思われますよ、あの二人は」
「でもあんたが、引き手とかに毒を塗るのは誰でも出来るって云っていたじゃないか?」
「そ、それはそうですが、どちらかというと佐久間さんの椀に毒を盛ったと考える方が可能性が高いです。あの時、毒を仕込みやすかったのは丹羽さんと森さんだと思うんです。そして、一番仕込みにくかったのは明智さんと細川さんだと」
「わ、私はやっていませんよ! 本当にやっていません!」
丹羽は激しく首を横に振る。
「確かに、一番疑われそうな丹羽さんが毒を仕込むというのはどうかと思う部分はありますけどね……」
私は丹羽を見る。丹羽はそうだと云わんばかりに頷いた。
「う~ん、しかしながら、上手く絞りきれませんね……」
私は頭を掻く。
「……そ、そうしたら、少し私に検証する時間を頂けませんか? この宿坊の中の気になる点を再確認して、更に地獄巡りコースや、島の大外を巡って何か痕跡を探してみたいと思います。前田さんが殺害された場所が特定出来れば、少しは状況把握が進展するかもしれません。それと平行して、船着場の辺りと針の山地獄覗き辺りで狼煙を上げ、遠くからこの島を見た時救助を求めているというのが解るように木を並べたりしてみますから」
「そうだな、動いた方が良い答えが見出せるかもしれないしな、ただ、夕方には明智と細川にも出てきてもらって、行動説明をしてもらないと納得できないぞ」
柴田は憤る。
「ええ、流石に夕方にはお二人の意見を聞きましょう……」
私もその頃にはきちんと話し合った方が良いと思う部分はあった。
「じゃあ、私と中岡と、それと柴田さんはどうします? 一緒に行かれますか?」
「焚き火みたいなのをやるんだろ? 木を拾ったり運んだりする必要があるだろ? 手伝うよ ……そ、それと此処に残っていたら殺られそうな気がしてならない。あんたらと一緒に着いて行くよ」
「わ、私も一緒に行きますよ、一人で残っていたらいつ殺されるか解ったものじゃないですから!」
丹羽も縋るような顔を向けてくる。
「じゃあ、また皆で動き回りましょう」
「ええ、着いて行きますよ」
丹羽は頷く。
そうして、私達は動いて全体的な再検証を行う事になった。




