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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
200/539

緊迫した空気  捌


「さておき、森さんの部屋を確認させて頂いた上で、その道具箱というのを回収したいと思います」


 明智女史は話を戻そうと言及してきた。下手に庇おうとして、なんだか恥かしい思いをしただけな気がするぞ。


 そうして、皆で丹羽の部屋を確認し、寺男の平手の部屋を確認し、仏師の森の部屋を確認した。森の部屋では確認後に木槌や鋸などが入った道具箱を回収するに至ったが、丹羽の部屋でも平手の部屋でも、森の部屋でもさして怪しい物は出てこなかった。更に浴場、外の物置なども確認するも特に怪しい物は発見されなかった。


 宿坊内の凶器探索が終わると、面倒ではあるが一度全員で連れだち船着場まで赴く。そして、そこで道具箱から鋸や鑿、そして台所にあった包丁を取り出し、力の強い男性陣である、森、柴田、中岡編集、滝川で一本つづ、力いっぱい海へと投げてもらった。近くに落ちないように色々な方面に投げてもらう。ここまですれば凶器を探すのは至難であるし、海に潜ってまで探せばずぶぬれになり痕跡が残る筈だとも云えた。


 そして、更にその場で船が近接してこないか、はたまた前田氏が居ないかを再確認するも、その気配は全く無かった……。


 それが終わると一同で広間へと戻る事となった。織田氏の遺体を発見したのは朝だが、船を見に行ったり、その船を見に行って行方不明になっている前田を探しに行ったり、各部屋に入り込み凶器がないかどうかの探索をしたりしているうちに、もう夕方になっていた。


「こ、これからどうしましょう? このまま今晩もこの宿坊で過ごす事になりそうですけど、まだ島の探索を続けますか? それとも屋内の凶器は処分しましたから、屋外に通じる出入り口を全て閉ざした上で、屋内に籠もり身を守るようにしましょうか?」


 明智女史が皆を見つつ質問する。


「でも、もうすぐ日が暮れてしまいますよ、暗い中外を出歩くのは危険だと思いますし、探すのも困難なのではないでしょうか?」


 丹羽が言及する。その言葉からはもう行きたくないという気持ちが滲み出ていた。


「そうですね、もう夕方だし、探索の方は諦めて、自己防衛の方に力を入れましょうよ」


 柴田も丹羽と同意見らしい。


「そうしたら、屋外に出る戸を閉ざし、外部から人が侵入出来ないようにした上で、これから明日の朝まで過ごすという事で良いですか?」


明智女史の問い掛けに、皆は納得の様子で頷いた。


「あ、あの、昼食は摂り損ねてしまいましたが、夕食はどうしましょうか? 食べずに過ごします? それとも仰られていたように雑炊でも用意致しますか?」


 丹羽が思い出したような顔で聞いてくる。


「そうですね、食べないと体力的に厳しくなりそうだし、では雑炊をお願い出来ますか?」


「ええ、勿論です。それと毒なんて間違っても入れませんから安心してください。まあ毒なんて、そもそも此処には有りませんし、私が毒を入れる気なら、昨晩の夕食の時に入れている筈でしょ? そんな事間違ってもしませんから信じてくださいね」


 丹羽は真剣な顔で言及する。


「ええ、信用するつもりです。宜しくお願いします。丹羽さん」


 明智女史は答える。


「皆さんもそれで良いですね? 食べたくない人は食べなくても良いと思いますし……」


 そう云われると同意する他はない気がする。皆も同意見なのか頷いてそれに応えた。


「丹羽さん、夕飯の時間は何時にしますか? 雑炊なら温かい内が良いですよね? 何時ごろなら大丈夫ですか?」


「そうですね、六時頃なら用意できると思いますが」


「じゃあ、夕飯を摂りたい方は、六時に広間に集まるという事にしましょう」


 皆はまた頷いて応えた。


「六時まではどう過ごすんだ? 一人ずつで部屋に篭もるのか?」


「それは自由にして良いんじゃないですか? 私は細川の方と一緒に過ごす予定ですけど、柴田さん達は一緒でも別々でもご相談して決めてください」


 明智女史の説明に、横にいた細川女史は小さく頷いた。


「私は、丹羽さんを一人にするのは心配なので、一応広間にいるつもりです。手伝う事があるようなら、手伝いをするつもりです」


 仏師の森は手を挙げて言及する。


「じゃあ、私も広間に……」


 私が云い掛けると、中岡編集が手で遮ってきた。


「ちょっと待ってくれ、僕は君とちょっと話したい事がある。一緒に僕の部屋まで来てくれ」


「えっ、話ですか?」


「そうだ。話があるんだ」


 いつになく真剣な眼差しで中岡編集が私を見る。


「ま、まあ、解りましたよ」


 私は頷く。そんな横で、柴田達はどうするか相談を続けていた。


「俺は三人で一緒に居た方が良いと思うんだけどさ……」


「……お、俺は一人の方がいい」


 柴田の声に佐久間が返す。


「僕はどっちでも良いけど……」


 滝川は頬を掻いた。


「そしたら俺と滝川は滝川の部屋に行って一緒に過ごすけど、佐久間は一人で良いんだな?」


 佐久間は頷いた。どうやら分かれるらしい。


「じゃあ、俺等の方も話が纏まったんで、六時に広間で……」


 柴田が云う。


「あ、あの~」


 佐久間が徐に手を挙げた。


「つっかえ棒は何を使えば良いのでしょうか?」


「そうですね、じゃあ傘なんかはどうでしょうか? ある程度本数も見込めますし、長さも丁度良さそうですし、一本じゃ心許ないなら何本か使えば良さそうですし」


 明智女史が提案する。


「丹羽さん、傘って、ある程度の本数ありますか?」


「ええ、受付の所に二十本位あります。それをお渡ししますから各自お持ち下さい」


 そうして広間から出て、受付で傘を数本づつ持ち、それぞれの待機場所に向かって行った。


 広間と厨房には丹羽と仏師の森が残り、明智女史と細川女史は明智女史の部屋に、佐久間は一人、柴田と滝川は滝川の部屋に、そして私と中岡編集は中岡編集の部屋へと向かう事になった。


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