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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第八章
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衝撃的な事態  肆

 滝川は部屋の壁に寄り掛かった状態で座ったような姿勢だった。目は驚きの為か、かっと見開かれていた。そして、その額には分厚い鉄で作られた鉈が食い込んでいた。見るも無残な姿だった。


「た、滝川さんが死んでいる…… い、いや、殺されている……」


 中岡編集は再確認するかのように呟く。


「こんな事になっていたなんて……」


 私は手で口を押さえた。


「うわっ、うわああああああああああああっ!」


 柴田が頭を抱え、発狂したかのような大きな叫び声を上げた。


「はあ、はあ、はあ、はあ……」


 柴田は呼吸が落ち着かず。激しく動揺している。


「何なんだよ! なんで滝川まで! どうしてだよ、どうしてこんな目に合わされるんだよ、も、もう嫌だ、嫌だ……」


 柴田の全身がガタガタ震えている。恐怖が全身を襲っている事が見て取れた。


「し、柴田さん、落ち着いて、落ち着いてください……」


 中岡編集が少し冷静な声を上げて柴田を宥めようとする。


「で、でも、でもよう……」


 私は意を決して滝川の遺体に近づいた。森が殺害された事で、私の心に怒りと復讐に似た感情が湧き上ってきていた。滝川にまでこんな事を行った犯人をいち早く捕まえて、その罪を問い正したいという気持ちが高まってきていたのだ。


 私は滝川の遺体の傍にしゃがみ、滝川の遺体を監察し始めてみた。そんな大それた知識がある訳ではないが、死後硬直の具合や、体の温度などを調べてみようと考えたのである。


「た、確か死後硬直というのは、死後二~三時間で始まる筈です…… 」


 私は手を添え、滝川の首を少し持ち上げてみようとする。しかし遺体は随分冷えていた。そして、首は硬くて殆ど動く気配はない。そんな私の動きを、滝川の顔は恐怖と憎悪の入り混じった表情で見詰める。


「ごめんなさいね……」


 余りの形相に私はすぐに手を離した。


「触った温度、死後硬直の具合、全体的な感じからすると、死後随分経過しているように見受けられますね、多分十時間程経過した状態のように思えますね」


「し、死後十時間だって? それだと計算が合わなくないか?」


 中岡編集が怪訝な顔をする。私は瞬時に固まった。


「えっ、計算が合わないってどういう事ですか?」


 横で丹羽が質問した。


「だ、だって、今十一時ですよ、僕達が森さんを探しに出掛けたのは九時ごろじゃないですか?」


「ええ、そうでしたね」


「その三十分程前に、僕達が森さんを探しつつ、この部屋に来て、森さんを探しに行こうと誘いに来たとき、滝川さんは居たじゃないですか、そして柴田さんの問い掛けに答えていた……」


「で、でも、滝川さんの遺体の硬直具合と冷え具合から考えますと、二時間半とかそんな状態ではないですよ、もっと冷えていて硬くなってます……」


 私は声を上げる。


「で、でも、あの時、柴田さんは滝川さんと会話をしていたぞ……」


 中岡編集は強張った顔で皆を見回す。怖気の立つようなやり取りをしていた事に気付かされた。


「ということは、あの時、俺の声に返事をしたのは滝川ではなくて、滝川の部屋に潜んでいた殺人犯がいて、その殺人犯が滝川を装って返事をしたと云うのか?」


「そ、その可能性がありますね……」


 私は頷く。


 とんでもない事態だ。滝川が死んだのは恐らく夜中の一時とか二時頃なのだろうと思われる。朝の八時半頃なんの目的かは解らないが、犯人らしき人物が滝川の部屋に潜んでいた。一体なんの為に?


「と、兎に角、明智さんと細川さんの部屋にも行ってみよう。彼女達の身も心配だ」

 

 中岡編集が言及する。


「そうですね、行きましょう」


 私は同意する。何も起こっていなければ良いが……。


 そうして、我々は滝川の遺体に傍にあった布団を被せ、滝川の部屋を後にした。


 廊下を進み、私と中岡編集の部屋、そして細川女史の部屋の前を通過して明智女史の部屋の前に至った。


 中岡編集が戸をコンコンと叩き、中に声を掛けた。


「僕だ。中岡だが。ちょっと話がしたい。出てきてもらえないだろうか?」

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