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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第九章
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検証とするべき手立て  弐

 私は説明を続ける。


「夕食時に至り、ここで更なる殺害事件が起こります。佐久間さんが食事の際、毒を口にして絶命してしまいました」


 中岡編集と柴田は肩を竦める。


「この件に関しては、広間、厨房辺りで毒を仕込まれたなら、料理を作った丹羽さん、それを運んだ森さん。同じ机の上で食べた柴田さん、滝川さんが怪しく思われます」


「な、なんだよ、もう滝川と森さんは死んじまっているから、丹羽さんか俺が怪しいって事になるじゃないか!」


 柴田は納得がいかないといった顔をする。


「まあまあ、落ち着いて下さい。それ以外のケースもありますから……」


 私は柴田を宥める。


「それ以外のケースとして、明智さんが言及されていましたが、佐久間さんの戸の引き手に毒を塗っておいたり、よく触りそうな物に毒を塗っていた可能性もあります。手に付着していた毒を食事時に間接的に口に入れてしまったという場合です。その場合ですと誰でも仕込む事は出来ますので、この場合は全員に犯行の可能性がある事になります」


「で、でも、それだと食事時以前に毒を口にしてしまう恐れもあるんじゃないのか?」


 柴田は首を捻る。


「その場合もあると思います。別に食事時に殺害しようと計画をしていたとは限りませんから、部屋で死んでいたら死んでいたで犯人としては構わなかったのではないかと思います。予告していた訳じゃありませんし」


「いや、でも、ほら、あの本堂に飾られていた仏像みたいなので予告みたいなのをしていただろ?」


 柴田は続けて聞いてきた。


「あの仏像ですか、う~ん、私的に思うのですが、あの仏像達に見立てふうに細工をしていますけど、予告としては機能していないと思うのですよね……」


「予告ではない?」


「ええ、殺害後に細工をされた場合と、殺害時のほぼ同時に細工された場合と、殺害後しばらく経ってから細工をした場合なんかもあるように思えるのです。我々がいつその細工に気が付くのかは予想できませんからね、また、それを必ず行うとすると、その場所で張られて足が付く恐れもあるでしょう。見たところ、時間に余裕がある時に細工をしているように見受けられます」


「でも、態々その仏像に細工するのに何の意味があるのだ?」


 柴田は眉根を寄せる。


「我々の恐怖心を煽る為でしょう。それと像は十体ありますから、十人までは殺害が続く事を示唆していると……」


「えっ? 十人まで殺害するのか?」


「いえ、そこまでは解りませんし、私は殺されるつもりはありません。私としてはここで終わらせたいと思っていますけど……」


「ちょっと待てよ、俺達五人と坂本さん中岡さん、明智さんと細川さん、平手さんと丹羽さん、それと森さん。全部で十二人いる、それで今殺されたのが織田、前田、佐久間、滝川、平手さん、森さんの六人だ。となると、あと四人が殺されるのかよ!」


 柴田が動揺気味に叫ぶ。


「いえ、これだけ人数が限られてきているというのもありますし、疑心暗鬼という怖い心理状態も生み出します。我々の同士討ちを狙っている可能性もあります。ですから本当に気を付けなければいけません」


「疑心暗鬼か…… 確かにその境地に陥りそうだな……」


 柴田は顔を横に振る。


「話を戻しましょう。その後、皆さん部屋に入り、戸溝に傘を挟み戸を開かないようにしておいて就寝しました。柴田さんと滝川さんは別々に、森さんと丹羽さんも別々に、明智さんと細川さん、私と中岡編集は一緒の部屋に籠もりました。その夜中に次の殺人が起きています。滝川さんの頭を鉈で割り、詳細までは解りませんが、森さんを部屋で打撃を与え昏倒させた後に、針の山地獄覗きから突き落としたと…… これは死亡してから突き落としたのか、突き落とされた事により死亡したかは解りませんけれど……」


 私は説明をしながら、あの優しく肩を抱いて私を綺麗だと云ってくれた森を思い出し、思わず涙が頬を伝った。


「あれ、あ、あんた泣いているのか?」


 柴田が私の顔を覗き見る。


「あんた、森さんが好きだったもんな……」


 この男は一々私の恋心に土足で踏み込んできやがる。


「え、ええ、好きになってしまいました。一目惚れでした……」


 私はもう告白する。もう堂々と告白しよう。私の儚い恋心をあなたの死に捧げましょう。


「……まあ仕方が無い、初恋は実らないというのが相場だからな、諦めたまえ」


 横で中岡編集が囁く。


「初恋なんかじゃ!」


「えっ、初恋じゃなかったのか?」


「いえ、初恋ですけど…… って、もうどうでも良いじゃないですか! 私のメンタルな部分は放っておいて下さいよ!」


 私は叫ぶ。


「わ、解ったよ、云い過ぎたよ…… ただ、いずれにしても諦めるしかないな…… まあ、あの程度の男は他にいるさ……」


「そうだな、他にもっといい男は沢山いると思うよ、あの程度よりいいのが……」


 中岡編集だけでなく柴田も言及する。


「あ、あの程度だと?」


 私は目を引ん剥く。


「あ、いや、人物としての話じゃなくて、ご面相な、ご面相の話だぞ」


 中岡編集が言い訳がましく云った。


「ば、馬鹿云ってんじゃないわよ! あんな人、早々居ないわよ! あんなに爽やかなイケメンで、背も百八十以上ある、あんな私の理想のタイプは早々居ないわよ! あの程度? どの顔がそれを云う? 中岡さん、あなた自分の顔を鏡で見たことあるのか? 中岡慎太郎どころか落語家みたいな顔しやがって! そっちのあなたも馬みたいな顔のくせに、よくあの程度とか云えるわよ!」


「う、馬みたいな顔だと! 慰めてやったのによ!」


 柴田が目を見開き腰を浮かす。誰も慰めて欲しいだなんて云っとらんわい!


「ええい、もう、お、お前が犯人だ!」


 柴田が叫んだ。何云ってるんだ!


「違うわよ!」


 場が一瞬のうちに騒然となった。


「まあまあ、落ち着いて下さい。疑心暗鬼ですよ、疑心暗鬼、今一番熱くなってはいけない時です。落ち着きましょう冷静になりましょうよ」


 丹羽が手の平を私達に向けて静止を促してくる。


「も、もう、私の恋の話は終わりです。終わります。話を戻します」


「ああ、そうしてくれ、もう脱線はこりごりだ」


 柴田は腰を降ろす。一体誰が脱線させたと思ってるんだよ!

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